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過去回 愛莉と祥子

愛莉と祥子は、幼馴染だった。

互いに意識し始めたのは高校生になってからだが、二人ともそれよりずっと前から、自分が女の子を好きなのだと気づいていた。

きっかけは、小学校の頃だった。

祥子は、好きな女の子に告白したことでいじめられた。

教室の隅で囲まれ、冷たい言葉を浴びせられていたとき、割って入ったのが愛莉だった。

「やめなよ!

そんなことして楽しいの?」

愛莉は小さく震える祥子の手を引き、そのまま教室から連れ出した。

それ以来、二人はどこへ行くにも一緒だった。

休み時間も、下校も、休日も。

自然と、隣にいるのが当たり前になっていった。

高校二年生の春。

桜が散り始めていたある日の放課後、愛莉は校舎の裏で祥子を呼び止めた。

「祥子……ちょっと、話があるんだけど」

祥子は首を傾げて立ち止まった。

「どうしたの? 急に真面目な顔して」

愛莉は少し視線を逸らし、それから思い切ったように顔を上げた。

「私、ずっと考えてた。

祥子のことが、好きです。

付き合ってください」

一瞬の沈黙のあと、祥子の表情が柔らかく崩れた。

「……ふふ。

喜んで」

二人は自然と距離を縮め、抱き合った。

抱きしめたまま顔を見合わせ、やがて唇の距離がゆっくりと近づいていく。

桜の花びらが風に舞う中、二人は初めての甘い口付けを交わした。

大学四年生になってからも、二人の生活は変わらなかった。

大学生活は忙しく、月に数回デートに行くのがやっとだった。

ある日の夜、愛莉が切り出した。

「ねぇ、祥子。

今度さ、旅行行かない?

私たち、もう大学卒業でしょ。

その前に、二人でさ、どこか出かけようよ」

祥子は少し驚いたように目を見開き、すぐに表情を柔らかくした。

「……いいわね」

言葉は短いけれど、声には確かな喜びが混じっていた。

忙しい日々の中で、二人きりで出かける余裕などほとんどなかった。

それなのに、愛莉がこうして「行こう」と言ってくれたことが、胸の奥にじんわりと沁みてくる。

「どこに行く? 行きたいところとかある?」

愛莉は少し考え込むように視線を泳がせたあと、答えを返した。

「いや、特にはないんだ。

とにかく遠くへ……

山の中とか、田舎とかがいいな」

祥子は静かに、しかし確かに頷いた。

「わかった。

じゃあ、当てもなく行ってみようか」

心の中では、もう少しだけ続きがあった。

(こんなふうに、ただ二人で出かけられる日が来るなんて……

当たり前みたいに思ってたけど、やっぱり嬉しい)

二人の間に、少しだけ期待に似た空気が流れた。

旅行先を決めず、二人は新幹線に乗った。

そこから在来線に乗り換え、さらにバスに揺られながら、車内でいろいろな話をした。

愛莉がふと切り出す。

「ねぇ、祥子。

私さ、やっぱり子供欲しいなって思った」

祥子は少し驚いたように目を向けた。

「急にどうしたの?」

愛莉は窓の外を眺めながら、ゆっくりと言葉を続けた。

「いや……高校の時に、未就学児と触れ合う授業あったでしょ?

そこで子どもって可愛いな、自分の子どもだったらどれだけ可愛いんだろうって思ったんだけど。

あぁー、私には永遠に手の届かないことなんだろうなって思ったら、涙が出てきちゃって」

祥子は静かに頷いた。

「だからあの時、泣いて教室の外に出たのね」

「そう。

私、一人っ子だからさ。

このままお父さんにもお母さんにも、おじいちゃんにもおばあちゃんにも、孫の顔見せられないんだなって考えたら、悲しくなって。

その時は覚悟決めたつもりだった。

でもやっぱり無理。

男の人とそういうことはしたくないけど、子どもは欲しい」

祥子は真面目な顔で愛莉を見つめた。

「それって、すごく自分勝手なこと言ってるの、わかってる?

