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バンドガールの恋心2

前書きというほどでもないですが、最近人手不足で仕事が大変です。

イベントの合間、健太のスマホが鳴った。

画面を見ると「浅川工務店」からだった。

健太は少し離れた場所で電話に出た。

「お疲れ様です。健太です」

相手は丁寧に頭を下げたような声で言った。

「お世話になっております。すみません、本日お越しいただく予定でしたが、急で予約が入ってしまって……すみませんが明日でもいいでしょうか?」

健太は気さくに答えた。

「いいですよ。明日の何時ですか?」

「明日の12時でよろしいですか?」

「大丈夫ですよ、明日よろしくお願いします」

「すみません、ありがとうございます。失礼します」

電話が切れると、みよりが気付いて近づいてきた。

「今の電話って工務店の人?」

健太が頷いた。

「今日の予定はキャンセルだって。残りの時間はイベントに参加しようか?」

みよりは笑顔で元気よく返した。

「うん!」

健太は二人の様子を見ながら聞いた。

「どうする? このまま演奏聴いて行く? 俺は直売所行って一度自分の野菜の様子見てくるけど」

ゆかり「私はこのまま聴いてるわ」と優しい笑顔で返すと、みよりが「じゃあ私も聴いてる!」と返した。

健太「じゃあ見終わったらこっち来て」

と言うと道の駅の店内に向かう。

健太は野菜の直売所に戻り、自分の野菜を売り込んでいた。

先程、ステージの設営を手伝ってもらった女子生徒や、その友達が直売所にやって来た。

「家族の為に野菜を買って行こうかな……」

と野菜を選ぶ彼女たちに、健太は笑顔で声をかけた。

「買ってくれてありがとう! 美味しく食べてね」

その瞬間、先程の女子生徒は顔を真っ赤にして視線を逸らした。

それを観た周りの生徒たちが、小声で囁き合った。

「あぁーこれは重症だわー……」

「まぁ私達普段男と関わりがあるのって先生くらいだしね。しかも内の先生おじさんばっかりだし!」

「ここは友達として手伝ってあげますか?」

そう言って、一人の生徒が健太に話しかけた。

「これ全部育ててるんですか?」

「農家さんって朝早いんですか?」

と次々に質問を投げかける。

ある程度話が弾んだ頃、彼女たちはニヤニヤしながら先程の女子生徒を健太の前に押し出した。

「実はこの子が話あるらしいんで、今少し時間いいですかぁ?」

女子生徒は顔を真っ赤にしたまま、健太の前で小さく頭を下げた。

健太が周りを見回して言った。

「ここで集まっちゃうとお客さんの迷惑だし、外行こうか?」

そう言って、店の外に全員を連れて行った。

外の自動販売機で飲み物を買い、

「何か飲むかい?」

と聞くと、皆が「飲みます!」と言いながらそれぞれ飲み物を選んだ。

「ありがとうございます♪」

と全員が頭を下げると、先程の女子生徒が少し緊張した様子で話しかけてきた。

「あの、私佐藤美羽って言います。お聞きしたい事があって……先程ライブで一緒にいたお二人とはどう言う関係なんですか?」

健太は苦笑いしながら、心の中で思った。

(どう説明するかなぁ……まだ正式に籍は入れてないけど、あの夜の事を思うと付き合ってないとも言えないし……)

悩んだ末、健太は穏やかに答えた。

「大事なパートナーだよ。二人共ね!」

美羽は驚いたように目を丸くした。

「え? パートナーって、結婚とか付き合ってるじゃなくって? どう言う事ですか?」

「あんまり詳しくは言えないけど、二人共特別な存在なんだ」

美羽は心の中で激しく混乱した。

(なんだろう? 言い方が引っかかる……。

これが大人の付き合い方? もしかして噂に聞くキープってやつ?

でもでも……そんな人には見えないし……うぅ〜どう言う事なの? 気になりすぎる……)

一方、友達の方は健太と美羽の話が聞こえないのか、小声で囁き合っていた。

「なに話してるんだろう?」

「あれは脈なしじゃない?」

「てかあの人、さっき女の人2人連れてなかった?」

そこに、涼子率いるチェリーキッスのメンバーがやって来た。

周りで観ていた女子生徒たちに、涼子が好奇心たっぷりに話しかけた。

「なになに? なんの集まり?」

一人の女子生徒が興奮気味に答えた。

「美羽が告白するんだって!」

美咲が目を丸くして、

「え? まじで? てかあの男の人、さっき設営手伝ってくれた人じゃん!

