告白とこれから
楽しみにしてる人がいるかどうかはともかく、頑張って書きたいと思います。
翌朝
朝の陽光が障子越しに柔らかく差し込む中、みよりが最初に目を覚ました。
「うぅーん……ここ何処……?」
ぼんやりと天井を見つめ、数秒の間を置いてから、昨夜の記憶が一気に蘇った。
「はぁ! そうだ、私、ゆかりと川に飛び込もうと思って止められて、それから……!
あぁ〜ここは天国だったのかな?」
興奮気味に身を起こそうとしたところで、隣から寝ぼけた声がした。
「もぉー……何騒いでるのみより〜……あー頭痛い、昨日飲みすぎたかな……」
ゆかりがゆっくり目をこすりながら起き上がる。二人は毛布にくるまったまま、互いの顔を見て昨夜の出来事を思い出し、微妙な沈黙が流れた。
ちょうどそのタイミングで、健太が居間に入ってきた。手には二つのコップに入った冷たい水を持っている。
「おぉ! 起きたな。はいこれ、川から直接引いた天然水! ろ過してあるから安全だよ。しかも冷たくて美味いぞ」
みよりは少し照れくさそうに頭を掻きながらコップを受け取った。
「あぁ〜どうもです……」
ぐいっと一気に飲み干すと、冷たい水が喉を通り、昨夜の酒で火照った体に染み渡る。
「ん……本当に美味しい……」
ゆかりもコップを受け取り、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます」
彼女も静かに水を飲み干し、ほっと息を吐いた。
冷たい天然水のおかげで、二人の顔色が少しずつ良くなっていく。
健太は二人の様子を優しく見守りながら、にこりと笑った。
「二日酔いにはこの水が一番だ。朝飯の準備してるから、ゆっくりしててくれ。
……体調が良くなったらすぐに言ってくれ。それと何か話したくなったらいつでも聞くよ」
居間には朝の柔らかな光と、川のせせらぎのような静けさが満ちていた。
昨夜の賑やかさから一転、二人は少しずつ現実に戻りつつ、健太の大きな家の中で新しい一日を迎えようとしていた。
朝食の準備が整うと、健太は二人の前に座布団を勧め、食卓を整えた。
「基本的な和食だけど、たくさん食べてくれ」
並んだ朝ごはんは、健太らしい素朴で心のこもったものだった。
• 炊きたての白ご飯(自分の田んぼの米)
• 具だくさんのお味噌汁(自家製味噌に、朝採りの野菜と豆腐、わかめ)
• ごぼうのおひたし(山で採れたごぼうを丁寧に炊いたもの)
• しゃけの塩焼き(川魚ではないが、週に一度の下山時に仕入れた新鮮なもの)
• 付け合わせに山菜の煮物と自家製の漬物
湯気が立ち上る食卓は、素朴ながらも温かみに満ちていた。
みよりは目を輝かせながら箸を手に取った。
「わぁ……すごく美味しそう……! 昨日からごちそうばっかりで、申し訳ないです……」
ゆかりも静かに手を合わせてから、
「いただきます……本当にありがとうございます、健太さん」
二人は最初は少し遠慮がちに食べ始めたが、すぐに箸が進んだ。
炊きたてのご飯とお味噌汁の組み合わせ、しゃけのほどよい塩気、ごぼうの香ばしい風味——どれもが体に染み渡るような味わいだった。
健太は自分の分を食べながら、穏やかに声をかけた。
「ゆっくり食べてくれ。
今日の予定は野菜の収穫と裏山での山菜取り、午後は道の駅に野菜とか米を納品しにいくから」
みよりが目を輝かせて言う。
「私も一緒に手伝いたいです」
ゆかりもニコッとしながら、
「私も健太の野菜の収穫を手伝いたいです♪」と言う。
健太は「いいよ、じゃあ朝食食べ終わったらぜひ手伝ってほしい!」と笑顔で言う。
朝の陽光の中で、三人は静かに朝食を囲んでいた。
昨夜の酒の余韻と、川での出来事の影がまだ残る中、健太の作った素朴な和食が、二人の心を優しく包み込んでいた。
朝食を食べ進めている最中、みよりが箸を少し止めて、健太の方を見た。
「健太さんは……理由聞かないんだね。私達がなんで飛び込もうとしてたのか?」
静かな声だったが、居間に少し緊張が走った。
健太は箸を止め、穏やかな目で二人を交互に見つめた。
少しの間を置いてから、はっきりとした口調で答える。
「聞かないよ。
少なくとも二人が自分から話してくれるようになるまで、何日でも何週間でも何年でも居ていいよ」
