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心の声が聞こえる地味令嬢~溺愛してくる家族を安心させる為、今日も婚活に勤しみます~  作者: 丸ノ内きみこ


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翌日から、サンクチュアリ王立学園の本格的なカリキュラムが始動した。

午前中の座学を終え、午後からは生徒たちが最も楽しみにしている「魔法実技」の授業だ。


Aクラスの生徒たちは、動きやすい訓練用の制服に身を包み、広大な第一演習場へと集まっていた。教壇に立つのは、魔法実技担当のキリアン教授だ。彼は神経質そうに眼鏡のブリッジを押し上げ、冷徹な視線で生徒たちを見渡した。その頭の中からは、相変わらずの残響が漏れ出している。


(ふむ、やはり訓練着姿の生徒たちも初々しくて可愛いな。おや、王子はさすがの身のこなしだ。無駄のない佇まいが実によい、よいぞ……。さて、今日の課題は基礎的な魔力放出だが、ここでまた生徒たちの序列がはっきり分かれる訳だ)


(……教授、視線が気持ち悪いですわ。無、私は今、無よ……)


カミラは精神統一を心がけ、教授の雑音を綺麗に右から左へと受け流した。


「これより、魔法の実技測定を行う。課題は極めてシンプルだ。前方にある的に向かって、各々が持つ属性の魔力を弾として放ち、その威力を測定する。貴族たるもの、一撃で的を粉砕する心づもりで挑むように」


キリアン教授の言葉に、周囲の貴族生徒たちの心が色めき立つ。


(私の火属性の魔法で、派手に的を燃やし尽くしてやるわ!)

(王子の前だ、ここで格好悪い姿は見せられん!)


ドロドロとした虚栄心と自己顕示欲の残響が、心地よい春の風を掻き消していく。そんな中、カミラの通路の隣に並ぶベアトリスが、ふんす、と鼻を鳴らして胸を張った。


(見ていなさいカミラ、そしてエドヴァルト殿下! ゲルシュタイン家の誇る洗練された水魔法で、誰よりも美しく的を射抜いてみせますわ! 完璧な令嬢は、実技だって完璧でなくてはね!)


(頑張ってね、ベアトリス。あなたのそういう真っ直ぐなところ、好きだわ)


カミラが心の中で微笑んでいると、後ろの席のリーゼロッテからは、(うぅ、魔法実技……。私、魔力量だけは特待生並みにあるけれど、コントロールが下手くそで…暴発したらどうしよう……カミラ様に嫌われたくないよぅ……)という、プルプルと震える小動物のような残響が伝わってきた。


「では、出席番号順に前へ出なさい。まずは――エドヴァルト殿下から」


「はい」


エドヴァルト王子が優雅に一歩前へ出る。食堂の時と同じビジネススマイルを浮かべながら、王子の脳内は凄まじい暴言を撒き散らしていた。


(あーだりぃ。なんで俺がこんな見せ物みたいな真似しなきゃいけないわけ? 属性は光だけど、全力でやったら的どころか演習場の壁まで吹き飛ぶだろ。力加減ミスったらまた親父に怒られるし、マジで糞だるい。……適当にやって早く終わらせよう)


王子が軽く手を掲げると、まばゆい光の弾が一条のレーザーのように放たれた。ドォン! と激しい轟音と共に、前方の頑丈な的が跡形もなく消し飛ぶ。


「キャーッ! 素敵、流石王子様……!」


「なんて圧倒的な魔力量かしら!」


令嬢たちが黄色い悲鳴を上げる中、王子は「これくらい、当然の嗜みだよ」と爽やかに微笑み、脳内で(あぶねぇ、ちょっと力入りすぎたわ。つーか女の声、耳がキーンとするわ。全員黙れクソが)と毒づきながら列に戻っていった。


その後も、貴族生徒たちが次々と自慢の魔法を放っていく。ベアトリスも宣言通り、見事な水弾で的の真ん中を綺麗に撃ち抜いてドヤ顔を決めていた。そして、いよいよカミラの番がやってくる。


「次、カミラ・フォン・ローゼンブルク」


キリアン教授に名前を呼ばれ、カミラは静かに前へ出た。

周囲の令嬢たちから、(あの子、神殿の測定で『戦闘力皆無の地味能力』って判定された辺境貴族よね?)(どんな不様な魔法を見せてくれるかしら)という、底意地の悪い残響が突き刺さる。


