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64,答え合わせ


 画面中央左下に『40:00』とタイマーが表示され、画面に大きく『START』と出ると、タイマーが『39:59』へと段々に刻まれていく。


 そして、『38:30』あたりで盤のアイコンが黄泉へと移動した。時間の経過とともに繕、夕柊のアイコンも黄泉へと移動する。

 実際に捕まった時間に黄泉へと移動しているのだ。


 だが、常葉のアイコンが移動した時、

「……へ?」

 と、間抜けな声を出した人物がいた。陸斗だ。


 だが、皆は画面の変動に夢中になっていてそんな彼に気づいていない。たったひとり、夕柊を除いては……。


 夕柊は動揺している陸斗へと一瞬視線を向けたあと、画面へと視線を戻す。長い袖によって隠された口角はほんのりと上がっていた。


 夕柊、盤、繕のアイコンが黄泉から逃走中のスペースへと移動したのを見て、顔を顰める恒心と乃々子。


「してやられたところね」

「うん」

 平によって逃走を許した場面だ。


 が驚くことに、常葉も夕柊らと同じく黄泉に入ってすぐ逃走中のスペースへと移動したのだ。


「……え、なんで?」

 一番驚きを隠せないのは恒心と乃々子だろう。あの時、黄泉には誰も近づいておらず誰も逃げていなかったのだから。

 他の神使らも、捕まって黄泉に入ってはすぐに逃走中のスペースへと移動した。


「ちょ、ちょっとどうなってんの!?」

 そんな摩訶不思議な現象に驚きを隠せない恒心。


「とりあえず最後まで見てみよう」

 恒心の肩に手を置き言うトト。声は穏やかだったが顔からは笑顔がなくなっていた。


 そして、黄泉に入ってはすぐに逃走中へと移動する状況は、残り時間約『05:00』になるまで続いた。


 それからはなんの変動もなく時間は過ぎていく。

 『00:05』になった時、新たに動きが発生した。


 木歳のアイコンと夕柊のアイコンが続けて黄泉へと動きタイマーが『00:00』になると、画面中央に大きく『TIME UP』と表示される。


 よって最終結果が、

『失格』:田々、煉

『黄泉』:夕柊、木歳

 となる。


 少しの静寂の後、恒心が叫んだ。

「……見たらもっと意味わかんなくなったし!」


「ほんま、透明人間でもおったんとちゃうんかってぐらい次々と黄泉から解放されとったなぁ」

 市露も肩をすくめながら恒心に同感を示した。


「近くにもう一人いた、とか? でも全部で……陸斗?」

 口に手を当て言葉を発しながら思考していた馨は、様子のおかしい陸斗に気づく。


「……いや、あの時ちゃんと触ったはず。だって念の為って、もう一回触ったんだ。木の腕に――あ……」

 陸斗は頭を両手で抱えひとりブツブツと呟いていた。その最中何かに気づいたようにバッと頭を上げて常葉を見る。


 陸斗と目が合うと、顔を横に傾け不敵な笑みを浮かべる常葉。


「……マジ、か……」

 陸斗は引きつった笑みを浮かべ、悔しそうに唇を噛んだ。


「何があったんだ?」

 陸斗の背中に手を当て優しく尋ねる馨。


 陸斗は顔を歪め、常葉と木歳を捕まえた時の状況を説明した。

「ギリギリの体制で触れたから、木歳に触れられていたか分からなくてもう一度触れさせてもらったんだ。なのに……」


 言葉に詰まった陸斗に変わり常葉は話だす。


「腕に模した木の棒を木の坊やの袖に忍ばせ、それに触れさせたのよ。木の坊やは人間の姿だったんに簡単に騙されおって、笑いが止まらんかったわ。ハッハッハー!」


 綺麗で妖艶な容姿に似合わず豪快に笑う常葉。常葉の腕の中でその笑い方を木歳が真似をする。


「えぇ、普通気づくでしょ」

 恒心は腰に手を当て陸斗を見た。


「……いやほんと、なんで気づかなかったんだ……」

 頭を抱えたままその場にしゃがんだ陸斗。その表情も声も戸惑っている。


(……どこか、既視感?があるような、俺はこれを知っているような――)

「陸斗なら気づくよ」

 馨の思考を遮るようにトトの声が響いた。


「あっちが何かしたんでしょ、ねぇ夕柊くん」

 トトは陸斗の肩に軽く触れると夕柊の元へと近づき、少し屈んで小柄な彼と視線を合わせる。


「だって、神使の人数が合わないしさ。それにひとつ知らないアイコンがあるんだよね」

 トトの言葉に皆画面へと視線を向けた。


「……あ、ほんまや」

「だあれ、これ?」

 首を傾げる澪と焚。

 言葉は発さず、綴と來は顔を見合せた。


 だが、その正体に気が付いていた者が二人。馨と綸だ。


(なんで、なんで忘れていたんだ。これほど厄介な存在はいないというのに……!)

