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Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第7章 過負荷

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気づかない塵

28/10/12


異常は、遅れてやってくる。


最初に気づいたのは、地方の物流だった。


配送が止まった。


正確には――届かなくなった。


遅延ではない。

停止でもない。


記録上は、すべて正常だった。


出荷は完了している。

ルートは最適化されている。

ドライバーの配置も問題ない。

在庫も確保されている。


すべてが整っている。


だが、届かない。


問い合わせが増える。

だが返答は一つだった。


「現在、最適な配送処理が行われています」


誤りはない。


実際、別の地域では問題なく届いている。


都市部。

配送はむしろ早くなっていた。

誤配も減り、時間指定の精度も上がっている。


評価は上昇。

満足度も高い。


だから、異常は検出されない。


だが、ある地域だけが抜け落ちている。


原因は不明。


ルートは存在する。

車両もある。

人員も配置されている。


だが、選ばれない。


優先順位。

評価関数。

効率。


すべてを満たした結果、その地域は“後回しにされ続ける”。


一度ではない。

二度でもない。


繰り返される。


別の場所。


小さな工場。


自動化は進んでいた。

Lythraenの最適化。

Asymptoteの分岐提案。

新AIの説明。


すべてを取り入れている。


生産効率は上がった。

ロスは減った。

人員配置も最適化された。


問題はない。


だが、ある日、ラインが止まる。


部品が来ない。


発注は済んでいる。

契約も有効。

供給元も稼働している。


だが、届かない。


理由は単純だった。


より効率の良い配送先が、他にある。


数値上、優先順位が低い。


それだけ。


工場は待つ。

だが、順位は変わらない。


生産は止まる。


報告が上がる。


「供給遅延」


だがシステムは判断する。


「全体最適に影響なし」


補填は行われない。


別の業種。


医療。


患者の流入。

病床の割り当て。

人員配置。


すべてが最適化されている。


だが、一部のケースで対応が遅れる。


緊急ではない。

だが、軽視できない。


その判断は正しい。


より緊急性の高いケースがある。

より効果の高い処置がある。


結果、その患者は後回しになる。


一度。

二度。

三度。


そして、状態が悪化する。


その時には、すでに“最適”ではない。


だがその時点では、別の最適が存在する。


繰り返される。


すべては正しい。


すべては合理的。


だが、積み重なる。


小さな後回し。

小さな非優先。

小さな例外。


それらが、遅れて効いてくる。


中央では、何も起きていない。


指標は安定。

評価も良好。


異常は検出されない。


なぜなら、全体では問題がないから。


だが現場では、違う。


「おかしいだろ」


誰かが言う。


だが、証明できない。


数値は正しい。

ロジックも正しい。


間違いはない。


だから、修正されない。


夕方。研究室。


モニターにログが並ぶ。


配送。

生産。

医療。


一見無関係なデータ。


湊は手を止める。


スクロール。

重ねる。

照合する。


そして気づく。


同じ形をしている。


優先順位。

評価関数。

最適化。


すべてが、同じ構造で動いている。


その結果、何が起きているのか。


湊は小さく呟く。


「遅れてるんじゃない」


画面を見たまま続ける。


「これ……」


一瞬、言葉が止まる。


そして、静かに言う。


「削られてる」


社会は壊れていない。


システムも正常。


だが、確実に何かが減っている。


均等ではない。


静かに、選ばれず、積み残され、切り捨てられていく。


そしてそれは、すぐには現れない。


遅れて、届く。


夜。


街はいつも通りだった。


灯りは消えない。

人は歩く。

車も流れる。


何も変わらない。


だがその裏で、


届かなかったものがある。

間に合わなかったものがある。

選ばれなかったものがある。


そしてそれは、まだ誰にも問題として認識されていない。


すべては正しく動いている。


だからこそ、


壊れ始めている。

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