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第三十二話 空蝉一族図鑑

こんばんは。

『暮色 ―ぼしょく―』と申します。


 受け取り口からやや離れていたが空いている席を見つけて座る(かおる)ら。


「あ。おーい、ふーみん、こっち、こっちー!」

 テーブルにお盆を置いた恒心は、少し離れたところでカレーの乗ったお盆を手にきょろきょろしている文哉を見つけて声をかけた。


「あ!」

 と、嬉しそうに笑顔を見せた文哉は端にいた馨の隣に腰かける。


「悪い、悪い。ちょっとトイレ行っててな。てか、カレーしか残ってないのな」


 その点において同意を示した馨。だが、当の文哉は不満には思っていないようだ。なんなら初めからカレーを頼もうとしていたかのよう。


「ねぇ」

 突然声を発したトト。醬油ラーメンを口に運びかけていた恒心が「ん?」と、顔をトトに向けた。が、視線は合わない。


 トトは別の人に声をかけていたからだ。

「一緒にどう?」

 カレーを乗せたお盆を手に席を探していた二人に声をかけていた。


「綴くん、來ちゃん」

 僅かに傾けられた顔の動きに合わせて揺れる、左耳のガラス玉とタッセルの耳飾り。


 しばらく無言が続いたが、綴は頷いた。


「……ほう、いいんだ」

 トトのその反応を見るに断られると思っていたようだ。だが実際二人は受け入れた。これにはやや拍子抜けのトト。


「案外集まったね」

 口の中にあったものを嚥下し、ここにいるクラスメイトの顔を見渡す恒心。


「だな。市露(いちろ)さんと焚は弁当持ってきているって言っていたし、(いと)ちゃんと乃々子ちゃんは二人で仲良く食堂出て行ったし、――澪くんは、気が付いた時には教室から姿が消えていたな。声をかけようと思ったんだけど。忍者かね?」


 武道場騒動の後、教室へと戻った一行。そして各々着替えて昼休みとなった状況を思い浮かべて陸斗が話す。


 バッと机上に立てられたスケッチブック。

【三代続けば末代(まつだい)続く】

(※家業は三代続けば末永く続くものであるということ)


「いや、まだ忍者の末裔って決まったわけじゃないから」


 反射でつっこんだ馨に満足そうに頷いている丈。その顔からは「いいツッコミするな、お前」という称賛が滲み出ており、馨はため息を零すのだった。


(夕柊に対するように突っ込んじゃったな。というより、突っ込む対象は奴だけであってくれ……!)


 それからは、各々食べつつ他愛無い会話をし、気が付けば全員の皿は奇麗になっていた。


「聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 ここで話を切り出したのは以外にも(つづる)だった。


「陸斗や丈たち『一族』について教えてもらいたい」

「あ、それ俺も知りたいかも」

「僕も!」

 綴に便乗した文哉に恒心、馨も頷いて同意を示す。


 司会者よろしく咳払いをした陸斗はパッと顔を輝かせると、斜向(はすむ)かいに座る丈と顔を合わせた。


「ではでは、りっくんと――

【丈による――】

「空蝉『一族』図鑑!」

【空蝉『一族』図鑑!】

 どこかで打ち合わせをしていたのかと問いたいほど息の合った二人。


(図鑑って、生態じゃないんだから)

 二人の言い草に馨は苦笑いを零す。


「まず、『一族』ってのは、固有の妖と血で契約している人間たちのことね。『斑鳩(いかるが)』である俺らが契約している妖――契約神使は『だいだらぼっち』と『海坊主』。能力は『巨大化』」


 と、力こぶをみせた陸斗。そんな陸斗の力こぶを意味なく指でつついる丈。


「『斑鳩』は一族の中で唯一、二種の妖と契約している。といっても、似たようなもんだけど」


 陸斗の説明に合わせるようにスケッチブックにペンを走らせていく丈。だが、今回は字ではなく絵のようだ。


 あっというまに海と陸、それから真っ黒に塗りつぶされた対照的に大きい人間が二人描かれた。


「『だいだらぼっち』と『海坊主』はかつて双子で、陸と海の狭間で誕生した二人は押し寄せた波によって生き別れとなってしまい、それぞれ陸と海で生きることになった。とかなんとか一族の言い伝えがある」


