佐久間の本領発揮
私の仕事でもそうですが、お金をもらっている以上プロフェッショナルです。新人だろうがベテランだろうがお客様は同類に見ます。問題は自分が、何を感じ 何を得てどう生かすかそれだけだと思います。そして失敗した時にどうリカバーして、次回同じ過ちを繰り返さない事、それだけだと思います。
家に着くと、健太はゆかりとみよりに向かって言った。
「二人共、積もる話もあるだろうから、佐久間さんを2階の部屋に案内してくれる?
そのままお話ししててもいいから。俺はその間、昼食の準備してくる」
ゆかりが「わかったわ、佐久間さんお部屋は2階です。」みよりが続けて「荷物持ちますね。」
と言う佐久間が「ありがとうございます。ではお願いします。」と言うと2人は佐久間を案内した。
二人は佐久間さんを2階の部屋に案内した。
部屋に入ると、ゆかりは深く頭を下げ、少し声を震わせながら言った。
「佐久間さん……あの時は、本当にありがとうございました。
もし佐久間さんが助けてくれなかったら、私は今頃あの家に戻されて、新次郎と強制的に結婚させられていたと思います。
みよりも、私と一緒に逃げてくれて……。
本当に、どれだけ感謝してもしきれません」
みよりも真剣な表情で続けた。
「私もです。
佐久間さんのおかげで、ゆかりと一緒にいられる今があります。
だからこそ、中途半端な気持ちでは絶対に嫌なんです。
これから中居見習いとして、本気で、一生懸命頑張ります。
どんなに厳しくても、どんなに辛くても、絶対に逃げません。
佐久間さんについていって、一人前の中居になれるように、必死で努力しますので……よろしくお願いします!」
佐久間さんの表情が、優しかったものから一転して引き締まった。
「わかりました。
ただし、言っておきます。
私はこれまで培ってきた技術と経験を、一切妥協せずに教えます。
甘えも、手加減も、一切しません。
体力的にも精神的にも、相当厳しいものになりますが……それでもついてくる覚悟はありますか?」
ゆかりとみよりは一瞬息を飲んだが、すぐに強く頷いた。
「はい……! 覚悟はできています」
佐久間さんは小さく頷き、鋭い目で二人を見据えた。
「では、明日から本格的に始めます。
遅れや言い訳は許しません。しっかりついてきなさい」
佐久間さんは部屋の中で姿勢を正し、二人を真正面から見つめた。
「最初に私の目的をはっきり言っておきます。
この宿が開業したら、私とゆかり、みよりの三人で宿を回せるようになりたい。
そして、いずれ入ってくる後輩たちを、私たちがきちんと育てられるようになること、
それが最終目標です」
ゆかりとみよりは真剣な表情で頷いた。
佐久間さんの声が一段と低く、厳しくなった。
「そのために、これから徹底的に叩き込みます。
挨拶と言葉遣い。お客様の前では一ミリも崩してはいけません。
接客。お客様の目を見て、気配りを忘れず、適切な距離を保つこと。
配膳。料理の運び方、置き方、順番、すべてに型があります。一箇所でも間違えば最初からやり直しです。
布団敷き。一枚一枚丁寧に、お客様が気持ちよく眠れるように。
清掃、備品管理、お客様の好みの把握、苦情対応……中居がやる仕事のすべてを、妥協なく教えます」
佐久間さんは一歩前に出て、二人の目を真っ直ぐに見据えた。
佐久間さんの目が鋭く光った。
「甘えは一切許しません。
朝は3時起き。夜は私が『終わり』と言うまで終わりません。
体力的にも精神的にも、相当厳しいものになります。
言っておきますが実際に営業が始まれば、睡眠時間3時間取れれば良い方です。お肌は荒れる。寝不足で集中力は切れる。それでもお客様の前では常に完璧でいなければなりません。
一度でも手を抜けば、その場で厳しく叱ります。
それでもついてくる覚悟は、本当にありますか?」
ゆかりは静かに、しかし力強く答えた。
「はい。覚悟はできています」
みよりも真剣な眼差しで頷いた。
「私も……絶対についていきます」
佐久間さんは小さく頷いた。
その後、佐久間さんは二人を真正面から見据え、一段と声を低くして厳しく言い放った。
「今日の内にやりたい事は、すべて済ませなさい。
言っておきますが——性交渉は、絶対に禁止です。
今の貴方達に、そんなことしている時間も、猶予もありません。
健太さんの話では、6月迄には宿が完成し、8月ごろには本格営業を始めるとのこと。
それまでに、貴方達二人を一人前の中居として仕上げなければなりません。
甘い考えは捨てなさい。当分の間、休みなどはないと思いなさい!!」
ゆかりとみよりは、佐久間さんの鋭い視線を真っ向から受け止め、大きな声で返事をした。
「はい!!」
佐久間さんは小さく頷き、口元をわずかに引き締めた。
「いい返事ですね。鍛え甲斐があります。
では私は健太さんと話してきます。お二人共、昼食を取りなさい」
そう言い残し、三人は1階へと向かった。
健太は四人分の食事を既に用意していた。
テーブルに並ぶ料理を前に、健太は今までにない真面目な顔で三人を見据えた。
「ゆかり、みより。
俺は明日から君達二人を、従業員として接する。
でもその事に対して、絶望したり、裏切られたなんて思わないで欲しい。
俺は君達を愛している。愛しているからこそ、厳しく当たる」
健太は少し間を置き、佐久間さんの方を向いた。
「佐久間さん、昼食後に実務の話をしましょう。
設計図を見てオペレーションの擦り合わせ、各種マニュアルの作成、必要備品の調達、イベント開催の有無など、課題は山積みです。
二人共、悪いけど今日は俺と佐久間さんは夜中位まで部屋から出ない。
夕食は自分達で取って欲しい」
その覚悟を決めた表情に、佐久間さんは小さく微笑んだ。
「どうやら、私の心配は必要なかった様ですね。
わかりました、健太さん。シェフの件も含めて、今のうちに決められることは決めましょう」
そう言いながら、三人は早めに食事を済ませた。
昼食後、佐久間さんは健太と共に自室に籠った。
残されたゆかりとみよりは、互いの顔を見合わせた。
ゆかりは静かに拳を握りしめ、心の中で強く誓った。
(絶対に物にしてやる。
妻として、いいえ——この宿を支える中居として、みよりと一緒に一人前になる)
みよりも目を輝かせ、胸の高鳴りを抑えきれずに思った。
(あぁやばい、私今すごくワクワクしてる。
絶対に佐久間さんの技術を全て引き継いで、健太君の夢を叶えてやるんだ!
