87、中間試験開幕!
「澪、もう平気なのか?」
「う、うん。心配かけてごめんね」
「いいよ、いいよ。元気な姿見られただけで。ね?」
「「「うんうん」」」
教室の一角で、陸斗、恒心、丈、市露、綴に囲まれている澪。
あの光穂一族での騒動の後、怒り心頭の千輝によって澪は二日間の検査入院が強行され、本日やっと学園に登校できたのだ。
「澪くんも無事みたいだし良かったよ」
「本当ですね」
澪らの対角に位置する教室の角で向かい合い話しているのは、現世で同じ高校に通っていた馨と綸。お互いが好意を抱いているのに一歩踏み出せない二人に周囲はもどかしそうだ。
「創式妖術『千変万化之烏羽』変化『奇麗な花』」
「……で? お前は何しているんだ?」
自席でひたすらに自身の烏の羽を変化させている夕柊に声をかけた馨。
「花っていいなって」
「いきなりどうしたんだよ」
「俺も花を作れる奇麗な人間になりたい」
そんな願望とは裏腹に作り出された花はどれも歪。花びらに亀裂が入っていたり、茎が異様に太かったり、そもそも花弁のない花が生み出されていたりとどうやら苦手のようだ。
「はいはーい、席ついてねー」
各々盛り上がりを見せていた教室に入ってきた担任・吟丸の声で一様に席に着く。
「楽しむのは大いに結構。でも……忘れていないよね? 中間試験」
その一言に初羽の子らは体を硬直させた。
「忘れて、いないよね?」
吟丸が微笑めば、一斉に逸らされる生徒の顔。
「はぁ、そんなことだと思ったさ。もちろん、ボーダーラインが設けられているから超えられなかったら退学だよ」
(((……だと思いましたー)))
初羽の子らは言われるまでもなくわかっていたようだ。
「うぅー、今度こそ本当にやばいかも。僕、勉強からっきし」
頭を抱えている恒心に「俺は実技がなぁ……」と天を仰いでいる陸斗。
――ゴン、ゴン
と、机に額を打ち付け正気を失っている丈のスケッチブックには弱々しい字で
【焦眉の急】(※さし迫っている危険)
と書かれている。
「焚、勉強がんばろうな」
「――うん」
「あー、これわかってへんってー! 心配や……ほんま、どないしよ……」
自身の心配ではなく、焚への心配で頭を抱えている市露。
「……実技、実技、じつぎ……」
馨の口から魂が抜けている。
一方、涼しい顔をしている綴に來、澪、トト。自身の心配はないが周囲の動揺具合にあてられ不安を募らせている綸。
まさに阿鼻叫喚。
「なにをそんなに嘆いているのよ」
そんな空気を裂くように響いた凛とした声。一斉に向けられた視線の先にいたのは乃々子だ。
「あたしが見てあげるわよ」
「「「……姉さん……」」」
「筆記のほうがメインになるけれど。実技は……夕柊とタッセルに見てもらうといいわ」
乃々子は夕柊、トトの順に指を差す。
「任された」
「えー僕もー? まあ、乃々子ちゃんに任されたならやるけどね。でも意外だね。自ら名乗り出るなんて」
「だって、その……」
言い淀み視線を逸らした乃々子。
「……その、みんなで受かりたい、のよ」
頬を紅潮させ恥ずかしそうに告げた彼女。普段はきりっとした目と眉は僅かに下がり、彼女本来の可愛さが垣間見えた。
静まった空気。が、それは一瞬で、
「「「……ね、姉さーん……!!」」」
と教室は大盛り上がりを見せた。
男性恐怖症を患っている彼女だが、共に過ごしていくうちに彼らの無理に接してこない優しさやひたむきな姿勢を目の当たりにし、受ける印象が変わってきていた。
そして、自分に寄り添ってくれる存在――綸がいたことで、乃々子は自ら一歩を踏み出す勇気を持ち始めていた。
「乃々子ちゃん、可愛いね」
ホクホク顔の綸に乃々子はさらに紅潮した顔で叫ぶ。
「だから、それやめて!」
そんなこんなで中間試験当日、本日は一日かけての筆記試験だ。
【問1、次の漢字のふりがなを書きなさい。
創式妖術 現世 空蝉】
(……えっと、小学校の問題かな?)
問1のあまりの簡単さに馨は拍子抜け。
【問5、現在『隠世』が稼働されていない理由を述べよ】
(いや、は? え、どう書けばいいの? 神様が述べていたように「……なんとなく」なんて馬鹿正直に書いてもいいもんか? それとも自分で考えて書けってこと? ちょっと、なにこの悪問!)