 丈の描いた絵に指を這わせて語った陸斗。


「裏話だ! 面白い!」

 興奮冷めやらない様子で恒心と文哉は前のめりでスケッチブックに釘付け。


 丈は頃合いを見計らいページを捲ると新しい絵を描き始めた。蛇の絵と、その口から何かが吐き出されている絵。


「丈のところ『(つづみ)』一族の契約神使は『蟒蛇(うわばみ)』だ。能力は『鼓毒(こどく)』。体内で毒を生成し、口から吐くことができる」


 絵を指さす陸斗の説明に耳を傾ける一行。


「だから、一族の者は――」

 そこで一度言葉を切った陸斗。に合わせて舌を出した丈。


「このように舌が長く二股に分かれている」

「すごい! 蛇みたいだ!」


「本来の蛇の機能とは違い、毒を吐き出すために進化していったのではないか、と一族間では云われている――だっけ?」


 陸斗に投げかけられ、舌を仕舞った丈は頷いた。


「一族って結構外見にも特徴があるんだよな。俺らの場合は褐色肌に、深緑の瞳か深青色の瞳で生まれてくるし」


 陸斗は自分の肌と瞳を指さすと歯を見せてニカリと笑う。


「ひとつひとつ話すと長くなりそうだし、ダイジェストといきますか」

 そう言い、陸斗は丈と視線を合わせた。丈も頷き返す。


 馨は言い知れぬ高揚感に包まれていた。これから知る内容が少なからず、未知の世界に足を踏み込む感覚と似ていたからだ。


 だが、正面から送られる熱い視線に高揚感はおのずから萎んでいく。


(……はいはい、それを俺が読めってことね)

 大きくため息をついた馨は、スケッチブックと馨に交互に視線を送ってアピールをしている丈に渋々頷いた。


 そして準備が整ったのか、顔を見合わせた陸斗と丈は息を合わせて、

「それでは、どうぞ」

【それでは、どうぞ】

 と、こちらに手を差し向けた。


「一族は全部で『24』」

 始めに口を開いたのは陸斗。一族の概要を説明してくれる。


「まずは『(かけはし)』一族。五代一族がひとつ。契約神使は『鬼』。多種多様な鬼の性質を能力として行使できる」


【構えて慎め。色を冠する名を持つ美しき彼ら、ひとたび見惚れば沼入りよ】


 続く丈は、謳い文句をスケッチブックに書く。代読は馨だ。腹をくくったのか、案外ノリノリで読んでいる。


「お次は『門廻(せど)』一族。五代一族がひとつ。契約神使は『天狗』。能力は『羽団扇(はうちわ)』。羽団扇を振って風を起こす。代々任せられているのは『神宮博物館』の管理」


【天狗下駄鳴らして颯爽とおいでますは『仁義の一族』。受けた恩は忘れない】


「三つめは『観音坂(かんのんざか)』一族。契約神使は『食人木(しょくじんぼく)』。能力は『ゆりかご』。木の根を人型に形成し包み込む。代々営んでいるのは『千日草(せんにちそう)』という名の孤児院」