(どうして私たちは気付かなかった――もしかして、その時点で“いない存在”だと思わされていた……?)


 口を押さえて二人は畏怖の眼差しを夕柊に向ける。


「どういうこと?」

 トトは首を傾げ問う。微笑んでいるが圧があり、揺れて太陽の光を帯びた左耳のガラス玉が彼の眼光の如く輝いた。


「あれね、俺の神使」

 トトの圧に動じず夕柊は淡々と返す。


 彼の懐がもぞもぞと動き、中から(ふき)の葉帽を被り、霞草が散りばめられた着物を纏った小さな生き物がでてきた。その小さな生き物はトトと目を合わせると、よっ、と言いたげに片手を上げる。

姿形は人間だが、大きさは掌ほどで顔には口がついていないため話すことが出来ない。


「なにこれ?」

 片眉をひそめたトトは、夕柊の懐から顔をのぞかせている小さな生き物の頭を指先でつつく。遊ばれているような手つきに怒った小さな生き物は、なかったはずの口を大きく開いてトトの指先を噛んだ。


 ギザギザの歯で噛まれているのに痛みを感じていないのか、トトはそのまま手を顔の前にもってくる。小さな生き物はトトの指に噛みついたまま離れないため宙ぶらりん状態。

 いくら揺らしても離れないことを見ると、トトは噛み付かれた指を動かして楽しんでいた。


「うーうー」と、小さな唸り声をあげている小さな生き物。


「怒ると急に口が現れるんだよね」

 夕柊はトトの指に噛み付いてぶら下がっている小さな生き物を手のひらにのせる。途端、トトの指を噛むことをやめた小さな生き物。


 夕柊の方へ向き、手のひらにちょこんと座った小さな生き物の顔からはもう口は消えていた。

 頬を夕柊に指の甲で撫でられると嬉しそうに目を細める小さな生き物。


「こいつはコロポックルの『ちま』。能力は『誤想』。……つまり、思い込ませることができる」


 そして、撫でる指を止めて前を向くと首をこてんと傾けた。

「もう分かるでしょう?」


 夕焼けの一瞬の金色の輝きを写し取ったかのような綺麗なブロンドの瞳に見つめられ、皆は息を呑む。


「木歳を捕まえたと思い込ませて実際は、捕まっていない状態で黄泉に入っていた。腕相撲大会とか手に触れられることでもしておけば、あら不思議。捕まっている人は誰もいないのよ」


