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骨折り損小隊について


真央学院の夜は、昼間とはまるで別世界だ。


最後の暗紫色の夕暮れが地平線に沈み切ると、校内に張り巡らされた魔法灯、浮遊する燐火、自生の発光植物、それに一部学生が携帯する生物蛍光が次々と灯り、人間都市のネオン街を凌ぐ幻想的で光怪陸離な夜景が、魔界の大地に広がっていく。


この学院の夜間管理は、独特な建築様式と同じく、魔界特有の「緩さ」と「混乱の中の秩序」に貫かれている。


校則で厳格に定められているのはただ一つ。


真夜中を境に、各寮区の防御結界が完全に稼働し、全学生は所属する寮区に無事帰還しなければならない、という鉄則だけだ。


それ以前の時間なら、大規模破壊、違法召喚、同級生同士の殺傷紛争といった悪質な事件さえ起こさなければ、夜の娯楽は実に多彩に溢れている。


魔物風の酒場、魔夜市、夜間闘技場、月光魔法練習場、影に隠れて開かれる秘められた特殊集市——巨大な学園都市の隅々に、それぞれの賑わいが根付いていた。


宝探しに敗れた「骨折り損小隊」が、夜の街路をゆっくりと抜けていく。


骸骨の格賀、豹人のダイク、犬人の爪原、そして秘宝を逃した未練を残し、まだ少し落ち込んでいる新入り狼男・ウォフ・ルフ。


空気には焼きキノコの独特な香ばしさ、錬金薬の刺激的な気配、ハーピー吟遊詩人の甲高い歌声、無数の会話と笑い声、低い咆哮、囁きが混ざり合い、夜の雑踏を形作っている。


四人の腹が一斉に空腹の鳴き声を上げる。


格賀の白骨体には飢えの音はないものの、彼の魂火がわずかに暗く沈み、明らかにエネルギー不足の兆しを見せていた。


午後の森で九時間に及ぶ罠地獄を潜り、先ほどの骨一本で狼男を制圧する緊張感でアドレナリンを消費した四人は、心底空腹に苛まれていた。


「どこで飯食べよう?」


ダイクの耳が四方へくるくると動き、街に漂う様々な美食の香りを捉え、嬉しそうに尻尾を揺らす。


真央学院の飲食エリアは分布が極めて不規則で、店のスタイルも千差万別。まるで魔王城の宴会場、狩猟場、実験食堂をばらばらに解体し、校内に無造作に植え継いだかのような混沌ぶりだ。


