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心の声が聞こえる地味令嬢~溺愛してくる家族を安心させる為、今日も婚活に勤しみます~  作者: 丸ノ内きみこ


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大講堂に鳴り響く鐘の音が止むと、壇上に一人の少年が登壇した。


まばゆい金髪に、気品あふれる佇まい。仕立ての良い学園の正装に身を包んだその姿に、講堂内の令嬢たちから一斉に熱い吐息が漏れる。


この国の第一王子、エドヴァルト・フォン・サンクチュアリ。


今年の新入生代表であり、誰もが憧れる学園の最高権力者の一人だ。


彼がマイクの前に立ち、朗らかな微笑みを浮かべた瞬間、カミラの脳内に信じられない「本音」が炸裂した。


(あー、だりぃ……。マジで糞だるい。なんで俺がこんなところで綺麗事並べなきゃいけないわけ?つーか、どいつもこいつも値踏みするようにこっちを見やがって。全員死ねばいいのに)


(……ぶっ、!)


カミラは思わず吹き出しそうになり、慌てて口元を両手で押さえた。


見た目は完璧な王子様。口から紡がれる言葉も、「我が国の未来を担う諸君、この聖域なる学園で共に学び――」と、非の打ち所がないほど立派な建前だ。


しかし、その裏で響く残響は、お世辞にも上品とは言えない暴言の嵐だった。


(あれが第一王子…うん、関わらないようにしよう)


あまりのギャップに頭が痛くなりそうになりながらも、カミラが何とか表情を取り繕っていると、隣のリーゼロッテが「ひぅ……」と小さく息を呑むのが分かった。


見ると、リーゼロッテは王子から放たれる圧倒的な『高位貴族の威圧感』に完全に気圧され、再びガタガタと震え出している。かわいい。


そんなリーゼロッテの様子を、少し離れた席にいる高位貴族の令嬢たちが見逃さなかった。


(ふん、あの庶民。みっともなく震えちゃって)


(あんなのが同じ空間にいるだけで穢れるわ。ちょっと恥をかかせてやろうかしら)


彼女たちの底意地悪い残響がカミラの耳に届く。その令嬢の一人が、手元で小さく指を鳴らした。風の恩恵だろうか。


狙われたのは、リーゼロッテの足元に置かれたカバンだった。突風に煽られ、カバンがパカッと開き、中から教科書やペンケースが床へ転がり落ちる。


「あ、あっ……! ご、ごめんなさい……っ」


静まり返る講堂内に、本が落ちる鈍い音が響く。


壇上の王子は演説を止めないが、周囲の貴族たちから冷ややかな視線と、クスクスという嘲笑がリーゼロッテに突き刺さった。


リーゼロッテは真っ青になりながら、涙目で床に這いつくばり、ノートを拾おうとする。

だが、緊張と恐怖で手元が激しく震え、拾おうとしたペンをさらに遠くへ弾いてしまった。


(……百歩譲って心で思うのは自由だけど、行動にうつすのは頂けないわね)


カミラはため息を呑み込むと、迷わず椅子の下へ滑り込むように身をかがめた。


そして、転がっていったリーゼロッテのペンを、スッと拾い上げる。


「あ……カ、カミラ様……」


怯えるリーゼロッテに、カミラは微笑んでみせた。


「大丈夫ですか、リーゼロッテさん。深呼吸して、ゆっくり拾いましょう」


カミラが拾い上げたペンをリーゼロッテの手の中にそっと返すと、その瞬間、二人の肌が触れ合う。


カミラの柔らかい風がリーゼロッテの心に吹く。リーゼロッテが、あっと驚いて目を見開いた。


(なんて優しい方なの…)


「ありがとうございます」


その心の残響は、さっきまでの絶望的な恐怖から、(カミラ様、優しい…)という、温かい響きへと変化していた。


周囲の貴族令嬢たちは、庶民が泣き出すのを楽しみにしていたのに、テキパキと片付けを始めた姿を見て、拍子抜けしたように見ている。


片付けを終え、二人が席に戻ると同時に、王子の「だりぃ……」という残響と共に建前の演説が終了した。


盛大な拍手が響き渡る中、リーゼロッテは赤くなった顔で、カミラをキラキラとした崇拝の目で見つめている。


(カミラ様、なんて優しいお方…お友達になりたい!あ、…でも庶民がつきまとったら迷惑だよね…)


リーゼロッテの、期待と不安の響きが聞こえてくる。カミラはただ前を向いて思考していた。


(学園内では庶民も貴族も王族も、表向きは平等だとされているけれど…)


先ほどリーゼロッテが嫌がらせを受けていたように、平等などあってないようなものなのかもしれない。


悪目立ちはしたくないが、貴族である前に人間として誠実でありたいとカミラは思った。リーゼロッテがお友達になりたいと思ってくれているのならば、拒否はしたくない。


(面倒事には巻き込まれるかもな…)とそんな事を考えながら、入学式が終わるのをぼんやりと眺めるカミラだった。


入学式を終え、各自教室へと移動する。サンクチュアリ王立学園はAクラス、Bクラス、Cクラスと、入学試験の成績や家柄を総合的に判断して、振り分けられる仕組みになっていた。


(できるだけ静かに過ごせるクラスだといいな…)


人混みの中で掲示板に目を向けると、カミラの名は「Aクラス」の一番端に滑り込んでいた。辺境とはいえローゼンブルク家の爵位と、事前の筆記試験の成績が考慮されたのだろう。


ふと隣を見ると、リーゼロッテが掲示板の前で小さな拳を握りしめ、今にも飛び上がりそうなほど激しく心を震わせていた。


(やった、やったぁ……! 特待生枠で、なんとかAクラスに入れた! 頑張って勉強して本当によかった……!)