 タイミングを見計らったかのように吹いた風は彼の柔らかな髪を顔に覆いかぶせた。わずかに覗いた顔。少し細められた目に、口角もほんのりと上がっている。


 風は収まり髪が視界を広げた時には、彼の顔は無表情へと戻っていた。


「……そ、そんなのあんまりよ! だってもう一人神使がいたなんて知らないもの」

 乃々子はあまりの衝撃的な事実に戸惑いを見せながら反抗の意を見せる。


「じゃあ、知っている人がいたとしたら?」

「……え?」

「文句はない?」


 夕柊の視線にたじろいだ馨だったが、意を決すると深く頭を下げた。綸も続く。

「ごめん! 俺たちは知っていた。でも、今の今まで忘れていたんだ。ごめん」

「ごめんなさい!」


 二人からの謝罪によって流れた沈黙を破ったのはトト。

「要は、ちまちゃんを“いない”と思わせていたってことでしょう? 能力で」


 頷く馨と綸。あっけらかんと「そうだよー」と答える夕柊に、トトは苦笑い。


「で、でも、じゃあ掴まってないのに黄泉にいたことは……」

 なかなか食い下がらない乃々子。彼女は負けず嫌いなのだ。そして、負けられない理由がある。


「捕まってない状態で黄泉に居てはいけないってルールはなかったもん。反則じゃないでしょう?」


 夕柊から向けられた視線に微笑みを返した吟丸は、

「そうだね」

 と、確と頷いた。


「……あ、はは、やられたわー」

 右手の甲を額に当て空を仰ぎながら笑い出したトト。だが、その顔からは悔しさが滲み出ていた。


「……うあああ! まけたー!!」

「んなどんでん返しはなしやろー」

「……負けたのか」

 トトを皮切りに初羽の子らも悔しがり始める。


 片や喜びを露にする神使ら。

「ルスちゃん、うぇーい!」

「繕ちゃん、うぇーい!」


「やっぱ勝てちゃうんだよなぁ」

 望月は腰に手を当て苦笑い。隣で頷いているのは同じくトトの神使の穏月と、背に乗せたことで懐かれたウル。


 ちまを懐に入れ直している夕柊に一つの影が近づく。

「お主の言う通りにしたぞ」

 木歳を腕に抱いた常葉だ。夕柊と目が合うと口を横に広げニッと笑った。


「がんばったよ!」

 自分へと腕を伸ばす木歳を常葉から受け取り抱き上げる夕柊。

 木歳は夕柊の胸に嬉しそうに頬擦りをしている。


「ぜーんぶ、夕柊くんの手のひらの上。惨敗だよ、ほんと。……まさか、勝負が始まる前から仕掛けられているとは思わなかったけどね」


 腕を組んでやれやれと首を振っているトトに、「まったくです」と正座をして同意を示す馨と綸。ちなみにこの正座は自主的に行ったことである。


「始まる前に木の坊やとちまっこいのを渡された時は驚いたがな。こうもお主の思い描いた通りに進むとは、さぞ爽快だろう」


 瞑ることで吊り上がる目に、鋭さにやや欠ける牙が覗く大きな口を開けて満足そうな常葉。ピクピクと動く白い耳とフリフリ動く二尾からも見て取れる。


「聞いて驚け。プリンスが木の坊やが能力を発動させる機会を止めるところまで読んでおったからのう。ハッハッハー!」


 開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。銅像の如き馨は、綸に肩に触れられるまで動くことはなかった。

 夕柊はそんな馨にいたずらっ子のような笑顔を見せると木歳をその膝の上に乗せる。反射的に木歳を抱きしめた馨は、悔しさに塗れた顔を隠すように小さな木の肩に顔をうずめたのだった。



「……完敗ですわ」

 白衣のポッケに手を入れたままがくりと項垂れた陽炎。能面からは「あー……」と低いめき声が漏れていた。


「やったあ」

 後ろで手を組んだまま微笑んだ吟丸は喜びの言葉を口にする。ほぼ棒読みのような気がするが、喜んでいるということにしておこう。


 陽炎は馨個人へと賭けていた。そして、吟丸は木歳へと賭けていたのだ。

 裏で操っていたのは夕柊だったが今回のMVPは間違いなく木歳だろう。


 感情を素直に表している生徒らを微笑ましく思った吟丸は呼びかける。

「よし、教室に戻ろうか」

「「「はーい」」」

 肩を落とした初羽の子らは吟丸の後ろに着いて教室へと向かいだした。


「夕柊くん」

 ふいに名を呼ばれ立ち止まり振り返った夕柊。振り返った先には神使らが立ち止まり自分を見つめていた。


「夕柊くん、ありがとう。楽しかった」

 繕に続くように他の神使らも夕柊へと笑顔を向ける。

「……それはよかった」

 夕柊もほんのりと微笑み返す。


――そう。

 これは神恵子と神使の絆を確かめるものではない。

 神使にとって、自由に動ける最後の時間だったのだ。


 神使らは笑顔を浮かべたまま、ふっとろうそくの灯が消された時のように消えていった。


(おつかれさま、柊)

(あ、やっとでてきてくれた夕くん。少しくらい手伝ってくれてもいいのに)

(だって、僕に意思があることを知っているのは君だけだもん。ルール違反、なんじゃない?)

(それもそっか)


 夕の暖かな声に夕柊は目を瞑り胸に手を当てる。仄かな温もりは、段々と弱まっていた。


「夕柊くん何してんのー? 行くよー!」

 立ち止まっていた夕柊を今度は恒心が呼ぶ。


「……今行く」

 神使らがいた場所を名残惜しそうに見つめたのち、夕柊は長い袖の下の手を握り締めて歩き出した。


ご高覧いただき感謝の至りでございます。


ちまちゃんを覚えていましたか?

今まで忘れていたという方は、夕柊とちまちゃんの術中にはまっていましたね。


だと思った! 騙された! いいね!

良ければリアクションで気持ちを教えてください!

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