キリアン教授の頭の中からも、(昨日の筆記は天才的だったが、実技はどうだ? 必死に魔法を放とうとして、可愛い顔を歪ませる姿が見られるかな? よいではないか、よいではないか……!)と、危険な期待が漏れていた。


(……この教授…気持ち悪いな)


カミラは心の中でそっとため息をついた。ローゼンブルク家の方針は、いつだって一つだ。


『カミラ、目立ってはならん。過度な注目は「恩恵」がバレてしまう事へと繋がる。常にクラスのちょうど真ん中くらい、平均点を狙いなさい。それが最も合理的な生き方だ』


父フリードリヒの、あの真面目くさったドヤ顔を思い出しながら、カミラは自身の魔力を指先に集中させる。


カミラの属性は、風属性。これまでの平均的な生徒たちのスコアは、脳内で弾き出してある。的を粉砕すれば目立つし、外せば補習になる。


狙うのは「的の端に当たり、少しだけ火花が散る程度の、可もなく不可もない平凡な一撃」。


カミラはすっと腕を掲げると、無駄のない完璧な魔力コントロールで、そよ風のような小さな風弾を放った。パチン、と乾いた音がして、風弾は的の右端に命中し、かすり傷のような凹みを残して霧散した。


「……終わりですわ、教授」


カミラが平然とした顔で振り返る。演習場は、一瞬だけビミョーな静寂に包まれた。粉砕するでもなく、大失敗するでもない、あまりにも「普通すぎる」結果。


「あ、あら……? 一応当たりはしたのね」


「まぁ、あの程度の威力じゃ、実戦では何の役にも立たないけど」


令嬢たちが拍子抜けしたような言葉を漏らす。キリアン教授も(む、普通に当たったな。面白みには欠けるが、まあお上品なフォームで風を放つ姿もそれはそれで良いだろう、うん)と、勝手に納得していた。


カミラは「ふぅ」と小さく胸を撫で下ろす。狙い通りの完全なる平均点。だが、列に戻ろうとしたその時。カミラの耳に、すぐ近くにいたエドヴァルト王子の、今日一番の「激しい衝撃の残響」が飛び込んできた。


(……は????)


王子の完璧な仮面が、一瞬だけ驚愕に歪む。その脳内は、凄まじい勢いで回転していた。


(待て待て待て、今のローゼンブルクの女、何だあの魔力コントロール!? 風の弾が放たれる瞬間、一切の魔力のブレがなかったぞ。しかも、わざわざ威力を極限まで削って、これまでのクラスの平均値くらいにしたんじゃないのか……? 偶然か? いや、絶対にわざと手を抜きやがった!? 何が目的だ……あの地味女、要注意だな……)


(……えっ)


カミラは歩きながら、心の中で思わず硬直した。


(嘘でしょう!? 他の生徒も教授も誰も気づいていないのに……なんであの暴言毒吐き王子だけ、気づいたのよ…)


まさかの「一番関わりたくない男」にだけ見破られてしまう。カミラは内心で冷や汗を流しながらも、決して表情には出さず、ただの「平凡な田舎令嬢」の顔のまま列へと戻る。だが、エドヴァルト王子の視線は、鋭くカミラの背中に突き刺さったままだ。


(自分の実力を隠す理由ってなんだ…?絶対に何か隠してるぞ、あの女。)


王子の脳内が警戒で急速に沸き立つ中、その隣から、一人の少年がすっと進み出た。艶やかな漆黒の髪をハーフアップに結い上げ、切れ長の瞳を模範的な微笑みで細めた美少年_侯爵家の次男であり、幼少期からエドヴァルト王子の「側近」として付き従う、アラン・サウスワンドだ。


アランは次の測定のために前へ出ながら、王子にだけ聞こえる微声で話しかけた。


「殿下、どうなさいました? 先ほどから、ローゼンブルク嬢を熱心に見つめておいでですが」


「……いや、別に何でもないよ」


エドヴァルトは瞬時にいつもの完璧な皇太子スマイルを作り直したが、アランの頭の中からは、王子への忠誠心とは程遠い、極めて冷徹で計算高い残響が容赦なくカミラの耳に届いていた。


