理解出来ませんが認めます。
愛莉は少し息を整え、冷静を装いながらも声に棘を込めて言った。
「……良いですね、三人で仲良く出来て。
好きな人たちとも一緒にいられて、
法律的にも、生活的にも、かなり都合の良い形ですよね。
まさに理想系って感じがします。
ただ……正直に言うと、私たちには死んでもごめんです。
そうやって、好きな人を分け合うなんて、私には到底理解できません」
祥子が静かに、でもはっきりとたしなめた。
「その人の幸せは、その人自身しか決められないよ。
私たちがとやかく言っちゃダメだよ、愛莉」
愛莉は祥子の顔を見て、さらに感情を抑えきれずに続けた。
「だって、おかしいでしょ?
悪いけど、この人がそんなに良い人には全く見えない。
二人の間に入って、都合よく家族になってるだけにしか見えないんです。
私には、どうしてもそう思えて仕方ない」
そう言って、はっきりと健太を指差した。
愛莉の言葉を聞いて、ゆかりとみよりは揃ってニコニコと笑った。
だがその笑顔の奥には、はっきりとした怒りが滲んでいた。
ゆかりはゆっくりと息を吐き、穏やかな口調のまま、しかし芯の通った声で言った。
「愛莉さん。
あなたは私たちのこと、何も知らないのに、ずいぶん勝手なこと言いますね」
目元は微笑んでいるのに、その視線は冷たく鋭い。
「健太さんが都合よく入ってきた、なんて……そんな風に言われる筋合いはないわ。
私たちは自分の意思で、この関係を選んだ。」
みよりも笑顔のまま、少し声のトーンを落として続けた。
普段の明るさが消え、静かな怒りの色が浮かんでいる。
「そうそう。
『都合よく家族になってる』とか、失礼だよ。
私たちが健太君を好きになったのも、健太君が私たちを大切にしてくれてるのも、全部本物なんだから」
拳を軽く握りしめ、テーブルの上で指先がわずかに震えていた。
「あなたが理解できないのは構わないけど、私たちのことを勝手に決めつけないでほしい」
二人の笑顔は崩れていないのに、その場の空気は明らかに張り詰めていた。
愛莉の言葉が、二人の大切なものを踏みにじったことが、はっきりと伝わってくる。
愛莉は三人をじっと見たあと、大きな溜息をついた。
「はぁー……わかりました。
理解は出来ませんが、認めますよ。
どうやら本当の本気みたいなので」
祥子は隣で穏やかに微笑み、静かに言った。
「本当に愛し合ってるんですね。
正直、半信半疑でしたが……
お二人がそこまで怒るのを見て、真実だと確信しました」
その言葉を聞いて、健太は少し肩の力を抜いた。
「……そう言ってもらえて、助かるよ」
穏やかな声だったが、どこか安堵の色が混じっている。
「無理に理解してほしいとは思ってない。
ただ、僕達が大事にしてるものを、ただの都合や嘘だって決めつけられるのは、正直つらかった」
そう言って、ゆかりとみよりの方へ視線を向けた。
二人も静かに頷いている。
健太はもう一度、愛莉と祥子の方を見て続けた。
「俺たちは、三人でいることを選んだ。
それが正しいかどうかは、外の人が決めることじゃないと思ってる。
ただ……ちゃんと向き合ってくれて、ありがとう」
その声には、強さよりも、静かな誠実さが滲んでいた。
健太が席を立つ。
「僕はそろそろ夕食の支度してくるよ。
後は四人でゆっくりしてて」
そう言い残して、部屋を出て行った。
健太の姿が見えなくなると、愛莉は少し沈んだ目で三人を見た。
(……ずるい。
本当にずるいと思う。
私たちはどれだけ努力しても、結局「同性同士」というだけで制限されるのに。
この人たちは三人でいるだけで、全部手に入るんだ。どうして?そこまで男の人を愛せるの?理由を知りたい!)
真面目な顔で、静かに口を開いた。
「……でも正直、ずるいって思いました。
たぶん、これからも同性婚なんてできないでしょうし。
私たちも将来は養子縁組で何とかするつもりだけど、結局偏見は残るんです。
その点、ゆかりさんとみよりさん、健太さんの三人でいる方が、世間の目もあんまり厳しくないし、社会保障も全部受けられる。
レズビアンのカップルが今できる、一番現実的な形だと思います。
でも……それって、本当にレズビアンなんですか?」
ゆかりも真面目な表情で答えた。
「言ったでしょう?