じわりと大粒の涙を浮かべそうなほど、純粋な歓喜の残響。カミラはそれを受け取り、ふっと口元を綻ばせる。


「リーゼロッテさん。またお隣になれそうね」


「あ、カ、カミラ様……! はい、私もAクラスでした……!」


リーゼロッテは恐縮しながらも、その心の中は(嬉しい、優しいカミラ様と同じ教室にいられる……!)と、まるで小さな灯火がパチパチと弾けるような喜びで満ちていた。

その響きを心地よく聞きながら教室へ向かおうとした、その時。


(…辺境貴族の癖に、カミラもAクラスなのね。気に入らないわ。)


背後から、ツンと尖った高慢な残響が鼓膜を刺した。

振り返ると、カミラの親戚ゲルシュタイン子爵家の令嬢、ベアトリス・フォン・ゲルシュタインがそこにいた。


「あら、カミラじゃない。ごきげんよう。あなたもAクラスに入れたのね」


「ごきげんよう、ベアトリス。久しぶりね、元気そうで良かったわ」


カミラは以前ベアトリスが遊びに来た時、恥をかかせるような発言をしてしまった事を後悔していた。相手がこちらに敵対心を持っているからといって、自分自身も敵対心を燃やす必要性はないのだ。


むしろカミラの本心として「本音」が聞こえる「恩恵」を授かる前までは、ベアトリスの事が好きだった。一緒に遊んでいて楽しかったし、自分の知らない王都の話を聞くのも楽しかった。


(ベアトリスとオティーリエおば様には悪い事をしたな…)


「おば様はお元気?会うのは2年前、家に遊びに来てくれた時以来ね。あの時は失礼な態度をとってしまって、申し訳なかったわ。おば様にも謝っておいて」と軽くだが頭を下げ謝罪の意を示す。


(あら、カミラわかってるじゃない。成長してやっと私とあなたの格の違いを理解したのね!まぁ幼馴染だし、親戚だし、許してあげないこともなくてよ?あの後、遊びに行かなくなって少し悲しかったなんて、絶対、口が裂けても言わないんだから!)


「あら、そんな事もあったかしら…?そんな些細な事、お母様も私も全然気にしてなかったわ。」


ベアトリスは先ほど「気に入らない」と言っていたのが嘘かのように、謝罪した事でご機嫌になる。カミラはスッキリとした気持ちで、一つ胸のつかえが取れたようだった。


リーゼロッテがカミラの後ろで一連の流れを見て、(もしかして、貴族ってみんな小さい頃からお友達なの…?私がその中に入れると、とても思えない…)と不安を募らせている。ベアトリスはリーゼロッテに気づき視線を向けた。


(ん…?気づかなかったけど、この子のみすぼらしい制服…もしかして特待生の庶民じゃない?!カミラ、あなたやっぱり成長してないわね!庶民とつるむなんて、馬鹿なの?!私も仲間だと思われたら困るわ!)


ベアトリスはこの場を早急に去ろうとしているが、カミラは瞬時に「良い事」を思いついた。ベアトリスが言葉を紡ぐ前に行動に移す。


「ありがとう、気にしていないのなら良かったわ。ベアトリス、こちら特待生のリーゼロッテさん。私たちと同じAクラスなの。これからは毎日顔を合わせるのだから、よろしくね」


カミラはリーゼロッテを強制的に紹介してしまう。紹介されれば、ベアトリスも無視はできないはずだ。リーゼロッテは犬のようにプルプル震えながらも「は、はじめまして。リーゼロッテと申します!」と自己紹介した。


(ま、まずい…)「ベアトリス・フォン・ゲルシュタインと申します…。そろそろ教室に向かうので、私は失礼しますわね」


ベアトリスには悪いが、カミラは全く逃がすつもりはない。


「そうね、遅れてはいけないから私たちも一緒に向かいますわ。同じAクラスなのだし。ささ、行きましょう?」


ベアトリスが何か言う前に間髪いれず、カミラは周囲に聞こえるよう大きめの声で、饒舌に喋り続ける。


「ベアトリスにリーゼロッテさんを紹介できて良かったわ!サンクチュアリ王立学園は実力ある者が集う学園。特待生として席を勝ち取ったリーゼロッテさんは、この学園に相応しい素晴らしい輝きをお持ちの方ですもの。でも学園が定めた基準に異議をお持ちの方もいらっしゃるようだから…ベアトリスは私も令嬢として憧れちゃうくらい完璧だから、そんな無礼で愚かな考えは持っていないはずですわよね?」


ベアトリスは饒舌に喋るカミラに驚き若干引きつつも、自分が褒められている事に対して反論はできない。なにより学園に異議を唱えるつもりなどないので、肯定するしかなかった。


(たしかに、校則にも載っているし学園が定めた基準ではあるのよね…そうよ!私は完璧な令嬢なのだから庶民ごとき、なんて事ないわ)


「え、ええ。貴族としてそんな愚かな考え微塵もありませんでしたわ。」


周囲で会話を聞いていた者の響きが


(たしかに…愚かな振る舞いは避けたいわ)


(学園に異を唱えるのは王族に異を唱えるのと一緒だからな…)


(庶民は気に入らないけど表立って蔑むのはやめとこ)


(愚かですって!?、バレてないわよね?!先ほどわたくしが悪戯したってバレてないわよね?!)


と、先ほど庶民を蔑み嘲笑し嫌悪していたものとは、周囲の響きが少しだけだが変化したのがわかった。


リーゼロッテからは、(カミラ様、格好いい……! なんて良い人なの!)という、どこまでも真っ直ぐな尊敬の残響が伝わってくる。


カミラは小さく微笑みリーゼロッテとベアトリスと共に、Aクラスへ向かうのであった。

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