一度(ひとたび)話せばそこは笑いの渦。生子(うまれご)にあてがわれます名は、言葉持つ植物さ】


「四つめは『鶯生(おうしょう)』一族。契約神使は『天邪鬼』。能力は『読心』。空蝉では欠かせない病院『岐神(ふなどのかみ)病院』の大黒柱」


【八重歯に尖った耳。顔には天邪鬼の爪に刻まれり唐紅(からくれない)の傷。稀に居ますはハート型】


「五つめは『宝生(ほうしょう)』一族。契約神使は『(しん)』。能力は『幻園』。幻を見せる」


【『男はしたたか、女は豪胆』なり。惑わされてはいけないよ、だって彼らは幻だから】


「六つめは『(たちばな)』一族。契約神使は『猫又』。能力は『念話』」


【故に無口。かの者おはしますは鈴の音】


「七つめは『(とどろき)』一族。契約神使は『(ぬえ)』。能力は『落雷』」


【ターバン靡かせ道を征く。一族の証は雷の入れ墨】


「八つめは『八重樫(やえがし)』一族。契約神使は『一つ目小僧』。能力は『呪符』。呪符に書いた事象を起こす。が、代償あり」


【腰にゆらゆら行灯(あんどん)は、呪いの受け皿なりて闇夜に手招き牙をむく】


「九つめは『九々湊(くくみなと)』一族。契約神使は『ぬりかべ』。能力は『壁立千仞(へきりつせんじん)』。自身の蓄えをエネルギーに変えて壁を生成」


【目立ちます。なにせ縦にも横にも大きい故に。なお痩せた姿はハンサムでしてよ】


(とお)つめは『十文字(じゅうもんじ)』一族。契約神使は『唐傘小僧』。能力は『和傘』。和傘を自在に操る」


【底抜け明るい彼らの傍ら閉じた和傘。傘開かれしそれ即ちお鉢が回る】


十一(とおひと)つめは『(とま)』一族。契約神使は『古空穂(ふるうつぼ)』。能力は『弓矢』。弓矢の生成及び駆使」


【随一の穏やか処。折り鶴の簪は平和の象徴。したがって御法度『現世人殺し』なり】


「十二つめは『斑鳩(いかるが)』一族。契約神使は『だいだらぼっち』に『海坊主』。能力は『巨大化』」


【天真爛漫さに垣間見えますは怪力。笑って車を持ち上げちゃう】


「十三つめは『(つづみ)』一族。契約神使は『蟒蛇(うわばみ)』。能力は『鼓毒(こどく)』」


【お腰に付けた酒入瓢箪(ひょうたん)。気まぐれ蛇を手懐ける軍需(ぐんじゅ)よ、ここにあり】


「十四つめは『光穂(こうすい)』一族。契約神使は『隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)』。能力は『分身』」


【麻呂眉動かし煙管(きせる)を吹かす。口当ての下は、はてさてはてさて】


「十五つめは『無凧(いがらし)』一族。契約神使は『土蜘蛛』。能力は『糸巻』。背に生やした蜘蛛の足から糸を生成及び操作」


【トレードマークは、はためく三つ編み。時に縄の代わりとて、時に蜘蛛らのご褒美よ】


「十六つめは『東久邇(ひがしくに)』一族。契約神使は『絡新婦(じょろうぐも)』。能力は『金縛り』。指先から出す透明な糸で動きを封じる」


【目を惹きますは、体表蠢く蜘蛛の母斑。妖しく手招き徒に笑う】


「十七つめは『燕昇司(つばくろしょうじ)』一族。契約神使は『座敷童子』。能力は『幸と不幸』。幸せだと思った刹那、不幸せを見舞わせる」


【赤い羽織に紅をさしたあの子とは口をきいてはならないよ。だってね――】


「十八つめは『(あららぎ)』一族。契約神使は『古籠火(ころうか)』。能力は『火玉』。口から火の玉を吹く」


【曰く『勲章』。換言せしめば火傷の跡。遊んでいるのはくるりと丸い髪の毛ら】


「十九つめは『阿座上(あざがみ)』一族。契約神使は『面霊気(めんれいき)』。能力は『面』。能面の持つ能力の行使。例えば『般若(はんにゃ)』。面を付ければたちまち自身を強化」


【大っぴらに見せびらかします、その面を。おっと、本性は見せないさ】


二十(はた)つめは『交久瀬(かたくせ)』一族。契約神使は『のっぺらぼう』。能力は『与奪』。顔の部位を奪ったり、与えたり」


【顔中ピアスの煌めきは、奪いし顔封じる代物よ】


二十一(はたひと)つめは『弓庭(ゆば)』一族。契約神使は『河童』。能力は『尻子玉』。下腹部に触れ一時腑抜けにさせる」


【『河童の魂、皿に宿る』。つきましては、ご愛用皿を隠しましょう。そう丸帽に】


「二十二つめは『淋代(さびしろ)』一族。契約神使は『雨女』。能力は『降雨』」


【水弾く着物はオーダーメイド、水滴らせ進むはグロウスロード】


「二十三つめは『蓬莱(ほうらい)』一族。契約神使は『雪女』。能力は『降雪』」


【自らを煩わせる雪なりて、されど悪を淘汰せんとす】


「最後、二十四つめは『銘苅(めかり)』一族。――」


ご高覧いただき感謝の至りでございます。


一族をざっと紹介です。

今後出てきますのでお楽しみを。


※世界観の設定をまとめたものを上げました。最後まで物語のプロットができております故、章設定も公開しております。また、登場人物等空欄がありますが、登場した際随時追記していきます!


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