問5を見た陸斗の心境たるや。問の意図が計れずカチカチとシャーペンの芯を苛立ちのまま押し出している。
【問15、自身の妖術と相性の悪い妖と相対しています。この状況を切り抜ける方法を記入しなさい。ただし、クラスメイトからひとり選び共闘という形にすること】
(へぇー、なるほどね、面白い問題じゃん)
問題を読んだトトは頬杖をつきながら含みのある笑みを浮かべる。
時々呻き声が発せられたものの試験は昼休みを前に終わりを告げ、そして午後の授業。
「さ、試験の結果を発表しようね」
いつの間に採点を終えたのか試験の返却だ。
明日には実技試験が行われる。筆記試験での合否の不安が実技試験に影響しないよう配慮した迅速な採点である。
「結果から述べると……全員合格だよ。おめでとう」
「「「やったー!」」」
ホッと胸を撫で下ろす乃々子。全員が無事突破できたのは紛れもなく彼女の功績だろう。
~翌日~
「厳選なるくじ引きの結果、実技試験の対戦相手はこうなりました」
筒状の紙をもって教室に入ってきた吟丸は黒板に対戦票を貼り付ける。
一回戦 綸 ―― 恒心
二回戦 陸斗 ―― 丈
三回戦 來 ―― 乃々子
四回戦 焚 ―― 綴
五回戦 市露 ―― トト
六回戦 馨 ―― 澪
この対戦票にそれぞれが見解を持ちつつ、一行は吟丸を先頭に闘技場へと足を運んだ。
学園にある円形闘技場の観客席には既に多くの見物人が座している。スカウト目的の組織の者ら、生徒、生徒の家族、一族出身の者ら等々。
闘技場には、小型カメラが瞳に内蔵された梟らが無数に飛んでおり空蝉で中継される。こどもの頃に闘技場で戦う姿をテレビで見て憧れ学園入学を希望する者も少なくない。
それほどこの闘技場で行われる実技試験は注目されている。
「さあさあ、始まりましたね、中間試験の実技試験!」
マイクを持ち実況席で意気揚々と話す青年。赤い巻き毛に、首から頬にかけて火傷の跡がある。
「実況は俺、蘭 雄榮。それから、冴花ちゃん!」
「どうぞよろしく」
冴花と紹介された彼女は淡泊な声で軽く頭を下げる。彼女の席だけ異様に水浸しだ。
「さらに、尽くん、夕柊でお送りいたします!」
「どうもー」
立ち上がった夕柊は観客席に大きく手を振る。
「……いや、実況に四人もいらんでしょう!」
尽と紹介された彼はすかさず雄榮につっこんだ。
「何を言う尽くん。俺ら仲良し半魂組、仲間外れはいかんでしょうが」
「「そうだ、そうだー」」
頬を膨らませた雄榮に、明らか悪ノリしている夕柊と冴花。
「はぁ……」
このようにどこにも苦労人ポジションはいるもの。三つ編みされた顔の横の髪は彼の頭の動きに合わせて前に垂れた。
雄榮が述べていたようにこの学園には夕柊以外に半魂がいるのだ。
二学年『真羽』には、雨女との半魂・淋代 冴花。まさに彼女の席が濡れている理由だ。体から自然と滴ってしまう雨水により毎回こうなってしまう。
そしてもう一人。土蜘蛛との半魂・無凧 尽。背から生えた蜘蛛の足は狭そうに縮こまっている。
三学年『優羽』には、古籠火との半魂・蘭 雄榮。明るくよく笑う子だが、笑う度に口から火が噴き出てしまうため毎度クラスメイトから「笑うな!」と止められているのだとか。だが本人はお構いなしに楽しければ笑う。
「そしてー、解説はこの方! 我らが副生徒会長・桟 紫雨くん!」
勢いよく横に伸ばされた雄榮の手の後ろから姿を見せた、白髪と地毛の淡い紫が半分の割合で混ざり合う、両手に焦げ茶色の革手袋をはめた青年。
やや垂れた大きな目を瞑り、実況席に四人いるという摩訶不思議な状況に苦笑い。
「解説としては実況から一人譲り受けたいところだけどなぁ」
「じゃあ俺、解説にいく」
袖に隠れた右手を上げた夕柊は実況席を離れ紫雨の隣へ並んだ。
「よろしく、夕柊」
無表情だがわずかに横に揺れる夕柊の体から楽しみにしている様を感じ取った紫雨は微笑む。
「話がまとまりましたところで、まずは二学年『真羽』による団体戦ですね、紫雨くん」
「そうですね。真羽に上がるとまず『弐対』といったペアを組みます。相性等々により先生方が決めた二人組です。そしてこの団体戦は弐対初めてのお披露目になります」
「なるほどー。冴花ちゃん、尽くんは同じ真羽として注目している弐対はありますか?」
「そうね、やはり初戦かしら」
「僕もそうだね、なんてたって――お出ましのようだ」
――シャラン、シャラン
突如聞こえてきた厳かな音に騒がしかった闘技場が一瞬にして静まりを見せた。
ご高覧いただき感謝の至りでございます。
第七章『中間試験』篇開幕です。
この章はバトル多めの章となっております。ぜひ楽しんでいただけると幸いです。




