佐久間との合流と2人の覚悟
旅行前の最後の投稿です。
3日後、森川駅に着いた三人は駐車場に車を停めた。
予想の時間よりだいぶ早く、佐久間さんが待っていた。
三人は車から降りて、佐久間の元へ向かった。
ゆかりが明るく手を振りながら、
「お久しぶりですね、佐久間さん。」
佐久間さんは優しい笑顔で迎え、
「本当にお久しぶりです。お元気そうで何よりです。
みよりさんも……あら? 後ろの男性はどなたですか?」
と少し警戒した様子で健太を見た。
ゆかりとみよりは笑顔で左手の指輪を見せながら、
「実はこういう事なんです。詳しい話は車の中で……」
と言うと、佐久間さんは目を丸くした後、すぐに柔らかい笑顔になった。
「あら! あらあら! もしかしてパートナーになられたの?
でも……後ろの男性の正体がわからないですね?」
と少し混乱した様子で首を傾げた。
4人で車に乗り車内でゆかりは佐久間さんに今までのことを丁寧に話した。
「実は……健太さんに助けてもらったんです。
あの時、本家に見つかって連れ戻される位なら、みよりと一緒に死のうとしていたところを、健太さんが止めてくれて……。
それから一緒に暮らすようになって、最初は戸惑いましたが、健太さんの底なしの優しさや真っ直ぐなところに惹かれていって……。
私も、みよりも、健太さんのことが好きになってしまいました。
つい最近、健太さんにプロポーズされて、婚姻届も提出したんです。」
佐久間さんは話を聞き終えると、軽く息を吐いて微笑んだ。
「なーるほど、そういうことでしたか。
てっきり私はお二人がたぶらかされているのかと思ってしまいました。」
すると、隣に座っていたみよりが少し照れくさそうに、でも嬉しそうに口を挟んだ。
「私も最初はびっくりしたんですけど……健太君、ほんとに優しくて、暖かくて私達の関係も否定せずに受け入れてくれたんです。
ゆかりが好きになったのもわかるし、私もいつの間にか健太君のことが気になって……。
3人で一緒にいるのが、すごく自然で幸せなんです。」
佐久間さんは少し驚いた表情の後、柔らかく微笑んだ。
「そうでしたか……。
お嬢様がそんなに幸せそうなお顔をされるの、久しぶりに見ました。
健太さん……でしたね。
お二人をここまで大切に想ってくださって、本当にありがとうございます。」
佐久間さんは少し目を細め、感慨深げに続けた。
「私は長年北条院家にお仕えしてきましたが……お嬢様があんなに笑顔で話されるのは、本当に久しぶりです。
3人で家族になると聞いた時は少し驚きましたが、きっとこの3人なら上手くいくと思います。
私も、微力ながらお手伝いさせていただければ幸いです。」
みよりが健太に自慢げに言った。
「佐久間さんって凄いんだよ。18歳で中居さんの一番偉い立場になったんだって。テレビにも特集されたんですよね?」
佐久間さんは少し照れくさそうに、
「ええ、だいぶ昔ですが!」
ゆかりが真剣な顔で、
「それと佐久間さん、お願いがあります。私とみよりにも中居の修行をつけてください!」
佐久間さんは一瞬目を細め、真剣な表情になった。
「本気ですか? 言っておきますが、甘えや弱音は一切許しませんよ?
その覚悟がありますか?」
その目は、まるで長年培ってきたプロフェッショナルの鋭さを持っていた。
ゆかりは迷いなく、
「ええ、勿論です。これはみよりとも話し合って決めた事。
妻として夫を支えるのが一番です。ただでさえ健太には命を救ってもらって返しきれない恩がある。
みよりもそれでいいわね?」
みよりは力強く頷き、
「うん、いいよ。健太君の為にどんな辛いことでも耐える。」
佐久間さんは一瞬黙り、考え込んだ後、静かに言った。
「はぁー……わかりました。
健太さん、用意してもらいたいものがあるので、お家に着いたら買っていただけますか?
