十六話〈リターン:安瀬神縁〉
「面倒ごと? 僕だって別に暇なわけじゃないんだけど……」
エベット大陸についてすぐ、パットからの通信が入った。
今まで繋がらなかったというのに、自分の用件となればすぐにこれだ。まったく自分勝手なヤツだと思う。
『ポルトスの北に大型のアーマードギアが出現した。エルアと共に出向いて迎撃して欲しい。たぶんパイロットはディオーラだろうから、そう簡単にはいかないが』
「ディオーラだって? さっき俺が倒したんだ、それはあり得ない」
『ディオーラはホムンクルス、まあ言ってしまえば人造人間だ。おそらくは一体の素体からクローンを生成したんだ。何十、何百、もしかしたら何千という数がいるかもしれない』
「そんな、バカな……」
三嶽神が何千? 信じられるわけがない。それだけで僕たちを制圧できるくらいの力があるじゃないか。
『ただし、個体によって性能差があるようだ。お前と戦ったのは最低個体だったとか』
「でもあの感じは間違いなく三嶽神のものだった。肌に突き刺さるような殺気、全身が感じる魔法力。あれが最低個体? あり得ないだろ」
『本質的にはディオーラだ。相手を威嚇する方法や魔法力の使い方なんかはわかってるんだろう。ようは底の深さの違いだ。弱い個体も強い個体も、放つ殺気に大差はないのかもな』
「また頭が痛くなるような話だな」
『まったくだ』
「いやいや、要因の一部にキミも入ってるから」
『嘘をつけ、そこがまたいいと思ってるくせに』
「もう好きにしてくれ」
「エニシ様!」
そこで、エベット基地の軍服に身を包んだ軍人に話しかけられた。
「どうしましたか?」
「お話中のところ申し訳ありませんが、ポルトス北部に出現した大型アーマードギアがこちらに接近しているという情報が入りました。他の大陸に目もくれずに直進してきているので、この基地を狙っているのは間違いないかと」
「なるほど。ありがとうございます。あとはこっちでなんとかしますよ」
「はい、一応こちらも兵を用意しておきます」
「ええ、よろしくお願いしますね」
キビキビと立ち去る軍人の背中を見送り、パットとの通話に戻った。
「聞いたか?」
『もちろんだ。エベット基地が俺たちの拠点だと知ってのことだろう。到達されたら終わり。できるだけ基地から離れた場所で迎撃しないとならんだろう』
「大型ってことは、それだけ攻撃力が高いだろうしね。まあ、なんとかしてみるよ」
『俺が行動できればいいんだが、俺はアーマードギアが使えないんでな』
「キミは王様になるんだろ? だったら無理するなよ」
『すまないな、信じてるぞ』
「改めて言われると気持ちが悪いな」
『どれだけ酷いことを言ってるか気づいてるのか、お前は』
「理解した上で言ってるよ。それじゃ、行ってくる」
『ああ、俺もできるだけ早く向かおう』
「期待しないで待ってるよ」
通話を切り、すぐさまハンガーへと向かった。エルアの手を取って走りだし、到着までに用件を説明。真面目な彼女のことだ、なんだかんだと納得してくれたらしい。
アルクノスを装着したままで出撃。クラレールを牽引しながら巨大熱源へと飛翔した。基地の周囲を一般兵で固めてもらい、それよりも前列にスナイパーを配置。僕とエルアを支援するような陣形を取ってもらった。が、基本的に大型アーマードギアの相手をするのは僕たち二人だけだ。
特定の距離まで接近した時、大型アーマードギアから通信が入った。
『お前がエニシだな』
この声は間違いなくディオーラだ。しかし語調が強く、気性が荒いのかと思わせられる。
「ああ、そうだよ」
『私たちの一人を倒したらしいな。最低個体つっても、今まで一緒にやってきた仲間なんだ。仇はとらせてもらうぜ、覚悟しな』
「それは僕たちも同じだ。他の世界を引っ掻き回して、そんな傍若無人な振る舞いを許すわけにはいかないんだ」
『人には人の思考がある。私たちはライオネル様に作られたんだ。あの人は父であり、神なんだよ。だから私たちはあの人のために戦う』
「僕たちにも、キミたちとは別の思考がある。自分の欲望を果たすために他人を犠牲にするなんて許せないよ。だから、僕たちは弱い人たちのために戦う。僕が強いって言ってるわけじゃない。僕は行動できるから、行動できない人たちの盾になるんだ」
『自己犠牲が美しいことだなんて思い上がりもいいところだな!』
「それは君たちも一緒だ。ライオネルのために自分を犠牲にするのだから」
高速で接近する大型アーマードギア。その形がわかるまでに接近した。まだまだ遠いが、レーザービームなんかを使えばしっかりと狙える距離だ。
「行くぞエルア! リュノア!」
「「任せて!」」
そう言いながら僕は剣を抜いた。
アルクノスにはリュノアを乗せた。彼女は整備士でありながら、正規軍パイロットのライセンスも持っているらしい。
大型アーマードギアから放たれるレーザービームを避けながらアルクノスと分離。エルアを僕の後方に配置した。
近づくほど、その大きさが露わになっていく。見た感じディオレットの十倍、いや二十倍を余裕で超える。球体のような本体から、四つの太い腕が伸びている。球体の真ん中を黒いラインが走り、その中を緑の光がいったりきたりしていた。
時にシールドでレーザーを防ぎながら最高速で接近し、思い切り剣を叩きつけた。しかし、その攻撃は見えない壁に防がれる。これは祠導術ではない。おそらくはこの機体が持つ機能なのだろう。大型だからこそ、回避よりも防御に重点を置いている。
「っ!?」
突如、なにもないところに光の球体が出現し、それがビームとなって放たれた。ビームそのものが細かったのと反応が早かったので回避はできた。が、このよくわからない攻撃をされると攻撃しづらい。
防御と攻撃を同時に行えるというのはとても厄介だ。この大きさを補うだけの設備があるのだと念頭に置いておかなければ一瞬で落とされてしまうだろう。