私も気になってたんだよね!」

あかりは少し心配そうに、

「でもさ、あの人演奏中に女性二人連れてたよね。しかも二人共結構近い距離で肩寄せ合ってたし……遊び人なんじゃない?」

女子生徒がうんうんと言いながら「それ私も思った。でも流石に親戚とかじゃない?」と言うと、あかりが「そう言う感じの近さじゃなかった気がするけど」と首を傾げながら言う。

美月は笑顔で「私はそうは見えないけどなぁ〜。なんか、優しそうな雰囲気だったよ」

女子生徒たちはさらに盛り上がり、

「でも美羽が本気なら応援したいよね!」

と小声で話した。

美羽は深く息を吸い、勇気を振り絞って言った。

「好きです! 一目惚れしました。付き合ってください!」

そう言って、健太の顔を真っ直ぐに見つめた。

健太は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに優しく、けれどはっきりとした声で答えた。

「ごめんね、付き合えないよ。

僕には将来を共にするって、ずっと守るって約束した人達が居るんだ」

美羽の目から大粒の涙がぽろぽろと溢れた。

「そうですよね……ごめんなさい……」

彼女は涙を拭いながら、友達のところへ駆け寄った。

友達たちは美羽を抱きしめながら、

「大丈夫だよ……頑張ったね……」

と慰めた。

健太は申し訳なさそうに頭を下げ、静かにその場を離れた。

その後、美羽を慰める友達たちが集まってきた。

「よく頑張ったね、えらいえらい!」

と頭を優しく撫でながら、一人が言った。

「美羽を振るなんて見る目ないよ、あの人!」

別の子がフォローするように、

「そうだよ! 美羽みたいな可愛い子を振るなんて、損してるよ!」

チェリーキッスのメンバーたちも美羽を慰める。

涼子が美羽の肩を抱きながら、

「美羽ちゃん、勇気出して告白したんだね……すごいよ! 落ち込んでる顔も可愛いけど、笑顔の方がもっと可愛いよ?」

美咲が元気よく、

「次はもっと良い人に出会えるって! 私達も応援してるからね!」

あかりは静かに微笑みながら、

「一目惚れって素敵だよね。美羽ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わったと思うよ」

美月も優しく、

「泣きたい時は泣いていいんだよ。でも私達がいるから大丈夫!」

美羽は涙を拭きながら、みんなの優しさに包まれて小さく笑った。

「みんな……ありがとう……」

道の駅の賑わいの中で、少女たちの温かい友情が、静かに輝いていた。

後ろから近づいたみよりとゆかりが、同時に健太の背中をパンチした。

「この即堕ち製造機!」

健太はびっくりして振り返り、

「痛ってぇ……あれ? 二人共演奏見てたんじゃないの?」

ゆかりは腕を組んで、不機嫌そうにふんと鼻を鳴らした。

「観てたわよ。終わったから様子見に来たら、浮気現場に遭遇したってわけ」

みよりも呆れた顔で、冗談混じりに言った。

「なぁーんか不安になってきた。本当にこの人で良いのかなぁ〜?」

健太は慌てて手を振った。

「誤解だ誤解! ただ設営を手伝って、野菜の話をしてただけだって!」

二人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。

ゆかりが少し頰を膨らませながら、

「わかってるわよ。でも……ちょっと心配になっちゃった」

みよりも健太の腕に絡みつきながら、

「私達の健太君は即堕ち製造機だからね。しっかり見張ってないと!」

健太は苦笑いしながら、二人の頭を優しく撫でた。

「心配かけてごめん。俺は二人だけだよ」

道の駅の賑わいの中で、三人の関係は少しずつ、温かく深まっていった。

その様子を遠目で見ていた学生達は、ヒソヒソと声を潜めて話していた。

「やっぱりおかしいよ、あの3人……親戚の雰囲気じゃない」

「付き合ってるのかな、3人で?」

「まさかぁ、ハーレム漫画じゃあるまいし」

そこへ、チェリーキッスのメンバーも加わってきた。