私たちはもう、バイセクシャルなの。
だから、愛莉さんと祥子さんの参考にはならないと思うわ」
みよりが苦笑いしながら付け加えた。
「改めて言われると、私たちの関係って本当に特殊なんだなって思います」
その言葉を聞きながら、祥子は静かに二人を見つめていた。
(……この人たちは、本当に愛し合っている。
さっき怒ったときの目も、今の穏やかな表情も、全部嘘じゃない。
でも、愛莉が言っていることも間違ってはいない。
私たちみたいなカップルが、同じように三人でうまくやっていけるとは限らない。
むしろ、ほとんどの場合は壊れてしまうんじゃないか……)
少し間を置いてから、穏やかに聞いた。
「そうですね。
もしかしたら、お二人は最初からバイセクシャル寄りだったんじゃないですか?
男性に対する気持ちも、そこまで抵抗がなかった、とか」
ゆかりは苦笑いを浮かべて、正直に答えた。
「私たちだって、最初は男の人となんて付き合わないって思ってたわ。
こうなったのは、環境のせいでもあるのよ」
愛莉は唇を噛み、視線を落とした。
(……わかってる。
わかってるのに、どうしても素直に受け入れられない。
この人たちが幸せそうに見えることが、余計に複雑だ)
一方、祥子は静かに息を吐き、複雑な気持ちを胸の奥にしまった。
(この関係は、特別なケースなんだろう。
真似できるものじゃない。
でも……少なくとも、この三人は本気で選んだ道なんだ。
それだけは、否定できないし否定しちゃいけない。多分この答えを出すまでに沢山泣いて 悩んで 言い合いもしたと思う、そこまでして出した結論を否定するなんて誰も出来ない。知りたい。どうしてそこまで男の人を愛せるの?どうして?側でこの3人を見てみたい!)
愛莉が少し遠慮がちに、でも真剣な目で聞いた。
「もしよかったらでいいんで……
二人がどうやって健太さんと出会ったか、それまでの経緯とかを教えてもらっても良いですか?」
ゆかりとみよりは顔を見合わせ、小さく頷いた。
ゆかりが静かに話し始めた。
「私たちは、実家を逃げ出したの。
私の家は古い家柄で、親が決めた結婚を押し付けられた。
みよりの家も似たような状況で……二人とも、受け入れてもらえなかった」
みよりが続きを引き取った。
「逃げて、逃げて、夜行バスを乗り継いで、たどり着いたのがこの村の近くの川辺だった。
もう、どうにもならないって思って……
二人で死のうとしたの」
ゆかりが少し声を落として続けた。
「そのとき、健太さんが現れた。
『やめろ』って、大声で止めてくれた。
私たちは最初、疑っていた。
男の人が、見知らぬ女の子を助けるなんて、何か裏があるんじゃないかって」
みよりが苦笑いを浮かべた。
「でも、健太君は違った。
私たちのことを、レズビアンだって知っても、驚いたり嫌な顔をしたりしなかった。
『好きなだけここにいていい』って、本当にそう言ってくれたの。
偏見も、下心も、何も感じなかった」
ゆかりが穏やかに頷いた。
「最初は、本家に連れ戻されないための方便だった。
籍を入れて、子供を作れば、親も諦めざるを得ないって。
でも……一緒に暮らすうちに、本当に好きになった。
健太さんの優しさに、心から惹かれていったの」
みよりも静かに付け加えた。
「私たちは、最初から三人でいるつもりじゃなかった。
でも、気づいたら、この人がいないとダメだって思うようになってた」
愛莉は最後まで黙って話を聞いていた。
言葉が終わると、彼女はゆっくりと視線を落とした。
(……死のうとしてたのか。
逃げるしかなくて、追い詰められて、川に飛び込もうとしてたんだ)
胸の奥が、少し締めつけられる。
(そして、そのときに現れたのが健太さん。
偏見もなく、下心もなく、ただ「いていい」って言ってくれた。
……そんな人が、本当にいるのか)
愛莉は唇を噛みしめた。
(私は、さっきまでこの人を都合のいい男だと思ってた。
レズの二人の間に入って、いいとこ取りしてるだけだって。
でも……違ったんだ。
この人たちは、本当に死にかけてた。
そこから救われて、ようやく居場所を見つけたんだ)
彼女は顔を上げることができなかった。
複雑すぎる感情が、胸の中で渦を巻いている。
(ずるいって思ってた自分が、急に浅はかに感じる。
でも……それでも、まだ完全には納得できない。
なんでだろう)
愛莉はただ、静かに俯いたまま、言葉を失っていた。
隣で聞いていた祥子も、静かに息を吐いた。
(……想像以上に重い話だった。
ただの駆け落ちじゃなかったんだ。
死を選ぼうとしていたところを、本当に救われたんだ)
彼女は優しく、でも真剣な目でゆかりとみよりを見つめた。
(この人たちが怒った理由も、よくわかる。
大切なものを、軽々しく決めつけられたんだから。
……私たちは、少し軽く見すぎていたのかもしれない)
祥子は愛莉の俯いた横顔をそっと見て、心配そうに目を細めた。
(愛莉……今、相当揺れてる。
無理もない。
私も、簡単には言葉が出てこない)
そして、静かに口を開いた。
「……教えてくれて、ありがとうございます。
ごめんなさい。二人の事何も知らずに勝手な事を言ってしまって。」
その声は、これまでのどの言葉よりも、柔らかく、誠実だった。
少し雑談をしているうちに、気づけば辺りは暗くなり始めていた。
愛莉が時計を見て、慌てた声を上げる。
「えっ、もうこんな時間?
