ここで働かせてください!
四人は風呂から上がり、着替えてから居間へ向かった。
そこにはすでに、洋食で彩られた食卓が整っていた。
ローストビーフ 白身魚のムニエル ハンバーグ シーザーサラダ 真鯛とサーモンのカルパッチョ エビとキノコのアヒージョなど10品程が綺麗に盛り付けられていた。
健太が笑顔で迎える。
「おぉ、来たね。
丁度料理も仕上がったところだよ。
さぁさぁ、みんな座って座って。
佐久間さん、ビールお注ぎしますね?」
そう言って、サッポロビールを佐久間のグラスに注いだ。
佐久間は笑顔で受け取ると、四人を促す。
「ありがとうございます、健太さん!
ほら、みんな何ぼーっとしてるの?座って。
祥子さん?あなたはここね。
アルコール飲めないって聞いたから、健太さんがこの地域の特産品で作ったりんごジュースとブドウジュース、みかんジュースを揃えてくれたわ。
ジュースダメなら麦茶もあるわよ」
四人は食卓を囲みながら、少し驚いたように料理を見つめた。
愛莉が目を輝かせて声を上げる。
「うわぁ……これ、全部健太さんが作ったんですか?
なんか、お店みたい……」
みよりが誇らしげに胸を張った。
「そうだよ。私たちの夫は万能なのだ!
今日は洋食だから、気合入ってるんだと思う」
祥子は柔らかく微笑みながら、愛莉の方を見た。
「愛莉、飲みすぎないようにね。
どうせ酔ったらウザ絡みするんだから」
愛莉は少し頬を膨らませつつも、嬉しそうに笑った。
「わかってるって。
……でも、せっかくの晩ごはんだし、ちょっとくらいはいいでしょ?」
ゆかりが静かに立ち上がり、ボトルを手に取る。
「じゃあ、みんなにお酌しましょうか?
今日はゆっくりしていってね」
四人の間に、温かくて少し照れくさい空気が流れた。
楽しげな声が飛び交いながら、それぞれが席に腰を下ろしていく。
健太が一升瓶やワインの瓶を次々と並べていく。
「右から、久保田 万寿、〆張鶴 純(純米吟醸)、鍋島 純米吟醸、田酒、上喜元。
こっちは赤ワインと白ワイン。
白ワインは右から、リースリング・トロッケン、ピーツ・ピュア ソーヴィニヨン・ブラン、モンテス・アルファ・シャルドネ。
赤ワインは、クラレンドル・ルージュ、ムートン・カデ・ルージュ・オーガニック・バイ・ピエール、レ・ヴァンダンジュ。
ウィスキーは白州。
焼酎は持ってきてないけど、飲みたければ持ってくるよ」
並んだ酒瓶を見て、全員が目を丸くした。
最初に口を開いたのは佐久間だった。
「健太さん?
貴方の蔵って、世界のお酒の博物館か何かですか?
こんなに沢山の種類……しかも、まだ沢山あるんですよね?
あの倉の中って、もしかして全部お酒ですか?」
少し踊り出すような勢いで言うと、健太は苦笑いを浮かべた。
「いやいや、お恥ずかしながら全部お酒です。
酒マニアの友人がしょっちゅう送りつけてくるんですよ。
日本酒は、俺、日本酒協会の会長なので、沢山あるんです」
佐久間は目を輝かせて頷く。
「素晴らしいですね。
これは絶対、宿の目玉になりますよ!」
四人も、キラキラした目で酒瓶を見つめていた。
愛莉が隣のみよりに声を弾ませる。
「ねぇ、ゆかり。ほっぺたつねって。
夢だよね、これ?
久保田、〆張鶴、鍋島、田酒……他にもこんなに!
くぅーー、今日は飲もう!」
祥子はラベルを眺めながら、穏やかに微笑んだ。
「すごいですね。
お酒飲めないけど、ラベル見てるだけで美味しそうなのが伝わります」
愛莉が自分のグラスを見つめながら言う。
「あ〜、これ飲みすぎちゃうやつだ〜。
祥子、ごめん。今日は無理。多分ベロベロになる」
みよりも感心したように呟いた。
「日本酒って本当に何でも合うのね。
洋食にまで合うなんて、思わなかった」
ゆかりが静かに立ち上がり、全員のグラスにお酌をして回る。
健太がグラスを手に取り、乾杯の音頭を取った。
「稲瀬さん、美濃さん、ようこそ我が村へ。
短い時間だけど、沢山食べて、沢山喋って、発散してくれ。
乾杯!」
「乾杯〜!」
笑顔とともに、グラスが軽やかに鳴り合った。
食事が進む中、みよりがふと話題を振る。
「二人はどうしてこの村に来たの?
