予備部の初日と、空に飛ばされる新入生
翌日。
朝の光がようやく秩序の塔の濃色ガラス窓を貫き、冷たい大理石の床にぼんやりとした光影を落としていた。
ダイクは配属通知、そして昨日ゴブリン先輩が幸災楽禍混じりに残した「忠告」を守り、まるで三十分も早く、緊張しきって予備部のある高層の静かな側庁へ辿り着いた。
彼が想像していた「厄介事でごった返す職場」とはまるで違い、ここは異常なほど静かで、むしろ……荒れ果てていた。
側庁の広さは決して狭くない。だが陳列は質素を通り越して、ほとんど殺風景だ。
古びた厚い木のテーブルが数台、椅子が数脚、壁際には空っぽの書棚がいくつも並び、薄い埃が積もっている。
唯一目を引くのは隅に積まれた大小の箱で、表面にはぼやけたラベルが貼られていた。
《未処理の願い出》《要確認の案件》《歴史遺留問題——触るな?》——そんな文字が並んでいる。
空気には古い木と埃の匂いが漂い、かすかに……大型の生物が休眠している時の、ほの温かい気配のようなものが混ざっていた。
ダイクはがらんとした庁の中央に立ち、尻尾を不安そうに小さく振り回す。
待って、想像していた「面倒な厄介事の回収所」はどこだ?
どうして人影ひとつないんだ?
来るのが早すぎた?それとも部屋を間違えた?
表札を確認しに出直そうか迷った、その瞬間——
側庁の奥、装飾だと思っていた巨大な彫刻扉が、内側から《ギイッ》と重い音を立てて押し開いた。
朝の影に包まれた巨体が、あくびをかみ殺し、目を擦りながらふらふらと出てくる。
昨日真っ先に退場したあの、怠惰そのものの竜人会長、ドラゴ・ドラキだ。
今日はあの華麗な会長袍は着ておらず、ゆったりした暗紅色の寝間着らしい織物だけをまとい、鱗に覆われた足裏を裸にし、尻尾を後ろに引きずって、まさに布団から這い出たばかりの姿だった。
「うん……おはよう……」
ぼんやり呟き、ようやく固まっているダイクに視線が合った。
瞬きを何度か繰り返し、ようやく誰か思い出すまで少し時間がかかったようだ。
「ああ……君か、予備部を引いた……名前なんだっけ?」
のろのろとテーブルの後ろへ歩き、椅子を引くと、《キィイ——》と耐えられない悲鳴を上げさせ、巨体をずしんと腰掛ける。
そしてまた長いあくびをし、涙が目尻から滲んだ。
金色の竪瞳がゆっくりダイクを上下に眺める。
「今年、予備部は君一人だけ?」
見られて落ち着かなくなったダイクは、慌てて気をつけの姿勢をとる。
「は、はい!会長!新入生ダイク、獣人族豹人種、配属の挨拶に参りました!」
緊張で声が少し裏返った。
「配属か……」
ドラゴは繰り返し、鋭い爪の指先で磨かれた机の表面を《トン、トン》と軽く叩く。
「まあいい、来たからには……」
一拍置いて、いつも半分閉じていた目がわずかに開いた。中にダイクには読めない光が閃き、口角は相変わらず怠惰な弧を描いているのに、なぜか背筋がぞくりと冷えた。
「……なら、存分に遊ぼう」
「遊ぶ?」
ダイクは呆けて耳を困惑に立てる。
遊ぶ?生徒会で?
あの厳しく恐ろしいと評判のこの場所で?
しかも……会長自ら「遊ぶ」と?
もしかして自分、聞き間違えた?
予備部は実は隠れた楽園部署?
会長は怠け者に見えて、案外付き合いやすく、仕事と息抜きのバランスをわかってくれる上司なのでは?
一筋の希望が朝焼けのように、灰色だったダイクの心を照らす。
思わず尻尾が少し上がり、顔にも期待に満ちた試しの笑みが浮かんだ。
「会長……おっしゃる意味は?」
ドラゴは直接答えず、のろのろ立ち上がり、常人をはるかに超える腕を伸ばし、背中にたたまれた龍翼をゆっくり伸ばす。骨格が微かに《パチパチ》と鳴った。
「意味は……」
長く引いてテーブルを回り、ダイクの前へ歩み寄る。
近づくにつれ、ダイクは相手の体から滲む、頂点捕食者としての抑えられてはいるが消えない圧迫感、そしてかすかに溶岩の残り火のような温かさをはっきり感じ取った。
「予備部の仕事はね……比較的雑で、比較的気ままなんだ」
ダイクの前で止まり、見下ろすように彼を見る。影がほとんどダイクを覆い尽くした。
「俺はね、あんまり堅苦しい規則ごとが好きじゃない。だから……」
突然手を伸ばし、暗金色の細かい鱗に覆われた強い手でダイクの肩を叩く。その力でダイクの膝が一瞬ぐらついた。
「我々は少し……気楽で楽しいやり方で、『仕事』に慣れていこうじゃないか」
心の期待がさらに募る!
気楽で楽しい!やっぱり!
前の心配は全部取り越し苦労だった!この竜人会長は外見は怠けてるだけで、本当は思いやりのある良い上司なんだ!