バス、間に合うかな……」
祥子がすぐにスマホを取り出し、画面を操作しながら小さくため息をついた。
「あー……終わってる。最終バス」
ゆかりが柔らかく微笑んで提案する。
「じゃあ、今日は泊まっていけばいいんじゃない?」
みよりも目を細めて続けた。
「いいよね〜。せっかくなら、女子トークもしようよ」
愛莉が少し照れくさそうに笑いながら答えた。
「あはは……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
祥子が呆れたように肩をすくめる。
「はぁー、愛莉ちゃん。最初からそのつもりだったでしょ〜」
そう言って、二人は顔を見合わせて苦笑いした。
ゆかりが席を立つ。
「待ってて。健太に言ってくる」
そう言って、台所の方へ向かった。
台所では、すでに夕食の準備が進んでいた。
ゆかりが健太に声をかける。
「二人が泊まることになったんだけど、お風呂道具とかお布団とか、用意してくれる?」
健太は少し驚いた様子もなく、むしろニコニコと笑った。
「やっぱりね。
さっき佐久間さんと話しててさ、最終バス大丈夫かなって。
お泊まりの準備は佐久間さんが今やってくれてるから大丈夫だよ。
あの二人、お酒飲める?アレルギーとかない?
二人の分の夕飯も作っとくよ」
ゆかりは呆れたように、でも嬉しそうに目を細めた。
「さすが健太。判断が早いわね。
じゃあ、二人に聞いてくる」
そう言って、ゆかりは台所を出て居間へと戻っていった。
ゆかりが居間に戻ってきて、愛莉と祥子に声をかけた。
「今、佐久間さんっていう、うちの家のもとの家政婦の人が泊まりの準備してるから大丈夫だよって。
それと、二人ともお酒飲める?アレルギーとか無い?」
愛莉が少し目を丸くしてから、興味深そうに笑った。
「家政婦?やっぱりゆかりさんってお嬢様だったんだ!
私はお酒全般いけますよ♪ アレルギーは特に無いですね」
祥子が隣で穏やかに答える。
「私はお酒飲めないから、ジュースとかある?
アレルギーは私も特に無いよ」
ゆかりは二人の返事を聞いて、軽く頷いた。
「わかった。じゃあ健太に伝えてくるね」
ゆかりは健太に二人の返事を伝えたあと、再び居間に戻った。
その後、四人は三十分ほど穏やかに話し続けた。
やがて、居間の扉が静かに開いた。
現れたのは佐久間だった。
「ゆかりさん、お泊まりの準備はできましたよ。
さぁさぁ、お二人ともお風呂に入ってスッキリしてください。
ゆかりさんとみよりさんも、一緒に入っちゃってくださいね」
ゆかりが微笑んで答える。
「うちのお風呂、広いのよ」
愛莉が目を輝かせた。
「え、本当ですか?楽しみ!」
祥子が隣で立ち上がりながら言う。
「愛莉、あなたの着替えもついでに持ってくるね」
「ありがとう、祥子」
みよりもすぐに続けた。
「じゃあ私、ゆかりの着替え持ってくるね」
「ありがとう、みより」
四人は楽しそうに喋りながら、脱衣所の方へと向かっていった。
エンディング 愛をこめて花束を