その言葉に、ゆかりの目が一瞬で潤んだ。
彼女は箸を置き、突然ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
「優しいなぁ……健太さんは、本当にありがとう……。
心の整理が付いたら絶対に話すから……それまで、ここに居ていい?」
声が震え、涙が止まらない。
隣のみよりも目を赤くしながら、ゆかりの肩にそっと手を置いた。
健太は優しく微笑み、力強く頷いた。
「勿論大歓迎だよ。正直一人で生活してると時々すごく寂しくなる時があるから、二人が来てくれて精神的にも助かってる」
その一言で、ゆかりの涙がさらに溢れた。
みよりもこらえきれず、ゆかりの手を強く握り返す。
朝の柔らかな光が差し込む食卓で、三人の間に静かな信頼の絆が芽生え始めた。
健太の作った温かい味噌汁とご飯が、二人の心をさらに優しく包み込んでいた。
朝食を食べ終わった三人は食器洗いを済ませて、外用の服に着替える。
健太「そういえば二人共、汚れてもいい服とか持ってる?」と健太が聞くと、みよりが思いついたように言う。
「確か家から持って来たバッグの中にジャージがあった気がする」
ゆかり「私も家から持って来た荷物の中にTシャツとか入ってた気がします」
そう言って二人は居間の隅に置いてあるバッグを漁る。
みより「あったぁ! よかった〜!」
ゆかり「私も持ってた」
二人共安堵した表情で言う。
健太が「じゃあ俺も自室で着替えて外で支度してるから、二人共その間に外出る準備してね?」と言うと、二人共「はぁーい」と元気な声で言う。
準備の出来た三人は軍手を持ち、まず畑へと向かう。
広大な田畑では、朝露に濡れた野菜たちが元気に育っていた。健太は慣れた手つきで大根、にんじん、ほうれん草、白菜などを次々と収穫していく。
二人はエプロンを借りて後ろをつき、健太の指示通りに葉を摘んだり、根っこを丁寧に掘ったりする。
「こうやって土を優しく払うんだ。力任せにやると傷がつくからな」
みよりは泥だらけになりながらも楽しそうに笑った。
「わぁ、生きてる野菜を直接収穫するのって初めて……新鮮すぎる!」
ゆかりも丁寧に作業しながら、時折健太の広い背中を見つめていた。
次に山へ。
健太を先頭に、山菜採りへ。
わらび、ぜんまい、ふきのとうなどを探しながら歩く。健太が「ここに生えてるぞ」と教えると、二人は目を輝かせて摘んでいく。
その後は家畜の世話。
豚小屋では元気な豚たちに餌をやり、牛には干し草と水をやり、鶏小屋では卵を回収しながら餌を撒いた。
「牛は優しいけど、急に近づくとびっくりするからゆっくりな。
鶏は卵を産む場所を覚えてるから、毎日同じリズムで世話してあげると喜ぶよ」
二人は最初は少し怖がりながらも、徐々に慣れて積極的に手伝った。
みよりは豚に話しかけ、ゆかりは鶏を優しく撫でていた。
汗を拭きながら作業を終えた頃、陽はすっかり高くなっていた。
健太は二人を見て、満足げに笑った。
「二人とも上出来だ。初めてなのに頑張ったな。
この調子なら、すぐに収穫は任せられるね。山菜取りは野生動物が出るから一人じゃ行かせられないけど」
みよりが少し引き攣った顔で言う。
「やっぱり出ますか、この辺?」
健太「勿論。イノシシやシカ、熊もたまに出る。一応二人にも熊よけスプレーと熊鈴渡しとくよ」
そう言って二人に鈴とスプレーを手渡した。
二人は「ありがとうございます」と言うと、ゆかりが「出来れば会いたく無いけどね」と苦笑いで言う。
その後家の庭に戻った三人は一度休憩を取る。
みよりは泥だらけの頰を拭きながら、
「楽しかった……! 生きてる実感がすごい……」
ゆかりも頰を赤らめて小さく微笑んだ。
「私たち……ここにいていいんだって、改めて思いました」
午前中の作業を通じて、三人の距離はまた少し近づいた。
山奥の自給自足の生活に、二人が少しずつ溶け込み始めていた。
健太は二人に言う。
「二人共汗かいたでしょ? シャワー浴びて来な! その間に昼食の準備するから」
そう言うとみよりが「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて」と言いながら脱衣所に向かった。
