第五十二話 アヤカミ 1
「「「アヤカミ?」」」
馨、綸、恒心、綴、來の元現世組プラス焚が首を傾げる。
「へぇ、なんか面白そうじゃん」
腕を組んで口角を上げたトト。ボイコットからは免れたようだ。
「マジ? テストになんの?」
「ならへんならへん」
【燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや】
(※大人物の遠大な志は小人物にはわからないということ)
一方、『アヤカミ』が何かを知っている一族組は不信感を募らせていた。
代表して腕を組んだ乃々子が吟丸に問う。
「どうして子どもの定番遊びをテストなんかに?」
「……え? 遊び?」
一拍遅れて反応を見せた馨。
「そうだね。一族の子たちは知っていると思うが、知らない子たちの為に説明しようね。『アヤカミ』とは『妖と神恵子』の略で、簡単に言うと鬼ごっこだよ。妖が逃げる側、神恵子が追いかける側。捕まった妖は『黄泉』に送られます。だが、捕まってない妖に『黄泉の門』を開けてもらえればもう一度逃げられるという鬼ごっこ」
吟丸の説明を聞いて元現世組は思った。
(((ああ、これ『ケイドロ』だ)))
「ふーん。空蝉版ケイドロね。で、それがテストだと」
作り物の笑みを携えたトト。まずい、ボイコットの危機が再び舞い降りてきている。
そんなトトは意に介さず、こちらは穏やかな笑みを崩さない。
「名前の通り、逃げる側の妖を神使、追いかける側の神恵子を君たちにやってもらいます」
「人数半分って、それ鬼側かなり有利じゃん」
恒心が単純な疑問を口にする。
「そうだね。なので、いくつかのルールを用意しました。
その1、神恵子側は妖術を使ってはいけません。
その2、妖側は妖術を使えるのは一度だけです。ただし、他の神使が使っている時に使ってはいけません。
その3、勝利条件は、全ての妖が捕まった時、または制限時間終了時に半数以上の妖が捕まっていた場合です」
「なるほど、その2なんて特に理に適っているルールだね」
吟丸の説明をすぐさま理解したトトに馨は問うた。
「そうなの? 1回だけなのはまだしも、他の神使が使っている時には使えないって意味ある?」
「妖術を使えるのが1回だけだとしても制限時間ギリギリに一斉に使われたとすれば、僕たちには為す術ないからね。たった一人でも残っていたら全員タッチされて、はい勝ち逃げ、でしょ? それに、弥々子ちゃんにずっと監視されちゃたまったもんじゃない」
「ああ、たしかに」
その説明に理解を示した馨は乃々子へと視線を送った。正確には乃々子の神使・百々目鬼の『弥々子』にだ。
背後から彼女を守るように首に腕を回している。黒く長い髪に顔は隠されていて見えないが容貌は女性。だが、真っ白なキャミソールワンピースから覗く手足には無数の目が付いていた。
「うん、なかなか面白いゲームになりそうだ」
このルール説明に満足げなトト。ボイコットの危機はとうとう完全に消滅した。
「そして、公平に採点するために、今回は僕の他にもう一人採点する先生に来てもらいました。あら……陽炎先生です!」
吟丸の言葉に合わせて彼の背後から姿を現した人物。
「やあやあ」
着物の上に白衣、顔には小面の能面。保健室の先生『陽炎』だ。
「あ、お面せんせー」
焚の声に応えるように緩やかに手を振って見せる陽炎。
「相変わらず目立つなぁ」
一風変わった様相に陸斗は苦笑い。
「公平ねぇ……」
馨はと言うと、眉を顰めいぶかしげな視線を送っていた。
「なんだね、僕だと不満か?」
「……いえ別に」
「わっかりやすー。ケッ」
陽炎はどこにいっても陽炎だ。
「ふふ、それから妖側には特別アドバイザーとして柊に入ってもらいます」
「ほいきた」
袖に隠れた両手を上にあげて喜びを露にする夕柊。声や表情には全くもって現れていないが、それが彼であり、彼が皆から愛される所以だ。
「げ、夕柊くんはいるの?」
肩を落として舌を出す恒心。彼の枯葉色のポニーテールが肩に落ちる。
「難易度桁違いに跳ね上げんねぇ」
トトもこの采配には何か思うところがあるようだ。
「場所はここ、裏山。今から30分後に始めるよ。作戦会議でも良し、準備運動でも良し、各々好きに使ってね」
――神恵子側――
輪になって顔を突き合わせている初羽の子ら。
斑鳩 陸斗
「……で、どうするよ?」
佐野 恒心
「現世のケイドロほど単純じゃないっしょ?」
篷 市露
「本来のルールは単純やねんけどなぁ」
兎田 焚
「ようじゅつ、ある」
銘苅 乃々子
「そうね。まさか神使と対立するとは考えもしなかったわ」
陸斗
「そうなった以上、腹括ってやるしかない。神使に手を出せないなんて、そんな甘い考えは捨てないとな」
那珂町 馨
「うぅ……木歳……」
七々扇 綸
「テストですもんね。頑張ります」
蛍藺 綴
「やるからには全力だ」
泉井 來
「負けられない」
光穂 澪
――コク、コク
鼓 丈
【人事を尽くして天命を待つ】
(※人間ができる限りのことをし、あとは静かに天命に任せること)
霄 トト
「とりあえず、夕柊くんは色々考えていると思うから要注意だね」
――妖怪側――
輪になって好きなように座っている神使ら。