それと宿の設計図等あれば今のうちに頭の中でオペレーションを考えておきますので、よろしくお願いします。」
健太は頷きながら、
「わかりました。帰ったら用意します。
買うものは私の部屋のパソコンをお貸ししますので、それで注文してください。
宿の備品を扱っているサイトも何軒か会員登録しているので、是非使ってください。」
佐久間さんが笑顔で、
「ありがとうございます。では2人共、明日は3時起きですのでよろしくお願いします。」
ゆかりとみよりは真剣な顔で、
「はい、よろしくお願いします!」
と声を揃えた。
佐久間さんは少し考えてから、付け加えた。
「それと、知り合いの元中居仲間を何人か紹介しますので、開業までの間、新規に募集して受かった方はそちらで修行すると言う手筈でどうでしょう?」
健太「いいですね。是非お願いします。」とにこやかに言う、続けて健太が質問する。
「一般的に中居さんってどのくらいで一人前なんですか?」
佐久間さんが少し遠い目をして言った。
「一人前になるまで、早くて3年、ベテランになるには5〜10年はかかります。
でも私は……親が中居をやっていたので、小さい頃から自然と基礎を教えてもらっていたんです。
物覚えも早かったみたいで、先輩方にも『佐久間は飲み込みが早い』と言われながら、18歳で責任ある立場を任せてもらえました。本当に運と環境に恵まれた稀なケースです。」と思い出に浸るかの様に話す。
しばらくは雑談をしている。なんとなくみよりが健太の方を見た時に健太が悩んでいるのを見てみよりが問いかける「健太君どうしたの?そんなに悩んじゃって」と聞くと健太は「うん、厨房の人をどうしようかなって思っていてね。佐久間さん、厨房の人数って何人位が適切ですか?」
佐久間さんは少し考えてから、簡潔に答えた。
「小規模な宿で8組程度なら、最初はシェフ1名+助手2〜3名で十分回せます。
朝夕2ターンで、和食中心なら板前さんがメインで、下ごしらえは補助スタッフで対応する形が効率的ですよ。
開業当初は無理に多く雇わず、徐々に増やしていくのがおすすめです。」
みよりが心配そうに聞いた。
「シェフの人が休みの時や体調が悪くなって来られなくなった時はどうするんですか?」
佐久間さんは頷きながら、
「その点は大事ですね。小規模宿の場合、副シェフを1名確保しておくのが基本です。
急な場合は近隣の料理人ネットワークや、信頼できるケータリング業者に頼む形になります。
開業前にそうしたバックアップ体制を整えておかないと、宿の信用に関わりますよ。」
健太が三人に向かって、少し照れくさそうに提案した。
「出来るだけ色々な作物に挑戦したいんだ。
わさび、にんにく、お茶、ブロッコリー、カリフラワー、ズッキーニとかルッコラとかもいいな。
果物を育ててないから、りんご、みかん、梨、いちご……色々試したいことは沢山ある。
まだ耕作放棄地もあるし、ビニールハウスにできる場所は沢山あるから、季節の野菜以外は出来るだけこの場所で育てたい」
佐久間さんは目を輝かせて笑顔になった。
「素晴らしいですね。出来るだけここの野菜や果物を使う事で、宿の売り文句にできます」
そう言った後、少し心配そうに続けた。
「しかし大丈夫ですか? 1人で管理されてるんですよね? あまり無理しすぎると体が持ちませんよ?」
ゆかりが穏やかに答えた。
「佐久間さん、それは大丈夫よ。
彼の畑や田んぼ、ビニールハウスは人の手をほとんど必要としないわ」
佐久間さんは目を丸くして驚いた。
「え? ほぼ全て? それは凄い……!
なら色々な野菜や果物を育てた方が材料費も浮いて、凄く得です!」
そう言って、さらに興味深そうな表情を浮かべた。
健太が頭をかきながら(やる事が山積みだな、まぁ一つ一つ確実に片付けていくか)と思いながらこれからのことが楽しみでしょうがなかった。
旅行は人生のカンフル剤