(おやおや?殿下が動揺するなんて珍しい。あのローゼンブルクとかいう地味な令嬢、ただの無能かと思いきや、殿下の地雷でも踏んだのかな? 殿下が嫌がるなら、僕が裏でちょいと突っついて、学園から排除する計画でも立てましょうか。その方が僕の『有能な側近』としての株も上がるし。あー、今日も今日とて自分が賢くて最高だわ)


(……うわぁ。この側近、計算高いしナルシストだわ。本当にろくな人間がいないわね…)


カミラは心の中で盛大に白目を剥いた。アランは優雅な仕草で構えると、無詠唱で鋭い闇属性の魔弾を放った。ドゴォン!と、的のちょうど中心が綺麗に撃ち抜かれ、周囲から「さすがアラン様!」と歓声が上がる。


アランは「殿下の足元にも及びませんよ」と謙虚に微笑みながら、脳内で(はい完璧ー。周囲の雑魚ども、僕の華麗な魔法に平伏すといいよ。さぁ殿下、僕のこの有能な働きをしっかり褒めて、もっと僕を頼ってくださいね!)と、激しい自己アピールの残響を垂れ流しながら列に戻る。


そして、測定は最後の生徒_リーゼロッテの番になった。


「最後、リーゼロッテ・アルマ」


キリアン教授に呼ばれ、リーゼロッテはびくっと肩を揺らした。彼女の心からは


(どうしよう、どうしよう……! みんなすごすぎて、私なんかが前に出るの恥ずかしい……! もし失敗して、カミラ様に『呆れたわ』って見捨てられたら、私、もう生きていけない……っ!)


という、悲壮感漂う大パニックの残響が響いている。カミラはそっとリーゼロッテの背中に手を添え、優しく微笑みかけた。


「大丈夫よ、リーゼロッテさん。落ち着いて、いつも通りに」


「あ……か、カミラ様……!」


(あぁ、カミラ様が女神のように微笑んでくれた……! 私、頑張ります! カミラ様のために、最高の魔法を……!)


カミラの励ましで、リーゼロッテの瞳に一瞬で決意の炎が宿る。

リーゼロッテが前に出ると、周囲の貴族令嬢たちからは「庶民の実力とやらを見せてもらおうかしら」という、冷ややかな視線と残響が注がれた。


キリアン教授も(お、特待生か。緊張でガチガチになっているな。困り果てて涙目になる顔も、実によい。さぁ、どんな不器用な魔法を見せてくれるのかな?)と、相変わらずの歪んだ期待を抱いている。


リーゼロッテは深く息を吸い込むと、小さな手を前方に突き出した。

その瞬間―彼女の体から、並の貴族を遥かに凌駕する、圧倒的な質量の大地属性の魔力が膨れ上がった。


(えっ!?)と、エドヴァルト王子とアランの残響が同時に跳ね上がる。


「い、いっけぇぇぇーーー!!」


リーゼロッテが叫んだ瞬間、放たれたのは「魔弾」などという生易しいものではなかった。

演習場の地面が文字通り爆裂し、巨大な岩の塊が、さながら大砲の砲弾のごとき勢いで前方へ射出されたのだ。


ズドォォォォォン!!!


凄まじい衝撃波と共に、前方にあった頑丈な的だけでなく、その背後にある演習場の防壁までが派手に消し飛んだ。土煙が激しく舞い上がり、演習場全体がシーンと静まり返る。


「ひ、ひぃっ……! ご、ごめんなさい、やりすぎちゃいましたぁぁ!!」


頭を抱えてしゃがみ込むリーゼロッテ。周囲の貴族たちは、あまりの規格外の威力に開いた口が塞がらない。キリアン教授に至っては、(圧倒的な才能の暴走、これぞ特待生のロマン……! 素晴らしい、萌えの極みだ……!)と、興奮のあまり眼鏡をずり落としていた。


そんな中、カミラは一人、静かに思考を巡らせる。


(リーゼロッテさん、魔力量は素晴らしいけれど、確かにコントロールが課題ね。……でも、これで注目は完全に彼女に集まったわ。よし、私のことはこれで完全に有耶無耶になったはず!)


カミラは「これで一安心」と胸を撫で下ろした。

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