間章4話 最適化の選別
— 経団連
会議は短い。
結論も早い。
迷いは、ほとんどない。
高層階の会議室。
磨かれた机。
整然と並ぶ資料。
大型モニターには、
数値が並んでいる。
売上。
利益率。
効率指標。
すべてが、
上向いている。
一人が言う。
「結果は出ています」
別の者が頷く。
「明確に」
5%負担制度。
導入から数ヶ月。
初期の混乱は収まり、
現在は安定運用。
Lythraenの評価。
Asymptoteの補助。
新AIの説明。
それらを組み合わせた、
企業評価モデル。
その結果。
非効率な企業は淘汰される。
自動化の遅れた企業は負担を受ける。
適応した企業は拡大する。
構造は単純。
最適化。
別の資料が表示される。
中小企業の減少。
廃業率の上昇。
地方経済の縮小。
一瞬だけ、
沈黙が生まれる。
だがすぐに、
別の声が続く。
「想定内です」
グラフが切り替わる。
大企業の収益。
市場占有率。
投資効率。
すべてが、
改善している。
「全体としては健全です」
誰も反論しない。
別の報告。
雇用の変化。
職種の消失。
再配置の遅れ。
「移行期です」
短い言葉。
それで終わる。
サプライチェーン。
一部断絶。
供給の偏り。
物流の集中。
「再編が進んでいます」
言い換えられる。
整えられる。
意味が変わる。
痛みは、
言葉の中で処理される。
会議は進む。
議題は次へ。
「次の最適化対象について」
新たな業種。
新たな基準。
新たな評価。
誰かが言う。
「どこまでやるのか」
一拍。
答えは決まっている。
「可能な限り」
その言葉に、
迷いはない。
別の資料。
AI評価の詳細。
スコアリング。
重み付け。
閾値。
それらは公開されている。
透明性は担保されている。
だが。
運用は別だ。
ある企業は、
評価基準を詳細に分析する。
どの指標が重いか。
どこを改善すればよいか。
最適化する。
だがそれは、
本質ではない。
スコアを上げるための最適化。
別の企業は、
より直接的に動く。
評価に影響する条件を、
調整する。
外部要因を、
整える。
合法。
だが恣意的。
AIは中立だ。
与えられた条件に従う。
入力されたデータを処理する。
だが、
その条件を誰が作るのか。
その問いは、
会議には出ない。
一人が言う。
「公平性は担保されています」
誰も否定しない。
事実だからだ。
同じ条件なら、
同じ結果になる。
だが。
同じ条件ではない。
地方と都市。
資本と規模。
技術と人材。
その差は、
初めから存在している。
AIはそれを考慮する。
補正もする。
だが最終的には、
数値として処理する。
そして、
選別する。
会議の終盤。
誰かが静かに言う。
「これは……淘汰ではないのか」
一瞬の沈黙。
だがすぐに、
別の声が重なる。
「進化です」
言葉が置き換わる。
意味が変わる。
誰もそれ以上は言わない。
結論は変わらない。
最適化は続く。
評価は続く。
選別は続く。
モニターの中で、
新たなランキングが更新される。
上位。
中位。
下位。
その順序は、
明確だ。
そこに感情はない。
意図もない。
ただ、
結果がある。
会議は終わる。
誰も迷っていない。
誰も止めようとしない。
なぜなら、
正しいから。
効率的だから。
そして何より、
利益が出ているから。
廊下に出る。
静かな足音。
ガラス越しの都市。
その下で、
消えていくものがある。
だがここでは、
見えない。
最後に残るのは、
ただ一つの事実。
AIは中立だ。
だが、
それを使う側は中立ではない。