「はい!会長!私、しっかり『遊び』ます!」
興奮して大声で応え、尻尾を素早く振り回し、危うく隣の椅子にぶつかりそうになった。
興奮するダイクの様子を見て、ドラゴの怠惰な笑みが深まり、竪瞳にはさらに素早く捉えにくい光が閃いた。
「よろしい」
頷いて振り返り、あの奥へ通じる扉へ歩いていく。
「ついて来い」
ダイクは慌ててちょこちょこ後を追い、心を新しい「仕事」への憧憬でいっぱいにする。
まさか娯楽室へ行くのか?それとも面白い親睦イベントをするのか?
彫刻扉を抜けると、後ろへと旋回する狭い石段が続き、光はさらに薄暗くなる。
ドラゴは歩みは速くないが歩幅が広く、ダイクは小走りでなければついていけない。
何段登ったかわからない頃、前方に分厚い金属の扉が現れた。ドラゴが手を伸ばして押すと、扉は音もなく開く——
猛烈な気流と、眩しいほどの陽光が瞬時に流れ込んできた!
ダイクは風に吹かれて目を細め、しばらくしてようやく視界が開ける——
彼らはなんと、秩序の塔の頂上に来ていた!
広々とした、一切の柵のない平台!
足元は硬い岩石の地面で、縁の外には真央学院の景色が眼下に広がっている。
高空の風が《ヒュウウ》と唸って平台を掠め、ダイクの毛を全部後ろへ倒し、耳を頭にぴったり貼り付けた。
「か、会長?俺たち、ここで……何をするんですか?」
声が風の中で少し震え、嫌な予感が芽生え始めた。
ドラゴはすでに平台の縁まで歩み寄り、狂風が寝間着と髪を吹き動かすままに任せている(竜角だけはもちろん微動だにしない)。
振り返り、ダイクに陽光の下では特別に眩しい笑みを向けた——だがダイクの目には、それが徐々に恐怖へ変わっていく。
「何をするって?」
繰り返し、声は風の中でもはっきり届く。
「もちろん『遊ぶ』だよ。言っただろう?」
両腕を広げ、背後の龍翼が《シャッ》と音を立てて完全に展開した!
膜翼は巨大で力強く、広げると平台の半分をほぼ覆い、暗金色の薄膜が陽光の下で金属のような光沢を放ち、複雑な骨格は優美で力に満ちている。
「予備部最初の『仕事』、そして君への歓迎として……」
ドラゴの声には言いようのない、面白いゲームを今から始めるような昂りが混じっていた。
「ちょっと……小さなゲームをしよう」
小さなゲーム?
ダイクの頭の中で《ブーン》と警報が鳴り、豹人の本能が狂ったように鳴り響いた!
展開した巨大な龍翼、トドメを刺すように広がる捕食者の笑み、昨日あの場で自分に向けられた全員の憐れみの視線——
思い出した!
全部思い出した!
「遊ぶ」は本当だ!
だがダイクのやりたい遊びじゃない!
龍族のやり方で、遊ぶのだ!!!
「ま、待ってください!会長!」
舌がもつれ、恐怖が氷水のように全身に注がれ、無意識に後退し、爪が地面を《キィイイン》と耳障りに擦った。
「わ、私、こういうのあんまり向いてないかも……」
言葉が終わる前に、ドラゴはすでに動いた!
呪文もなく、力を溜めた様子もない、ほとんど力を入れてすらいないように見えた。
ただ背中の龍翼を猛然と一扇ぎした!
狂暴で抗いがたい上昇気流が瞬時にダイクを包んだ!
足元が空になった感覚、視野が狂ったように回転して上昇!唸る風が瞬時に彼の悲鳴を飲み込んだ!
平台の地面が目の中で急速に小さく遠ざかる!
「アアアアアアア——————!!!」
割れんばかりの悲鳴が高空の風を切り裂いた。
ドラゴは満足げに、一翼でほぼ高空まで扇ぎ飛ばしられ、惊恐万状で手足をばたつかせながら自由落下する豹人新入生を眺め、怠惰に首筋を回す。
「高空適応訓練、第一課」
独り言のように呟き、竪瞳に悪戯成功の光を瞬かせる。
ダイクの落下速度と軌跡をざっと見積もり、巨大な龍翼を再び優雅かつ力強く一振りした。
巨体が離れた矢のように天へ駆け上がり、悲鳴がますます凄まじくなる豹形の「落下物」を正確に追いかけていく。
「安心しろ、落ちはしない」
ドラゴの声が気楽に風を貫き、すでに魂が抜けかけたダイクの耳に届く。
「俺が遊び飽きる……おっと違う、君が『適応』するまで付き合うから」
「いやだ——!!!!僕、高所恐怖症なんです!!!!!!会長、助けて——!!!!!!」
悲鳴が雲の上まで響き渡り、涙(あるいは風に吹き飛ばされただけかもしれない)が空中に舞い散る。
今この瞬間、ダイクはこの上なく確信し、絶望的に理解した。
豹生の悲劇は、決して終わりじゃなかった。
あれはただの序の口に過ぎなかったのだ。
本当の、この怠惰で底知れず怖い竜人会長が自ら仕掛ける「悲惨な生活」が——
今、まさに幕を開けたばかりなのだった。