四人は次々と奇妙な飲食店を横目に通り過ぎる。


生肉と鮮烈な血の香りが立ち込める「原始饗宴庁」。ウォフは獣肉の香りに思わず鼻をひくつかせ心動いたが、入口に飾られる新鮮な獣頭の装飾を見て、すぐに尻込みした。


甘ったるい花香と妖しいピンクの霧が充満する「魅魔点心屋」。爪原は刺激の強い香りにくしゃみを繰り返し、慌ててダイクの袖を引いて急いで離れる。


皿や学生が絶えず宙を飛び交う騒音極まる「ゴブリン大鍋乱炖」——あまりのカオスさに四人は一目散に通り過ぎた。


幾多の店を抜けた末、格賀が一軒のレストランの前で足を止めた。


周囲の粗犷で騒がしく奇妙な飲食店とは対照的に、この店は異常に「端正」で、穏やかな高級感を纏っている。


滑らかな黒石材で建てられた外壁に、暗金色の魔紋が繊細に嵌め込まれ、巨大な水晶窓から柔らかく過ぎぬ暖かな光が零れる。


入口には制服を端正に着こなし、厳粛な表情のガーゴイル給仕が二体佇んでいる。本物の石像魔物で、一時的に接客姿勢で固定された迎賓係だ。


「ここ……?」


爪原は立派な門構えと、窓越しに見える白いテーブルクロス、銀食器の並んだ店内を眺め、思わず唾を飲み込む。


「格賀、すごく高そうです。普通の学生が普段来るような場所じゃない……」


「夜市の焼き串屋さんにしませんか? 大きくて美味しいですよ」


小声で遠慮がちに提案する爪原に、格賀の淡い骨質の声が落ち着いて響く。


「大丈夫、ここでいい」


ダイクの琥珀色の瞳が一瞬で輝き、即座に察する。


「もしかして格賀のおごり?」


「うん」


「え、本当ですか?」


ウォフが驚いて問いかける。


血肉も持たぬ骸骨の学生が、なぜこんな高級店を気軽に利用できるのか、誰も理解できなかった。


一番長く付き合っているダイクでさえ格賀の出自を知らない。ただ一つ確かなのは、この骸骨は決して見栄を張る真似をしない、ということだけだ。


「普通だ」


格賀はいつもの平坦な口調で答え、真偽も謙遜も読み取れぬまま、真っ直ぐ店の玄関へ歩み出す。


入口のガーゴイル給仕の瞳が一回転し、瞬く間に身分識別と評価を済ませる。


次の瞬間、二体は同時に穏やかに腰を折り、重厚な石の門が音もなく内側へ滑り開いた。


ダイク、爪原、ウォフは顔を見合わせ、期待と少しの不安を抱えて、後に続いた。


店内は外観よりも更に広く趣が深い。


柔らかな灯光に照らされた壁には、古き魔族の叙事詩を描いた浮き彫り壁画が連なり、時折描かれた人物が微かに動き、古い伝承の気配を漂わせる。


空気には高級香料、焼き肉の芳しい香り、上品な魔法薫香が混ざり、濃厚すぎず、心地よく食欲をそそる。


店内の客は少なく、誰もが身だしなみを整え、優雅に低声で談笑している。


埃まみれで様式バラバラな四人が入店した瞬間、店内の視線が一気に集まる。好奇、驚愕、そしてわずかに隠れた軽蔑の色が混ざっていた。


燕尾服を着こなし、完璧な礼儀微笑みを浮かべるダークエルフの給仕が近づき、四人を窓際のテーブルへ案内する。


差し出されたのは柔らかい皮紙製のメニュー。


どの料理も精巧な幻像で彩られ、見た目は華麗極まり、値段も相応に高額だ。


ダイクたち三人はメニューを手に、指を少し震わせる。聞いたことのない料理名ばかりで、あまりの精巧さに食べ物とは思えないほどだ。


「本当に、頼んでいいんですか……?」


ウォフは涎を堪え、汁気たっぷりに焼かれた巨大な獣肉排の幻像をじっと見つめる。


「食べたいものを頼め」


格賀は簡潔に告げる。


その言葉をきっかけに、三人は思い切って好きな料理を選ぶ。


ダイクは最も華麗な「烈焰炙烤竜肋排(模造)」、爪原は香りだけで食欲が湧く「百草香料炖魔禽」、ウォフはボリューム満点の「巨獣腿肉配黒岩茸」を注文。


格賀自身は、骸骨族専用の「濃縮負能量晶塵拌月光粉塵」と、幽冥の花で淹れた冷めた香りの茶を一壺頼んだ。


料理待ちの時間は、優雅な店内の雰囲気に対し、三人には少し居心地が悪かった。


ダイクは落ち着かず体をくねらせ、爪原は犬らしい食い意地を隠そうと背筋を伸ばし、ウォフは破れた袖口を気にして俯いていた。


だが、料理が運ばれてきた瞬間、すべての気まずさは吹き飛んだ。


模造竜肋排は本物の竜肉ではないものの、特殊な魔獣肉と魔法調理によって肉質は極上に柔らかく、噛めば穏やかな灼熱感が口中に広がり、香ばしさが溢れる。


百草炖魔禽は薬草の芳しい香りが鼻を抜け、肉はほろほろと崩れ、一口食べれば全身が癒されるような滋味だ。


巨獣腿肉は外香ばしく中ジューシー、添えられた黒岩茸は大地の醇厚な風味を湛え、歯ごたえも絶妙。


一方、一見無機質で食べ物とは思えぬ格賀の晶塵料理も、彼がゆっくりとエネルギーを吸収すると、暗く沈んでいた魂火が鮮やかな幽藍色に輝き、安定感と活力を取り戻した。


四人は夢中になって食事を貪る。


先ほどの値段の不安、周囲の視線、場の気まずさは、極上の美食の前にすべて消し飛ぶ。


「やっぱり普通の食堂とは桁違いだ……」


ダイクは爪についた肉汁を舐め、満足げなため息をつく。


大鍋調理の学食と、専門高級レストランの味の差は歴然だ。


爪原とウォフも大きく頷き、腹いっぱいに膨らませ、顔中に幸せな満足感を浮かべる。


一日の宝探し失敗の沮丧も、この豪華な晩餐で完全に癒された。


食事を終え、格賀は茶を飲み干し、小さな布袋を取り出す。


暗紫色の複雑な魔紋が刻まれた魔力結晶を数枚取り、ダークエルフの給仕に渡す。


給仕は恭しく受け取り、一切の問答なく会計を済ませる。


店を出ると、夜の涼風が腹いっぱいの四人を包み、心地よい疲労感が広がる。


校内の夜景はますます華やかになり、夜の賑わいは最高潮に近づいていた。だが、真夜中の結界稼働時間も、静かに迫りつつある。


寮区の分岐路に辿り着き、格賀が穏やかに告げる。


「ここで別れよう」


「また明日! 今日は最高だった!」


ダイクは嬉しそうに爪を振り、尻尾を大きく揺らす。


「ご馳走様でした、格賀さん! すごく美味しかったです!」


爪原は心から感謝し、耳をくるくると嬉しげに震わせる。


「ごちそうさま……それと、今日は本当にごめんなさい」


ウォフは頭を掻き、骨一本で制圧された恥ずかしい失態を思い出し、照れくさそうに俯く。


格賀はわずかに頷いて応え、カチカチと骨の軽やかな音を立て、魔法灯と薫香に包まれた幽暗な寮街区へと歩み消える。


残る三人も、それぞれの寮区へと帰路につく。


獣人寮特有の温かな気配、賑やかな雑音が彼らを迎え、満腹の幸福感と新たな仲間の絆が、夜の冷気を完全に払拭していた。


四人は皆心得ている。


どれほど楽しい夜も、どれほど素晴らしい晩餐も、真夜中が来れば終わる。


全員、定められた寮に戻らなければならないのだ。


真央学院の寮管理人は、スタイルこそ様々だが、「真夜中帰寮」の鉄則だけは絶対に譲らない。


遊びすぎた者、規則を侮る者には、一切の情けもかけないという噂は、新入生の間でも浸透していた。


今夜の冒険と宴の余韻を胸に、四人はそれぞれ、夜の静寂へと還っていった。


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