ゆかりと一緒に‼️)
二人は静かに、しかし確かな決意を胸に刻んだ。
健太と佐久間は、夜中まで部屋に籠もって話し合った。
机の上には設計図とノートが広げられ、ペンの音と静かな会話だけが響いていた。
旅館を営業する上で必要なあらゆる事を、二人は一つひとつ丁寧に擦り合わせた。
佐久間が実務経験から語る接客の流れや、中居の動線、お客様対応の細かなポイント。
健太が持っていた宿のコンセプトや、農業と結び付けた独自のアイデア。
互いの知らない知識は、すぐにメモを取った。
健太は知らない言葉や手順を丁寧に書き留め、佐久間は健太の提案を興味深そうに聞きながら、自分のノートに書き加えていった。
時折、二人は顔を上げて意見を交わし、納得するまで何度も確認を繰り返した。
夜が更けても、二人の集中は途切れることがなかった。
朝のまだ薄暗い時間。
1階の和室では、すでに佐久間の厳しい指導が始まっていた。
「まずは基本の礼からやり直します。
お客様をお迎えするときの第一声は、宿の印象を決める最重要事項です。
姿勢を正し、背筋を伸ばしなさい。頭を下げすぎない。目線はお客様の足元より少し上を意識すること」
ゆかりとみよりは正座をし、額に汗を浮かべながら何度も礼の練習を繰り返していた。
佐久間の声は冷たく、容赦がなかった。
「声が小さい。『いらっしゃいませ』は、はっきりと、丁寧に。
お客様に届かない声では意味がありません。もう一度」
みよりは唇を噛み、心の中で自分に言い聞かせた。
(大丈夫……これくらいで弱音を吐いてたら、佐久間さんについていけない。
健太君の夢を、ゆかりと一緒に支えたいんだから……!)
指導は礼から始まり、次に歩き方へ移った。
「歩くときは音を立てない。
衣擦れの音すら、最小限に抑えなさい。
廊下を歩くときは、お客様の邪魔にならない動線を意識すること。
ふすまの開け閉めにも決まりがあります。音を立てず、静かに、でも確実に」
ゆかりが静かに息を吸い、姿勢を正した。
(私は……北条院の家を捨てた。
もう後戻りはできない。
ここで一人前にならなければ、健太の夢もみよりの事も守れない。
佐久間さんの厳しさは、全部必要なものなんだ)
さらに指導は、実際の接客業務に踏み込んでいった。
「お客様を客室までご案内した後は、お茶出しと館内案内です。
非常口の位置、お風呂の使い方、お食事の時間——すべて漏れなく伝えなさい。
その後は配膳。料理は一品一品、タイミングを見て運ぶ。
お客様の食事のペースに合わせること。早すぎても遅すぎてもいけません」
佐久間は二人の動きを鋭く観察しながら続けた。
「夕食後は布団敷き。
布団は一枚一枚丁寧に、お客様が気持ちよく眠れるように整える。
翌朝はお客様が食事をしている間に、手早く布団を上げる。
忘れ物がないか確認し、最後は玄関でお見送り——ここまでが中居の一連の仕事です」
みよりが少し息を整えながら、必死に言葉を飲み込んだ。
(……想像以上に細かい。
でも、全部覚えなきゃ。
佐久間さんの技術を、全部吸収する……!)
ゆかりも隣で同じように汗を流しながら、静かに自分を奮い立たせていた。
(この厳しさに耐えられなければ、家族として支えることなんてできない。
みよりと一緒に、必ず一人前になる)
時間は容赦なく過ぎていった。
窓の外では朝日が山を照らし始めていたが、和室の中では二人の呼吸音と、佐久間の厳しい指導の声だけが響き続けていた。
二人は息を整えながらも、必死に佐久間の指示に従い続けた。
宿で酒を飲んで投稿しています。なんだかんだで書いちゃうなぁ〜