美咲が目を細めて、

「でも絶対あの距離感おかしいでしょ?」

あかりが思い出したように、

「ほら何処だっけ? 外国のどっかだとお金持ちの男の人に妻が沢山居るって聴いたことあるよ」

美月が笑いながら、

「それってドラマの大奥の事じゃないの?」

涼子は黙ってその会話を聞いていたが、突然肩をプルプルと震わせ、下を向いた。

次の瞬間、顔を上げてきっぱりと言った。

「不誠実だよ! 二人の子と付き合うなんて、どうせ、(どっちかが一番なんて決められないよ! 2人一緒になろう)とか言う優柔不断な理由でしょ!

ちょっと説教してくる!」

そう言って、涼子は意気込んで三人の元に向かっていった。

3人が軽く談笑している所に、涼子が少し緊張した様子で近づいてきた。

「あの、すみません。ちょっと良いですか?」

ゆかりが穏やかに微笑みながら、

「貴方は確かチェリーキッスのボーカルの……」

涼子は軽く頭を下げて、「高橋涼子です。お兄さんに聞きたい事があります」

そう言って、健太を指さした。

「お兄さんはお二人と付き合っているんですか? 勿論どっちか一人とですよね?」

健太が返事をしようとした瞬間、ゆかりが静かだがはっきりとした声で言った。

「私はこの人の妻よ! そしてこの子ともパートナーなの」

みよりもニコッと笑って、

「因みに私もこの人の妻だよ!」

その瞬間、涼子の頭の中で大パニックが起きた。

(えええええ!? 妻!? 二人共!?

しかもお姉さん二人共パートナー!? どういうこと!?

polygamy!? いや、日本でそんなの合法なの!?

待って待って待って……この人、さっき設営手伝ってくれた優しそうな人じゃん!

なのに二人を妻って……!? もしかして宗教? それともSF? 夢?

頭痛い……頭痛いよぉぉ……!)

涼子は一瞬固まり、目がぐるぐる回りながら、

「はい……?」

と間の抜けた声を出した。

顔が真っ赤になり、口をぱくぱくさせながら後ずさりしかけた。

ゆかりとみよりが大きな声で宣言したので、後ろで見ていた女性生徒たちとチェリーキッスのメンバーも、興味津々で近づいてきた。

「え? どういう事ですか? 3人で結婚してるって事ですかぁ?」

「どういう経緯なんですか? てかそれ合法なんですか?」

と一気に質問攻めされる。

健太は苦笑いしながら手を振った。

「いやいや、落ち着いて……」

みよりは楽しげに、

「詳しくは言えないけど、特別な関係なんだよ〜!」

ゆかりも穏やかに微笑みながら、

「ええ、貴方達も大人になればわかるわ。好きな人と過ごすことに理由なんてないの!」

と言うと女子生徒達が「きゃーーー」と黄色い声をあげる。

涼子は後ろの方で呆然と呟いた。

「……大人ってすごい……」

周りの女子生徒たちは目を輝かせてさらに詰め寄り、

「どうやって出会ったんですか!?」

「羨ましい……!」

「詳しく聞きたいです!」

と大騒ぎになった。

健太は頭を掻きながら、

「みんな、ちょっと待って……」

その姿を見て、あかりは信じられないという顔で見ていた。

(好きな女性がいるのに男と付き合うなんて……ありえない……)

あかりは小さく声を出し、皆から少し距離を置き、一人だけ離れようとした。

みよりがそれに気付き、

「ねぇ待って!」

と呼び止めた。

あかりは少し不機嫌そうに振り返り、

「なんですか?」

みよりは明るく笑顔で、

「なんとなく、皆の輪に入ってなかったから声掛けちゃった。私、綾瀬みより! よろしくね!」

あかりは少し戸惑いながら、

「……鈴木あかり……です」

みよりは駐車場の近くにあるブロック塀に座りながら、

「あかりちゃんって言うのか? ねぇ、ここ座らない?」

あかりも無言で隣に座った。

二人はしばらく無言で、遠くのステージの方を見つめていた。

みよりが優しく声をかけた。

「なんか……辛そうだったね」

あかりは少し冷たい視線をみよりに向け、

「そうですか? 寧ろ辛いのはお姉さんの方じゃないですか?

