第十七話 初めのクラス『初羽』
こんばんは。
『暮色 ―ぼしょく―』と申します。
「これで全員かな? ではでは、さっそく自己紹介をしてもらおうか」
全員が席に着いたことを見計らって手を打ち合わせた吟丸が告げる。
「我先に! ……という人はいるかな?」
流れる静寂。
吟丸は、まあ予想していた、という反応を示しつつ窓際一番前の席に座っている生徒を指名しようとした瞬間――
「はい!」
と明るく凛とした声が響き渡った。
「僕やるよ!」
皆が最も避けたがる教卓目の前の席に座っている少年が手を挙げている。
「ありがとう。じゃあ、前に出ておいで」
吟丸の手招きに素直に応じた少年は、腰まである枯葉色のハイポニーテールを揺らして教卓に立った。
彼の制服はなぜか肩から袖がなく、細くも引き締まった右の二の腕には黒い襷が巻かれている。
「オーダーメイド?」
彼の制服を見てこてんと首を傾げた綸。
「はじめまして。『佐野 恒心』、14歳でっす!
趣味は物色中! こっちの世界のことは何も知らないので色々ご迷惑かけると思いますが、よろしくお願いします!」
そう挨拶した恒心は、バッと勢いよく頭を下げた。頭上から長いポニーテールが前に垂れる。
「先生、次の人は指名制にしません?」
今度はバッと頭を上げた恒心は、教卓から離れて眺めていた吟丸に提案する。
「うん、いいね」
「よし、じゃあ次は……りっくん!」
彼は悩んだ素振りを見せたものの指名する人は初めから決めていたようで、自分の席の後ろに座っている人物を指さした。
「だと思ったぜ」
『りっくん』と恒心に呼ばれた彼は立ち上がり入れ替わりで教卓に立つと、ニカッと効果音が付くような快活な笑顔を浮かべた。焼けた肌が健康的で、深緑の瞳が良く映えている。首から下げているのは薄紅色の桜の首飾り。
「『斑鳩』一族代表、『陸斗』っす。15歳。
趣味は釣りと登山。特技は水切りで、最高は28回!」
「「「おぉー」」」
陸斗の記録宣言に感嘆の声を上げる男子たち。
「28回はなかなかですな」と夕柊。
「どこの川でやったんだろう」と馨。
「……(すみません。私には共感が出来ません)」と綸。
波は過ぎ、次の人が指名され自己紹介は進んでいく。
「こんちは!『野呂 文哉』です! 17歳で、数ヶ月前まで工業高校通っていました!
なんで、特技は機械設計と機械工作です! よろしく!」
元気よく笑顔で力こぶを見せる男子生徒。制服の上からでも腕の太さが伺えた。
「機械工作ってこんなんかな?」
と、夕柊が膨らませているイメージ(合体ロボット)がとんちんかんで、
「ちがうわ!」
と、ツッコまざるを得なかった馨。
「『篷』一族代表、『市露』と申します。歳は17やでー。
訳あってそこの子の兄をしとります。よろしゅうなぁ」
関西圏にある『篷』一族。故に関西弁であるが語気はとても優しい。前髪含め耳より上の髪を、小ぶりな折り鶴が付いた簪で団子にまとめており、下ろされた毛は胸下ほどの長さだ。
彼により和らぐ、緊張で固くなっていた空気。
「『兎田 焚』。12。『市』はお兄ちゃん」
市露に『そこの子』と指さされていた子だ。歳も幼いが、小柄で心配になるほど体が細い。制服は一番上のホックまでしっかりと閉めている。12歳にしては語彙がひどく乏しい。
「『蛍藺 綴』。16歳。
……数年前弟が神隠しに会い、その弟を捜すためこっちの世界に来ました。よろしく」
一目で聡明だとわかる顔立ちに佇まい。だが、自身から述べた通り抱えているものの大きさから陰りのある瞳をしていた。
「神隠し……」
自分と同じ状況の彼を見て誰にともなく呟いた馨。
「『泉井 來』。16歳。
綴とは幼馴染で、一緒に探すためこっちの世界に来ています。よろしくお願いします」
焚ほどではないが線の細い体、男性にしてはやや高めの声。そして、綴以上に陰りのある瞳をしていた。
重い自己紹介が二人続いたことで漂う不穏な空気感の中、次の者が立ち上がる。
その者異様につき、皆が唖然とした。
――パラリ
紙が捲れる音。
【『鼓』一族代表、『丈』。15歳】
もう一度パラリ。
【趣味は毒の味見。なくて七癖、あって四十八癖】
そして、一礼。
下げた首にぶら下がっていたスケッチブックは揺れ、上げられた頭に従うように定位置である彼の腹元へと戻る。
「「「(……な、なんか、独特な子……)」」」
クラスの総意である。
当の本人は無表情であっけらかんと次の人を指名し、とうとう一言も発することなく自席に戻った。
丈に指名された者が立ち上がる。
前で光を伴い揺れたガラス玉とタッセルの耳飾りに視線が引き寄せられた夕柊。
彼が動き出したことで、どこか空気が変わる。
「はじめまして。『霄 トト』です。歳は16。