相手の男の人だって、嫌な思いするかもしれないよ?」

愛莉も真剣な表情で答える。

「わかってる。

だから、相手の男性が子どもに会いたいって言ったら会わせる。

将来、子どもが私たちに対して嫌悪感を抱いても仕方ないと思う。

それでも、子どもは欲しい」

祥子は小さく息を吐き、やがて柔らかく笑った。

「はぁー……その目、その真っ直ぐな目に惚れちゃったんだよねぇ。

まぁ、いいよ。

探してあげる。

方法は色々あるみたいだから」

バスの車窓を流れる景色の中で、二人の会話は静かに続いた。

祥子は少し間を置いてから、真面目な声で話し始めた。

「でもね、愛莉。

私たちみたいな関係だと、法的なサポートはほとんど受けられないの。

日本では、結婚していないと正式な不妊治療の対象になりにくい。

特に、女性同士だと病院側も慎重になるし、精子提供を正式に受ける制度も整っていない。

結局のところ、体外受精をするにしても、自分たちで精子提供者を探すことになる。

海外の精子バンクを使う方法もあるらしいけど、手続きも費用もかなりかかるし、簡単じゃない。

SNSとかで『精子提供します』って募集してる人もいるけど、あれは本当に危険。

相手の身元も健康状態もわからないまま会うことになるし、犯罪に巻き込まれるケースも実際にある。

性病のリスクもあるし、提供者が嘘をついていた場合、子どもに障害が出る可能性も上がるって言われてる」

愛莉は黙って聞いていた。

祥子は続けた。

「だから、簡単に『欲しい』で済む話じゃないの。

もし本気で考えるなら、ちゃんと調べて、危険な方法は避けないといけない。

私は、愛莉が傷つくようなことは絶対にさせたくないから」

愛莉は小さく頷き、窓の外に視線を落とした。

「……わかってる。

それでも、諦めきれないだけ」

祥子は静かに愛莉の手に触れた。

「わかってるよ。

だから、焦らなくていい。

ちゃんと調べてからにしよう」

バスの中に、少し重い空気が流れた。

バスの中で、愛莉が少し悔しそうに呟いた。

「男の人とそういうことしたくないしなぁ……。

かと言って、結婚って制度は男女にしか適用されないし。

早く同性婚も認めろよ……」

祥子は窓の外を眺めながら、静かに答えた。

「難しいかもしれないね。

世の中のほとんどが異性愛だから、私たちみたいな関係はまだ少数派なんだと思う。

それに、結婚って制度自体が、子どもを作って家庭を築くことを前提に作られてきたところがあるから。

同性だと、どうしても誰かの力を借りないといけない部分が出てくるよね。

特に男性同士の場合は、血の繋がった子どもを持つことが難しいから、そこはすごく悩むところだと思う。

どれだけ強い絆があっても、やっぱりどこかでぶつかる瞬間はあるのかもしれない。

自分の気持ちに正直に生きるか、

周りの普通に合わせて生きるか……

どちらを選んでも、簡単じゃないんだろうね」

愛莉は何も言えず、ただ祥子の横顔を見つめていた。

愛莉が窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。

「男の人って、何考えてるかわからないのが嫌なんだよね」

祥子は小さく息を吐き、隣で静かに頷いた。

「わかるよ、その気持ち。

『大丈夫?』って心配してくれてるのに、視線がちょっと違う方向に行ってるの、すぐ気づいちゃう時あったし。

男の人の性欲って、結局は本能的なものなんだろうけど……

それでも、やっぱり怖いよね」

愛莉は何も言わず、ただ小さく頷いた。

バスの揺れの中で、二人の間にまた少し重い空気が流れた。

愛莉がバスの車窓を眺めていると、山あいの田舎の村が見えた。

その村には家が一軒しか立っておらず、あとは全て田んぼや畑、ビニールハウス、家畜小屋や大きな蔵があるだけだった。

「ねぇ、祥子。

あそこ見て。

あの家以外、何も建ってないよ?」

祥子も一緒に窓の外を見る。

「本当だ……。

しかも見て、愛莉。

農業機械が勝手に動いてる。

あれ、自動運転とかじゃない?」

愛莉が驚いた顔をして身を乗り出した。

「え、嘘でしょ。

普通の車だって人が乗ってるのに?」

興味津々に見つめていると、やがて木々に覆われて村は見えなくなった。

二人は顔を見合わせた。

「あそこ、行ってみよう」

「私もそれ言おうと思ってた」

そう言って、降りるボタンを押し、次のバス停で下車した。

祥子がスマホのマップを観ながら言う「この辺なんだけどなぁ〜」と小道を入って行く、するとそこには一面畑と田んぼが広がる光景があった。まだ使われていない土地も多くあり、やっぱり家が一軒しか建っていない

愛莉がはしゃぎながら言う「ここだよここ!凄〜いあたり一面畑と田んぼばっかり」とニコニコ笑う

祥子が「あの家行ってみようか?」と言いながら二人で歩く

家の前に着き玄関前で愛莉が声を出して呼ぶ「ごめんくださーい、誰か居ますか?」と声を出す


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