どういう理由があるかは知らないけれども、自分の好きな子を男に渡したんでしょ?

あまつさえ自分も妻だとか自称しちゃって、あの人も本当にいい趣味してますね。

レズの女の子を奪って、好きだった子を隣に置いとくなんて……」

そう言いかけた瞬間——

パチン!

乾いた音が響いた。

みよりがあかりの頰を平手で叩いていた。

あかりは驚いて目を見開いた。

みよりは目尻に涙を浮かべながら、怒りを込めて言った。

「ふざけないで! 健太君はそんな人じゃない!

私とゆかりが、それに健太君がどんな覚悟を持って悩んで、泣いて、迷って、それでやっと今の状態になったの。私達の関係を知りもしないで、勝手に馬鹿にしないで!」

みよりの声は震えていたが、目は強くあかりを射抜いていた。

あかりは頰を押さえ、呆然とみよりを見つめた。

心の中で激しく後悔が渦巻いていた。

(あぁ駄目だな私、まただ……。

相手の気持ちも考えずに憶測だけでしゃべって……。

本当は嫉妬してた。自分が涼子に気持ちを伝えられずに居るのに、この人達は更に先に、男の人まで巻き込んで幸せになってるんだって思ったら感情が抑えきれなくなった……)

あかり「ごめんなさい。言いすぎました」と下を向きながら言う。

みよりは深呼吸をして、落ち着いた声で続けた。

「叩いちゃってごめんね。でもね、私だって最初は迷ったよ。うまく行くかなとか、好きな人取られちゃうんじゃないかとか……。

でもね、そんな気持ちも包み込んでくれる程に健太君は優しかった。『無理しなくていいって、君達の仲を割く位なら傍観者でいいって』言ってくれた。私達がレズだって言っても驚きもせずに受け入れてくれた。

だからこの人となら幸せになれるって思ったの。勿論3人でね」

みよりの言葉は静かだが、温かかった。

あかりは一度みよりの目をしっかり見てから、もう一度下を向き、唇を噛んだ。

(……この人、強い……。

私みたいに、気持ちを隠して苦しんでるだけじゃなく……ちゃんと前に進もうとしてる……)

あかりは下を向いたまま、しばらく黙っていた。

やがて、震える声で小さく言った。

「……ごめんなさい。私、勝手に決めつけて、酷いこと言っちゃった……。

本当は……自分に自信がなくて、嫉妬してただけなんだと思います」

みよりは優しく微笑み、あかりの肩にそっと手を置いた。

「ううん、いいよ。気持ちは分かるよ。

私も最初、ゆかりが健太君のことを好きになりそうで……すごく不安だったもん。

でもね、健太君はそういう気持ちも全部受け止めてくれる人なんだ。

だから……あかりちゃんも、いつか自分の気持ちをちゃんと伝えられる日が来るよ。真剣に気持ちを伝えれば、相手はきっと答えてくれる。恋って、誰かを好きになるって、簡単じゃないよね。

でもあかりちゃんみたいな子が、ちゃんと想ってるってことは、きっと相手にもちゃんと伝わるよ。

私達も最初は怖かったけど、今は三人で一緒にいるのがすごく幸せだよ」

あかりは少し涙ぐみながら、

「……ありがとう。

なんか……すっきりしたかも。

あの……お姉さんたち、幸せになってくださいね」

みよりは明るく笑って、

「うん、ありがとう! あかりちゃんも、頑張ってね! 涼子ちゃんに思い伝えられるといいね」

あかり「バレてましたか?」

みより「勿論、てかゆかりも健太君も気付いてると思うよ」と笑顔で言うと、あかりが驚いたように「あの人も?」と聞く。

みより「そうだよ、健太君そう言う所観察力高いもん」

二人は少し照れくさそうに笑い合い、互いの気持ちが少しだけ通じ合った気がした。

感想などありましたらよろしくお願いします。

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