趣味はお喋りすること、特技もお喋りすること。ということで、ここらでひとつ。――僕には兄が一人いて、名前は『テテ』。……だから、実はどこかに『タタ』、『チチ』、『ツツ』という名前の兄か姉もいるんじゃないかと思っています。なので、見つけたら僕に一報ください。よろしくー」
一度流れた沈黙ののち、クラスは笑い声に包まれた。
「おーけー、おーけー! 見かけたら声かけるわ!」
「ジブン、ええ掴みするやん。気が合いそうやわぁ」
この機を逃さまいと盛り上げるクラスメイト。
「すごいトトさん。一気に雰囲気が和んだ……!」
教卓で皆に笑いかけるトトを見て馨が尊敬のまなざしを向ける。
「はい!」
と、綸も笑顔で同意を示した。
トトは教室を見渡し指名する人を探し出す。彼の視線が一点を見つめて止まった。自分かと思った馨だったが、少しずれていると気が付き隣へと送る視線。
夕柊は彼をただ見つめ返していた。奇麗な顔を微動だにせず真っ直ぐと見つめ返していた。
そして、やおら視線を吟丸に向ける。
「俺もいいの?」
「もちろん」
吟丸は柔らかく微笑んだ。
夕柊が立ち上がろうとしたその時――
「あ、やっぱまって。君はなんだか面白そうだからトリにしよう、うん。だから次、お隣の君よろしく!」
トトは突然の方向転換を行った。
これにはさすがの夕柊も不満気。あまり顔には出ていないものの不満オーラが滲み出ている。
指名された馨は、座りなおした夕柊の肩に労うように手を置き前へ歩き出した。
「は、はじめまして。『那珂町馨』、16歳です。
こっちの世界には昨日入りました。えーと、特技は利き紅茶です。よろしくお願いします」
緊張駄々洩れの声で自己紹介した馨。
「今度飲んだことないような紅茶沢山作って利き紅茶やらせよう、と」
「なにそれ楽しそー、僕も混ぜて」
「超苦いのも作ろうか」
「いいねぇ」
「ちょっとそこ! 聞こえているから!」
意気投合して悪巧みを企てている夕柊とトトに、馨はすかさず前方からツッコミを入れる。
ずれた眼鏡を直しつつ、馨は次に綸を指名した。
「えっと、『七々扇 綸』、15歳です。
絵本が好きです。よ、よろしくお願いいたします」
綸は、震えた声を隠すように小さい体を前に倒して頭を下げた。
だがクラスの空気は彼女の可愛らしさに今日一番の和みをみせている。
「俺の妹可愛いっ」
「癒しだねぇ」
「……うん。(七々扇さん、かわいい)」
この有様である。
顔を上げた綸は「では……」と、まだ自己紹介していない生徒を探し指名した。
指名された生徒は颯爽と立ち上がる。綸以外の女子の制服を着た生徒だ。
艶のある長い黒髪が彼女の動きに合わせて左右に揺れる。きりっとした目と眉、伸びた背筋から責任感の強さが伺えた。小動物的な綸とは正反対なタイプだろう。
「『銘苅』一族、『乃々子』。年齢は16。
好感が持てる人は礼儀のある人、嫌いな人は礼儀のない人。よろしく」
綸との寒暖差に馨の背筋がぶるりと震えた。
「うん、潔くていいね。それに可愛い」
トトは本人に聞こえるように言う。が、彼女から返されたのは不快なものを目の当たりにしたような視線。たった今、彼女は彼を後者へと分類したことだろう。
彼女を見つめていた綸の頬がほころぶ。
見渡すとクラスには男子の制服を着ている生徒ばかり。彼女が緊張しいではないとしても、この状況では緊張してしまうというもの。だが今は、強張っていた体からは自然と力が抜けていた。
(早くお話ししたいな。お友達になれるかな?)
零れてしまう笑みを押さえるように、綸は両手を口に当てた。
「最後、俺」
「まだトリじゃないよ」
やっと回ってきた順番に立ち上がった夕柊だったが吟丸に阻止された。
吟丸は、夕柊のいる窓側の席から廊下側の一番後ろの席へと視線を移した。皆も釣られるように視線を向ける。
そこには、顔を俯かせ小刻みに震えている生徒がいた。制服のズボンを強く握って肩を窄めているせいか、小さい体がより小さくなっている。
(……え? 影うっす。え? 初めからいた?)と、陸斗。
(わぁう、気付かなかった)と、恒心。
(前にいても見えなかっただなんて……)と、乃々子。
(焚と同じ歳くらいやんな? まだ小さいのに偉いなあ)と、市露。
「前に来るのが難しかったら、その場でも大丈夫だよ」
優しく告げた吟丸の声に驚いて肩を震わせると、その子は勢いよくその場に立ち上がった。だが、前に足は踏み出せなかったようでその場で口を開く。
「……こ、『光穂』一族代表、み、『澪』。14歳。よ、よろしゅうおたのもうします……」
「「「……(声ちっさ!!)」」」
ご高覧いただき感謝の至りでございます。
たくさん出てきましたね、登場人物。
彼らは今後も登場しますので、ゆっくりと覚えていってください。




