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心の声が聞こえる地味令嬢~溺愛してくる家族を安心させる為、今日も婚活に勤しみます~  作者: 丸ノ内きみこ


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03

◇◇◇◇


帰りの馬車の中、カミラは母イザベラがどこからか用意した手袋を嵌めた自分の手を眺めていた。


(司祭様は慣れるって言ってたけど…本当に慣れるのかな?)


「大事がなくて本当に良かったわ。夕食までには叔父様がカミラのお祝いに屋敷に来られる予定よ。楽しみね!」


イザベラはカミラの不安そうな顔を見てか、明るく話しかける。


「また体調が悪くなるといけないから、今日は手袋をして過ごしなさい。きっと徐々に慣れる。」


父フリードリヒも、優しく声をかけてくれた。馬車内で談笑していると、ふとカミラは思い出した。


(そういえば、カッコいい騎士様が出てくる絵本禁止ってお母様言ってたわ!)


「お母様、カッコいい騎士様が出てくる絵本禁止は嫌です。お父様のように強くないので、私は騎士にはなれないと思います。なので心配はいりません。」


イザベラはそれを聞き、虚を突かれたような表情をした。フリードリヒは娘から「お父様のように強い」と引き合いに出されたことがよほど嬉しかったのか、口角を緩ませながら不思議そうに「何の話をしているんだ?」と首を傾げている。


イザベラは扇を広げ、動揺を隠すように口元を覆う。


「確かに帰ったら侍女に騎士様の絵本は禁止するように伝えようと思っていたけれど…何故それをカミラが知っているの…?」


「??さっき儀式が終わった後、手を繋いでいる時お母様の「声」が頭に聞こえたので。」


カミラは「恩恵」をお母様は知っているはずなのに!もう忘れてしまったの?と不思議に思った。イザベラは真剣な顔をして暫くの間黙りこくってしまい、フリードリヒは話についていけず二人の様子を伺っている。


「私は心で思っただけで、口に出していない…わ。カミラ、これから大事な事を聞くからふざけたりしないで正直に答えなさい。」


こんなに真剣な顔をしたお母様は初めてで、カミラは身を正し頷いた。そしてイザベラは続ける。


「頭に聞こえる「声」は、耳から聞こえる声とは内容が違うかしら…?」


カミラは「はい!」と元気よく答えた。


「……内容が、違う?」


イザベラは息を呑み、隣に座るフリードリヒと顔を見合わせた。フリードリヒもまた、事の重大さに気づいたのか、その眼光を鋭く尖らせる。


「カミラ、それは具体的にどういうことだ。私が今、口に出して言っていることと、お前の頭に届く『声』の内容が一致しないことがあるのか?」


「はい、お父様。さっき医務室に行く前、お父様は『早急に医務室に連れて行く』って言ってたけど、頭には『私の可愛いカミラがああああ』って言ってましたよね。」


「…………」


馬車の中に、重苦しい沈黙が流れる。

フリードリヒは顔を真っ赤に染め、拳を口元に当てて窓の外へ視線を逸らす。一方でイザベラは、わなわなと震える手で扇を握りしめていた。


「……あなた、今なんて?」

「いや、イザベル、それは……その……」

「今のは後でじっくり聞くとして。……カミラ、つまり貴女が授かった『恩恵』は、単に相手の声が反響するものではなくて、相手の『心』そのものが響くということなのね?」


カミラは不思議そうに小首を傾げた。


「こころ……? 司祭様は『脳内に響く』って言ってたから、みんな頭の中にいっぱいお喋りする声が隠れているんだと思ってました。違うんですか?」


「違うわ、カミラ。それは……普通の人には、一生かかっても聞こえないものなのよ」


イザベラは手袋をはめたカミラの小さな手を、壊れ物を扱うような手つきでそっと包み込んだ。今は布越しなので、「声」は聞こえてこない。


「いい、カミラ。よく聞きなさい。その力については、今この馬車の中にいる三人だけの秘密にしましょう。誰にも言ってはダメよ。貴女が聞こえているのは、相手の『本音』……つまり、隠しておきたい大切な気持ちなの」


「本音……?」


カミラはようやく、あのヘドロのような司祭の声や、お母様の激しい独り言の正体を理解し始めた。


(あれは、みんなが口に出さないように我慢している『本当の声』だったんだ……)


「特に教会の人たちの前では、絶対に悟られてはいけないわ。……旦那様、これは大変なことになりましたわ。我が娘が、人の腹の底をすべて暴く力を持ってしまったなんて、、」


イザベラの言葉に、フリードリヒはようやく赤みを引かせ、厳しい表情で頷いた。


「ああ。司祭には【脳内への響き】として届け出させたが、おとぎ話にある【真実の残響】……いや、もっと恐ろしいものだ。これが他人に知れれば、カミラは利用されるか、疎まれるかのどちらかになるだろう…」


フリードリヒは再びカミラを真っ直ぐに見つめた。


「カミラ。もし誰かの『本音』を聞いてしまっても、決してそれを顔に出してはいけない。いいな?」


五歳のカミラには、父の言ったことの半分も理解できなかったかもしれない。けれど、両親がこれほどまでに必死に自分を守ろうとしていることだけは、肌に刺さるような空気で伝わってきた。


「……はい、お父様。私、頑張って我慢するね」


カミラは手袋をはめた手を胸に当てた。

「大事な秘密」を抱えた馬車は、夕闇が迫るローゼンブルク家の屋敷へと、静かに走り続けた。


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