ゆかりは「替えの下着、みよりの分も持っていくねぇ!」とみよりに聞き、「おっけー」と返すみよりの返事を聞き、ゆかりは居間に向かった。
健太「さて、俺も準備しますかね!」
そう言うと健太は手を洗い、台所に向かった。
「お昼は蕎麦にしようかな」
そう言ってお蕎麦を茹で始める。勿論ここの畑から取ったソバの実を使い、健太自身が打った蕎麦だ。
他にも山菜の天ぷらを揚げる。
居間のテーブルに並べていた時に丁度二人もシャワーを浴びて戻って来た。
みより「ありがとうございます健太さん、すっきりしました」
ゆかり「汗かくのは健康にいいんだけど、ベトベトの身体だとね? 午後は道の駅行くんですよね?」
健太「一応その予定だね。俺も食べ終わったらシャワー浴びてくるから」
そう言ってテーブルに料理を並べる。
ゆかりがキラキラした目で言う。
「今日はお蕎麦ですか? 昨日に引き続きありがとうございます」
みよりが「汗かいて疲れちゃったからお腹ぺこぺこだよ!」と言いながら座る。
つゆは出汁が効いた濃いめで、薬味にはこの村産の刻みネギと自家製のわさびをたっぷり。
添え物には朝採った山菜の天ぷら(わらび、ふきのとうなど)、冷や奴、そして新鮮なきゅうりの浅漬けが並んでいた。
三人は作業で空いた腹を満たすように、すすすすと蕎麦を食べ始めた。
みよりは一口食べて目を丸くした。
「すごく美味しい! これって健太さんがお蕎麦作ったんですか?」
健太は照れくさそうに笑いながら頷いた。
「そうだよ! まぁ独学だけどね。遠慮しないで沢山食べてくれ」
ゆかりも蕎麦を丁寧にすすりながら、感心した様子で言った。
「なんでもできますね。本当にすごいです……この天ぷらもサクサクで凄く美味しい!」
健太「初めてサクサクの天ぷら作ったんだけど、成功してよかった。ネットで調べて、氷水を使って粉を混ぜすぎない、水の代わりに炭酸水を使うって書いてあったから試してみたんだ」
みよりも笑顔になりながら「本当にサクサク、お店みたい!」と絶賛する。
山菜の天ぷらはサクサクと香ばしく、わさびのツンとした辛さが蕎麦の風味を引き立てる。
朝の作業で疲れた体に、冷たい蕎麦とつゆが染み渡るようだった。
みよりは天ぷらを頰張りながら嬉しそうに続けた。
「朝からずっと新鮮なものばっかり……ここにいると、毎日が幸せすぎて怖いくらい……」
ゆかりは静かに微笑みながら、健太の横顔をちらりと見つめていた。
午後の陽光が差し込む居間で、三人はゆっくりと昼食を味わっていた。
健太の自給自足の生活に、二人が自然と溶け込み始めているのを感じる、穏やかな昼下がりだった。
昼食の蕎麦を食べ進めている最中、みよりが箸を置き、静かに口を開いた。
「実は……私達、レズビアンなんだよね。
でもそのことを周りに言ったら、距離を取られるし、親には猛反対されるし……挙句、ゆかりのお母さんから『気持ち悪い』だの散々言われてね。
で突然、ゆかりのお母さんから許嫁を決めたから別れろ、とか言われて……」
健太は黙って聞き、箸を止めた。
「今の時代珍しく無いからね。ゆかりさんはどう思ってるの? 許嫁の人の事? 許嫁ってことはゆかりさんはお嬢様なの?」
ゆかりは少し声を震わせながら答えた。
「お嬢様かどうかはわかりませんが、父と母の会社は結構大きな会社ですよ。それで許嫁の方ですが、最低の男です。会社と金のことしか興味がない、女を自分の所有物で性の捌け口としか思ってない……。
正直、狂ってると思います」
健太は深いため息をついた。
「はぁーーー……いるんだな、本当にそんなクズが……」
みよりが続ける。
「それで二人で家を出て行ったの。でもいつまでも逃げられないって思って……それならいっそ死んじゃおうって思ったんだ」
健太は真剣な目で二人を見つめた。
「今はその思いはあるのかい?」
みよりは少し迷うように視線を落とし、それから小さく微笑んだ。
「わかんない……少なくともここに居れば、健太さんと一緒なら大丈夫、そんな気がしたの。
健太さん、優しいでしょ?」
健太は苦笑しながら首を振った。
「そんな簡単に信じちゃ駄目だよ。睡眠薬使って二人を襲っちゃうかもよ?」
するとゆかりが、涙の跡が残る目で健太を見て、ふっと笑った。
「健太さん、やりたくない事を口に出すと、顔に出るタイプですね?
