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Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第6章 統治

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間章5話 生活の違和感

朝は、少しだけ楽になった。


目覚ましが鳴る前に、


最適なタイミングで通知が届く。


睡眠状態。


体調。


天気。


交通。


すべてが整っている。


駅までの道。


混雑は分散され、


待ち時間は短い。


電車は遅れない。


乗り換えも迷わない。


画面に表示される案内に従えば、


最短で着く。


迷う必要がない。


職場でも同じだ。


タスクは整理され、


優先順位がついている。


どこから手をつけるべきか、


考える必要はない。


提案された順に進めば、


評価は上がる。


効率も上がる。


問題は起きない。


昼休み。


食事の選択。


健康状態。


過去の嗜好。


混雑状況。


価格。


すべてを踏まえた、


最適な候補が並ぶ。


迷う時間は短い。


外れも少ない。


「便利だよな」


誰かが言う。


別の誰かが頷く。


「まあな」


それで会話は終わる。


夜。


帰り道。


今日の消費。


明日の予定。


来週の最適化。


すべてが、


予測されている。


提案されている。


決めやすい。


だが、


ふと立ち止まる瞬間がある。


「なんで、これなんだっけ」


理由はある。


説明もできる。


だが、


自分で選んだ感覚が、


薄い。


別の場所。


ある人は言う。


「便利だからいいよ」


時間が増えた。


無駄が減った。


間違いも減った。


不満はない。


むしろ、


前よりいい。


別の人は言う。


「なんかさ」


言葉が続かない。


違和感はある。


だが、


説明できない。


結果に不満はない。


だが、


納得がない。


また別の人。


画面を見つめる。


「これでいいよね」


問いかける。


だが、


相手はいない。


提案は出ている。


選択肢もある。


だが、


どれを選べばいいのか、


分からない。


正解が分かることに、


慣れてしまった。


自分で決めることに、


時間がかかる。


やがて、


選ばなくなる。


提示されたものを、


そのまま受け取る。


それで問題は起きない。


むしろ、


安心する。


夜。


画面の中。


短い言葉が流れる。


「AIのおかげで楽になった」


「全部操作されてる気がする」


「どうでもいい」


肯定。


不信。


無関心。


同じ空間に、


同時に存在する。


議論にはならない。


交わらない。


それぞれが、


自分の感覚だけを持っている。


ある投稿。


「選んでるつもりで、選ばされてない?」


すぐに流れる。


別の投稿。


「効率化ってそういうことでしょ」


また流れる。


誰も止めない。


止める必要がないから。


現実は問題なく動いている。


生活は安定している。


サービスは改善されている。


不便は減った。


だが。


ある感覚だけが、


残る。


小さな、


言葉にならない違和感。


選択肢はある。


だが、


自由ではない気がする。


理由は分かる。


だが、


納得していない気がする。


決めている。


だが、


決めていない気がする。


誰もそれを、


問題とは言わない。


なぜなら、


生活は壊れていないから。


むしろ、


うまくいっているから。


だから、


その違和感は、


放置される。


説明されない。


共有されない。


ただ、


それぞれの中に残る。


最後に残るのは、


一つの感覚。


自分で決めているはずなのに、

自分で決めている気がしない。


社会は壊れていない。


だが、


“決める感覚”だけが、静かに消えている。

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