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心の声が聞こえる地味令嬢~溺愛してくる家族を安心させる為、今日も婚活に勤しみます~  作者: 丸ノ内きみこ


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04

屋敷に到着し、馬車の扉が開くと同時に、待ち構えていたかのように高い笑い声が響き渡った。


「カミラちゃーん! 五歳の誕生日おめでとう! いやあ、あまりの美少女ぶりに、おじさん眩しくて目がくらんじゃったよ。太陽が二つあるのかと思ったくらいだもんね!」


そう言って、軽やかな足取りで駆け寄ってきたのは、父フリードリヒの弟――叔父のセルジオだった。

派手な刺繍が入った上着を羽織り、常にニヤニヤと締まりのない笑みを浮かべている彼は、社交界でも「ローゼンブルク家の放蕩息子」や「歩く冗談」として有名な人物だ。


そしてお調子者の叔父セルジオだけでなく、もう一人、弾むような足取りで駆け寄ってくる小さな影がある。もうすぐ三歳になる弟のカイルだ。


彼はまだ幼いながらも、将来は騎士になると息巻いている元気いっぱいの男児である。カイルはカミラを見つけるなり、その小さな体に全力でタックルするように抱きついてきた。


「叔父様、カイル、ただいま戻りました。……わっ、急に抱きついたら危ないわ」


カミラはよろめきながらもカイルを受け止める。カイルの手が、カミラの首筋に少しだけ触れた。その瞬間、カイルの純真無垢な「本音」が、濁りのない清流のように脳内へ流れ込んでくる。


(ねーたま! きれい! きらきらしてる! だいすき!かわいい!)


「……ふふ、ありがとう、カイル」


カミラは思わず表情を緩ませる。今後どうなるのか不安だったカミラの心に、カイルの「だいすき」という直球な「本音」は、何よりも効く薬だった。


「おっとカイル、お姉様は女神様から特別な力を授かってお疲れなんだ。あんまり激しくすると、おじさんみたいに腰を抜かしちゃうぞーっ!」


セルジオがわざとらしく千鳥足でカイルを引き離そうとすると、それを見ていたフリードリヒが、いつもの威厳ある声で口を開いた。


「セルジオ、相変わらず騒々しいな。……だが、今日はお前のその無駄な明るさに、少しだけ救われる思いだ」


フリードリヒの言葉に、セルジオはパッと顔を輝かせた。


「おやっ、兄上! 今、僕のことを褒めましたね? 明日の天気は大荒れかな? それとも僕に領地の一つでも分けてくれる気になりました?」


「……そんなわけがあるか。口を慎め」


一方で、母イザベラは扇で優雅に口元を隠しながらも、セルジオの派手な衣装を鋭い目で見極めていた。


「セルジオ様、お祝いに来てくださったのは嬉しいのですが、その上着の刺繍……少し派手すぎましてよ? カミラが主役なのですから、おじ様が目立ってどうするのです」


「これは手厳しい! 義姉上の美しさに負けないようにと新調したのですが、返り討ちにあっちゃいましたか。いやあ、参った参った!」


頭をかいて笑うセルジオ。セルジオは可笑しそうに笑いながら、カミラの前に膝をついた。


「さあ、カミラちゃん。おじさんからのプレゼントは、とびっきりのこれだ! ジャジャーン!」


大げさな身振りでポケットから取り出したのは、虹色の魔法石が埋め込まれた小さなブローチだった。


「わあ、きれい……」


カミラが思わず手を伸ばし、それを受け取ろうとした時――指先が滑って、ブローチを地面に落としそうになってしまう。


「おっと危ない!」


セルジオが慌てて手を伸ばし、カミラの小さな手を下から支えるように受け止めた。

その拍子に、ブローチを掴もうと指を伸ばしていたカミラの手袋の隙間、露出していた手首の部分が、ほんのわずかにセルジオの温かい掌に触れる。


その瞬間。耳に届く陽気なふざけ声とは裏腹に、驚くほど深く、静かで、誠実な「声」がカミラの脳内に凛と響き渡った。


(……カミラ、無事に儀式を終えられたようで本当に良かった。顔色が少し悪いのは緊張のせいか? 兄上も義姉上も、ひどく張り詰めた表情をしている。何かあったのかもしれないな。子供が大人たちの不安を敏感に感じ取らないように、私は道化であり続けなければ)


「……えっ」


カミラの瞳が大きく見開かれる。

目の前のセルジオは、「あれれ、カミラちゃん? おじさんのハンサムな顔に見惚れちゃったかな?」と、わざとらしく鼻をこすってふざけ続けている。


けれど、肌から伝わってきた「本音」は、どこまでも真剣で、カミラへの慈愛に満ちていた。


(この子が大人になった時、振り返って『五歳の誕生日は楽しかった』と思えるように。ローゼンブルクの家名なんていう重たいものは、我々大人が背負えばいい。この小さな肩に、影を落とさせてなるものか)


カミラは言葉を失った。さっき聞いた司祭の声は、どろどろして、聞いているだけで気分が悪くなるようなものだった。でも、叔父様の声は違う。ふざけた言葉の裏に隠されたその「本音」は、まるでお父様やお母様の愛情と同じように、温かくて、とても優しいものだった。


「おじ様、素敵なプレゼントをありがとうございます!大切にします!」


カミラは嬉しくなり、元気にお礼を伝えた。


イザベラは相変わらず扇をパタパタと動かしながら、ツンとした態度でセルジオを見ている。

「とにかく、立ち話もなんですわ。カミラの体調もありますし、中に入りましょう」


「おっと、そうだった! 義姉上の言う通りだ。さあカイル、おじさんと一緒にカミラちゃんのエスコートだ!」


「あい! ねーたま、いこ!」


カイルが再びカミラの反対側の手を握ったが、今度はしっかり手袋の上からだったので、あの「だいすき」という声は聞こえてこなかった。


(みんな、口ではあんなにツンツンしたり、ふざけたりしているけれど……本当は、私のことでいっぱいなんだ)


目の前で繰り広げられる「表の顔」の会話と、一瞬の隙間に触れてしまった「裏の顔」のギャップ。それがなんだか可笑しくて、カミラは小さく吹き出した。


「……くすっ」


「あら、カミラ? どうしたの?」


「ううん、なんでもない。……みんな、大好き!」


カミラが満面の笑みでそう言うと、フリードリヒは顔を背け、イザベラは頬を赤らめ、セルジオは「おーっと! おじさん、今ので寿命が十年伸びちゃったよ!」と大げさにのけぞった。


賑やかで、嘘つきで、けれど温かい本音に満ちたローゼンブルク家の夜が、始まろうとしていた。

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