今のご自分の顔、鏡で見た方がいいですよ。すごい嫌な顔してる。だから信用できるんです」
みよりも頷いて明るく付け加えた。
「そそ。お酒好き、特に日本酒好きに悪い人はいないって、誰かが言ってたよ」
健太は照れくさそうに頭を掻きながら、二人を見て言った。
「ええ? そんなに顔に出てる? 大学時代に散々言われたのに治ってないか……まぁいいや。
いつまでも居ていいよ。ここで余生を終えてもいい。お金の心配はいいよ。これでも沢山あるから」
その言葉に、二人は同時に息を飲み、目を見開いた。
ゆかりの目に再び涙が浮かび、みよりは「健太さん……」と小さく呟いた。
食卓の上には冷めた蕎麦が残っていたが、三人の間には温かく、確かな安心感が広がっていた。
ゆかりは涙を拭いながら、静かに続けた。
「それに探しには来ないと思います。もし私が駄目でも、弟がいます。むしろ弟は私が打ち明けた時、ゴミを見る様な目で見ました。
もうあの家や会社がどうなろうが知った事じゃないので、唯一あの家で信頼出来るのが家政婦の佐久間さんです。私が家に閉じ込められている時に助けていただきました」
ゆかりは一瞬哀しい顔をするが、その後しっかりとした目で健太を見る。
健太「その人とは連絡取っているの?」と聞くと
ゆかりは「メールアドレスは知っていますが取っていません。私とみよりのスマホや、逃亡用の口座を作ってくれたのも彼女です」と返す。
健太は「そうか、何かあったら連絡が来るんだね?」
と聞くと、ゆかりは「ええ、今の所何も連絡がないので大丈夫だと思います」と力強く言う。
健太は少し間を置いてから、穏やかに聞いた。
「二人共、改めて話してくれてありがとう。
気になったんだけど……レズビアンって事は、男が嫌いなの?」
みよりは少し驚いた顔をしてから、明るく笑った。
「? 私は別になんとも思ってないよ。むしろノーマルだったら健太さんに惚れちゃうだろうなぁーって思ったし」
ゆかりも頷いて、柔らかく答えた。
「私も特に、男性に対しての嫌悪感はないです」
健太は胸をなでおろすように、大きく息を吐いた。
「良かったぁー……もしそうだったら、どうするかと思ったよ」
みよりがくすくす笑いながら茶化す。
「本当に男が嫌いだったら最初に会ったあの時もっと態度に出てたよ。『触らないでぇー』とか『汚らわしい〜』とか」
三人の間に、ほんのり明るい笑いが広がった。
重い告白の後でも、みよりの軽やかな言葉が空気を和らげてくれる。
健太は照れくさそうに頭を掻きながら、二人を見て言った。
「まあ……ゆっくりでいい。
ここは二人にとっての居場所だからな。ありのままの二人でいいよ」と優しい笑顔で笑う。
二人は一度お互い目を合わせて「ありがとうございます」と再び目に涙を浮かべ答える。
昼食の食卓は、涙と笑いと、静かな信頼で満たされていた。
観ていただきありがとうございます。感想などお待ちしています。