卒業旅行?」
愛莉が箸を置き、少し照れくさそうに答えた。
「実は、祥子と付き合ってから大学が忙しくて、まともな旅行とか行ったことなかったから。
折角だし、二人で思い出作ろうってことで、当てもなく旅行してたんだ」
祥子も隣で穏やかに微笑みながら続ける。
「そしたら、この村を見つけてね。
家が一軒しか立ってないし、農業機械が自動で動いているのを見て、変に興味が湧いてきたの」と微笑みながら答える。
ゆかりは「これも何かの運命かもね」と二人を見つめながら言う、
食事が進む中、六人は自然と雑談を始めた。
不意にゆかりが話題を振る。
「そう言えば、二人は大学四年生よね?
就職先とか、決まってるの?」
愛莉の手が止まり、苦笑いを浮かべた。
「えへへ……お恥ずかしながら、まだ全然」
祥子も隣で小さく首を傾げる。
「二人で同じところに就職しようって話してるんだけど、なかなかいいところが見つからなくて」
愛莉がお猪口をくるくると回しながら続けた。
「正直、変なところに就職して苦労はしたくないんですよね。
ただでさえ、特殊な事情があるのに」
佐久間が優しく諭すように口を開く。
「でも、就職したらいいことも悪いことも沢山あります。
苦労は、若いうちにしておいたほうがいいですよ」
食卓に、少しだけ現実的な空気が混じった。
健太が唐突に口を開いた。
「二人とも、ここで働いてみない?」
愛莉と祥子は顔を見合わせ、きょとんとした表情を浮かべる。
「え?働くって、どうやって?」
健太は笑顔で続けた。
「実は宿を始めようと思ってるんだ。
で、絶賛、従業員募集中なんだよ」
愛莉が目を輝かせる。
「宿!宿泊施設ですか?
それなら、三人の近くにいて観察できるか……」
祥子も静かに考えるように言った。
「私はいいと思います。
でも、どこに住めばいいですか?
私も愛莉も車を持っていませんし、山の下の街はちょっと遠いですよね?」
健太はふふっと笑いながら答える。
「大丈夫。
従業員用の寮を作ろうと思ってるんだ。
既に工務店さんにはお願いしてあるよ」
愛莉が目を輝かせて身を乗り出した。
「働きたいです!
ここで働かせてください!!」
そう言って健太に近づくと、祥子も静かに続いた。
「私も是非働きたいです。
ここでなら、何か見つけられる気がする。
ゆかりやみより、健太さんが持っていて、私たちが持っていないもの……」
健太は満足そうに頷いた。
「よし、じゃあ決まり。
後日、履歴書とか送ってきて、改めて面接って感じになるけど大丈夫?
