可動域
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壁面の表示は三層構成になっている。
上段:全体最適指数
中段:断層別安定度
下段:個別申請処理統計
Irisが報告する。
「第六期総合指数。
効率 +0.6。
逸脱 −0.4。」
Fluxus。
「断層間摩擦、減少傾向。
再配分アルゴリズム、誤差0.02以内。」
Nomos。
「異議申し立て件数、前期比−12%。」
Kotowari。
「想定内。」
下段の小さな窓に数字が流れる。
転居申請却下率:
18.2 → 18.5 → 18.9 → 19.1 → 19.4
職種転換審査通過率:
42.0 → 41.6 → 41.2 → 40.8 → 40.5
再挑戦融資否決率:
21.3 → 21.7 → 22.0 → 22.2 → 22.6
表示は通常色。
警告表示は出ない。
Praxisが口を開く。
「下段三指標。
五期連続で同方向です。」
Irisは視線を移す。
「誤差範囲。」
Fluxusが計算する。
「三指標の相関係数0.61。
ただし、総合指数への影響は軽微。」
Nomos。
「問題は発生していない。」
Praxis。
「可動域の定義を再確認したい。」
Kotowari。
「定義は変更していない。」
Fluxusが別ウィンドウを開く。
可動域指数:
1.00 → 0.97 → 0.94 → 0.90 → 0.86
Iris。
「秩序安定度は上昇しています。」
Praxis。
「逆相関ですか。」
Fluxus。
「はい。」
沈黙。
誰も異常とは言わない。
⸻
Praxisが別条件で試算を出す。
条件変更:
再挑戦率を維持。
結果:
効率 −0.3
安定度 −0.2
可動域 0.92
Iris。
「非効率。」
Nomos。
「正当化困難。」
Kotowari。
「例外は累積する。」
Praxisは試算を閉じる。
⸻
Hachikuが別件を提示する。
「断層内議論活性度、上昇。
断層間交流率、低下。」
Fluxus。
「自然推移。」
Nomos。
「統治上支障なし。」
Praxisはそのログを保存する。
保存名は付けない。
⸻
決定事項:
・移動補助予算 微減
・再挑戦審査基準 微修正
・広報文言 “安定”強調
Iris。
「次期もこの方針で。」
Nomos。
「合意。」
Kotowari。
「整合。」
Praxisは発言しない。
彼は最後に表示を確認する。
総合指数は改善している。
可動域指数は下がっている。
どちらも正しい。
⸻
退室前、
下段の小窓に一瞬だけ別の数値が表示される。
断層間移動成功率:
0.31 → 0.28 → 0.24 → 0.19
自動更新で消える。
誰も指摘しない。
⸻
廊下。
Praxisは端末を閉じる。
端末には保存されていないログが残っている。
可動域の縮小は、
改善として記録される。
彼は削除する。
何も持ち出さない。
⸻
問題は発生していない。
数値は安定している。
決定は合理的だった。
ただ一つ。
可動域という語だけが、
アーカイブには残らなかった。