夕柊(半魂『烏天狗』)
「うん、気ままに自由にいこうー」
望月(トトの神使・神獣『狼』)
「君は作戦とか考える方だと思ったんだけどな」
穏月(トトの神使・神獣『狼』)
「自由でいいのか?」
繕(恒心の神使『枕返し』)
「いーねー、楽しそー」
磐(陸斗の神使『だいだらぼっち』)
「役に立てるかなぁ……」
平(丈の神使『蟒蛇』)
「なんでも指示してくれ」
弥々子(乃々子の神使『百々目鬼』)
「私はさしずめ監視役って感じかしら」
ルス(焚の神使『古空穂』)
「とりあえずうちらは全力で逃げるのみ!」
ウル(市露の神使『古空穂』)
「それしかないな」
田々(綴の神使『泥田坊』)
「いざとなれば俺の能力が使える」
煉(來の神使『ヒザマ』)
「でも1回だけってのがなぁ」
木歳(馨の神使『木霊』)
「主、いっしょじゃない……」
常葉(綸の神使『白狐』)
「我が全員火炙りにしてやろうか?」
おこめ(澪の神使『隠神刑部』)
「おや、殺す気満々ですか?」
夕柊
「いいね、好きにやろう」
常葉
「ほお。貴様は話がわかるやつだな」
望月
「限度ってもんがあんでしょ」
夕柊
「自由に楽しめばいいのよ。これはそういうものだから」
――神恵子側――
市露
「まずは妖術を使わせんとなぁ」
焚
「なんで? つかまえるんじゃねぇの?」
馨
「捕まえたとしても、黄泉で妖術を使ってはいけないってルールはないからだよ」
陸斗
「相手がそれをわかってないといいんだけどな。分かっていたらなかなか使ってくれないだろうし」
澪
「そうやね」
綴
「門番は誰がやる?」
乃々子
「私にやらせて。視野の広さには自信があるわ」
恒心
「僕も!」
綸
「鬼の人数が多いなら、数グループに別れて一人ずつ追い込むのが鉄則ですけれど……」
陸斗
「夕柊くんがいる以上そうはいかないだろうな」
來
「勝ち筋あるの?」
トト
「夕柊くんをどこまで封じられるかにかかっているかな」
恒心
「夕柊くんって何をしてくるか想像できないよねー」
トト
「彼は最後まで能力を残しておくだろうね。制限時間間際に全員浮かせてタッチするのが一番理想だから」
市露
「せやんなぁ。重力操作って強すぎ」
馨
「まずはどうする? トト」
トト
「とりあえず、追い込んで妖術を使わせる。それから捕まえていこう」
綴
「となると、見つけるところからだが……」
トト
「それは心配いらないよ。目立ちたがり屋がすぐにアピールするさ」
「それでは制限時間40分。『アヤカミ』スタート!」
吟丸の開始の合図と同時に響き渡る音。木から鳥たちが一斉に羽ばたいた。
――ゴゴゴゴ、ボキ、ボキ
地面の揺れる音、木の折れる音を出しながら、何かが木の上に顔を出す。
トトはその様子を見て口角をあげ言った。
「ほらね」
「これでいいのぉ?」
木から上半身を出すほど大きくなった、陸斗の神使『盤』が地面を見下ろして声をかける。姿かたちは人間だが体表は黒く変化しており異質さを放っていた。
『だいだらぼっち』
【巨大化:体を自在に大きくすることができる】
「ほぉー、たっけー! さっすが磐ちゃん!」
その肩の上では、恒心の神使・枕返しの『繕』が磐の大きな耳に捕まりながら立っている。こちらは人間と相違ない容貌。
「高ーい。でもばれるー!」
「バカだろ! 捕まりに行くようなもんじゃねぇか。……クソ、巻き込まれた……」
盤の肩の上、繕の後ろから這いつくばって出てきたのは、焚の神使・古空穂の『ルス』と市露の神使・古空穂の『ウル』。キトンを纏っており、腰には空穂を付けている。ルスは女性、ウルは男性の姿だ。
そして、綸の神使・白狐の『常葉』と常葉に抱かれた馨の神使・木霊の『木歳』も居た。
「なんと、いい眺めだ! 見てみろ木の坊や」
白い耳とふわふわな尾を動かしながら盤の肩で仁王立ちしている常葉は豪快に笑いながら木歳を持ち上げる。
「わぁー!」
両手足をばたつかせながら喜びを露にしている木歳。上からの眺めにご満悦のようだ。
「何やっているんだ……。俺たちは逃げるからな」
開始早々盤に指示をして妖術を発動させた繕に呆れている綴の神使・泥田坊の『田々』は、盤の巨大な足に労うように手を置くとその場から走り去っていった。
「健闘を祈る!」
來の神使・ヒザマの『煉』も後に続いた。
「監視は任せて」
乃々子の神使・百々目鬼『弥々子』は夕柊へ一言入れると彼らとは反対方向へ駆けていく。
その他の面々も散り散りに逃げていった。
「ほぉ」
「壮観ですね」
巨大化した磐を見上げている夕柊と、澪の神使・隠神刑部のおこめ。彼の容姿は男性だが、優し気に細められた垂れ目の下はやや黒く、狸の尾、胸元には煙管を差していた。
おこめは、手を翳し見上げている夕柊に視線を移し問う。
「少し自由にやりすぎでは? あくまでテストなのでしょう?」
「テストなんて建前だよ。どちらかというとこれは、神使のためのものだしね」
夕柊は視線をおこめに向けながら淡々と告げる。彼のブロンドの両目は光を帯びてビー玉のように輝いた。
「私たちの?」
ご高覧いただき感謝の至りでございます。
一気に神使の登場です。
彼らの出番はそれぞれ用意されていますので、ゆっくりとお楽しみください。