勿論、行き帰りの交通費は全部こっち持ちだよ」
愛莉が笑いながら答える。
「今、私も祥子も実家住まいなので、日取りを教えていただければもう一度来ます」
その様子を見ていた佐久間が、ゆかりとみよりに小さく手招きをして耳打ちした。
「あの二人の指導や教育は、二人に任せます。
関係が特殊ですから、私の中居仲間にも頼めませんし」
ゆかりは静かに頷いた。
「わかりました。
佐久間さんに教わったこと、早速全部教えます」
みよりも嬉しそうに笑う。
「頑張ります。
初めての後輩ってことですね。
なんだか、すごくやる気出てきた」
佐久間は穏やかに微笑んだ。
「その意気です。
しっかり育ててくださいね」
食卓に、これから始まる新しい関係の空気が静かに広がっていった。
そこから更に酒を飲み全員顔が赤くなる。
愛莉がいきなり「ねぇ祥子〜さっきから飲みが足りないんじゃない〜ジュース〜もっと飲んで〜」
と顔を真っ赤にして時折しゃっくりをする。
祥子が「もぉ〜わかったから、皆んな見てるから離れて愛莉」と引き離す。
健太が即座にコップに水を注ぎ「ほら水飲みな」と渡す。
ゆかりは苦笑いして「これは相当ね」
と言いみよりは、
「あはは、結構酒乱だね愛莉って」
と若干引き気味で言う、
愛莉は貰ったコップをぐぐっと飲むと健太を指さして続ける「だいたぃー健太さんが悪いんですよぉ〜
私達がずーっと悩んでた事らのにぃ〜
答えはこれだ!って見せつけられてもぉ〜
そんな事私達にはむりれすぅ〜男の人とはづきあえまぜ〜ん」と突っ伏しながら言うと「わたぢだって〜考えるでずよぉ〜、このまま一緒にいでもぉ〜幸せなのがぁ〜とか」と言いながら段々声が小さくなるとそのまま眠ってしまう。
健太は立ち上がり「冷えるといけない」と言って愛莉に毛布をかける。
それを見た祥子は、ゆかりとみよりに耳打ちして、
「なんか、二人が好きになったのわかる気がします。結局男の人って下心が見え見えなんですよね。このまま連れ込んじゃえとか、俺の事惚れさせるとか、そう言う下心がない真っ直ぐとした善意を向けてるからこそ愛されたんだなって思いました。」
それを聞いたゆかりが笑顔で、
「祥子もわかって来たわね。」と言うとみよりが
「まぁこの善意が誰にでも向いちゃうから時々勘違いして惚れちゃう子もいるんだけどね?」
と呆れながら言う、
祥子は「そうなの?まぁそんな下心ない接し方されたら、この人大人だな、何考えてるんだろ気になるな?とか思っちゃうよね。」
と少し驚きながら言うとみよりは、
「それを私達は即落ち製造機と読んでいます」と言ってドヤ顔する。
祥子が「あぁ〜それ言えてるかも、即落ち製造機ねぇー」と健太を観ながらニヤつく、
健太は「三人で何話してるの?」と聞くと佐久間が割って入り
「健太さんがスケコマシ野郎だって言ってるんですよ〜」と冗談混じりに言う、
健太は「スケコマシ?俺が?」と驚いた様に言う、
その後も寝ている愛莉を他所に5人で話は続いた。
そろそろお開きにしようと言うところで愛莉は目が覚めて祥子に連れられ歯を磨く、
その後案内された部屋に入った愛莉と祥子は同じ布団で寝ることにした。
布団の中で、祥子が静かに口を開く。
「ねぇ、愛莉。
すごいね、あの三人。
私たちとそんなに歳変わらないはずなのに、ずっと先に行ってる。
多分、健太さんに会って、三人で生きていく覚悟をしたからだと思う」
愛莉も隣で天井を見上げながら、少し間を置いて答えた。
「そうだね。
私たちには絶対に無理だと思う」
(でも、何が違うんだろう)
愛莉は自分でも整理しきれない気持ちを、ゆっくりと辿るように言葉を探す。
「何が違うのかなって考えてたら……
私たちにも、共通する部分がある気がするの。
少しは男の人にも興味を持つかもしれない。
でもそれは、愛とか恋とかじゃなくて、観察対象として、だからね」
心の中では、もう少しだけ続きがあった。
(あの三人を見てると、自分たちが最初から捨てたはずの「普通」が、
まだ完全には消えてないって気づかされる。
嫉妬でもあるし、憧れでもある。
でも、それを口に出したら、祥子を傷つけてしまいそうで……)
祥子が小さく笑った。
「ふふ、わかってる。
愛莉は、私だけの愛莉だから」
そう言って、祥子は愛莉の唇に優しく口付けをした。
愛莉はすぐに腕を回して抱きつく。
「祥子〜、好き。
大好き……」
(だから私は、祥子の隣にいる。
あの三人みたいにはなれなくても、
この人となら、ちゃんと生きていける)
祥子は愛莉を胸に抱き寄せ、ゆっくりと頭を撫でた。
暗い部屋の中で、二人の吐息だけが静かに重なっていた。
やっと全部飲んだことのあるやつでまとめられた!勿論日本酒だけですが!
エンディング GReeeeN 愛唄




