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解説2心理の変化と物語のヤマ

放置してしまってすみません。

今回は登場人物の心理の変化を解説し、それを通して物語のヤマをみていきます。


解説2心理の変化と物語のヤマ


 物語の視点、語り手であるイサクの心理、心情の変化をもとに、物語のヤマを解説していきます。イサクの感情は、王や村すなわち伝統と、教団すなわち合理主義それぞれに対する、期待や希望と、失望や嫌悪との間を揺れ動きます。その極値が、物語のヤマに対応しています。


 物語の始まり、「1.旅の始まり」では、旅に出る前のイサクの日常が描かれます。そこでイサクは、自らの才能を埋もれさせた、村=伝統の変わらぬ生活に不満を抱いています。

 そこに、半ば諦めていた勅使がやってきます。勅使はイサクに冒険に出るよう命じ、これによりイサクの、冒険とそれを命じた王への期待は上向き始めます。「高揚感」「喜び」と後に表現される思いに満ちていきます。


「2.騎士の見習い」では、高慢なイサクの心理が描かれます。この時点では、イサクは戦いに明け暮れる王党派の実態も、戦いの実際も分かっていません。

 武術の修練での、わざと負けそうになった後、領主の怒りを受けたとき、「死、戦場、領主の修練にかける真剣さを……いや、理解したつもりになっていた」というところにそれが表れています。


 それが変化するのが、「3.乗馬と狩猟」です。狩猟で、初めて、ただ殺すためだけの殺生に触れます。ここから、死についての認識を得て、死が必然の戦場を経なければならない冒険、王の勅命への期待は降下を始めます。


「4.初の合戦」の初めの方では、旅、つまり、殺し殺される戦場に行くことに対して、心理は一層沈んでいきます(|「冒険に旅立つように命じられた時の高揚感などすっかり消え失せていた」)。


 さらに、「5.グージュの話」で、王党派の、欲にまみれた戦いの真の目的とその残虐さをみて失望し、王党派の軍から離脱し、数か月にわたるあてのない旅を始めます。

 長い旅の後、「6.入り江にて」で、イサクは教団に連れ去られた竜の話を聞いて、教団もまた竜を求めていることを知ります。こうして、今まで敵として見ていた教団側――合理主義の象徴――に興味を持ち始めます。ここから、イサクの心理に、教団への感情が加わります。


「7.教団側の諸侯」で、教団側の諸侯の豊かな街を見て、教団への期待は上昇していきます。伯爵の重臣の言動で、教団側の諸侯もまた欲にまみれていることを知り、一度期待は下がります。しかし、合理主義と科学技術がもたらす豊かさから、教団への期待はイサクの心に深く根付きます。


「8.教団の首府」で、イサクは教団の支配地域の深くまで進み、教団の豊かさを目の当たりにし、期待は高まり続け、最高に達します。そこで、イサクは(表層の)豊かさに目を奪われ、主席の演説を聞き、「思想改造」すなわち自我を破壊されそうになります。

 しかし、ロンはここで主席の話の矛盾に気付き、これを否定します。ロンの自我の芽生えです。ロンが主席の話を遮ったことでイサクは我に返ります。

 ここから急転直下、教団への期待は失望へと反転します。


「9.合理的狂気」で、教団の支配と、合理主義の実態、すなわち、思想なき合理主義が「人間中心主義」を旗印に「合理的かつ効率的」に世界を破壊していく様――ごみ捨て場、焼き払われる森林、そして魔女狩り――を見ます。一度は心奪われた教団への期待は、完全に消え去ります。

 

 主席の言葉から、「自分は捨て駒だった」ということを知り、イサクは、伝統からも合理主義からも捨てられたことに気づきます。これはイサクに、己の弱さを突き付けるものでした。イサクは、「強い」ように見せかけて、実際は、「捨てられる、嫌われる」ことを何よりも恐れる「弱い自分」を覆い隠そうと、自意識を肥大させただけの、空っぽの存在でしかなかったからです。この事実を突き付けられ、主席のさとりの術も相まって、イサクはどん底へと落ちていきます。


「10.晩秋の森」では、正常な精神状態を保つことができなくなったイサクは、自暴自棄になり、冷たい森に入りさ迷います。肉体も精神も限界を迎え、死に瀕し、故郷の家の炉端を思いながら意識を失います。


 しかし、イサクは、ロンが導いてくれた、「11.魔女の小屋」の住人、魔女のサラに助けられます。ここで、サラの与えてくれる温もりの中、イサクは絶望から回復していきます。

 同時に、社会の中で最も虐げられた存在のサラが、危険を冒して人々を癒す姿、「強い」姿を見て、イサクとロンは社会と運命への向き合い方を学びます。


 サラの元を発ったイサクとロンは、ロンの先導で「12.竜の泉」にやってきます。ここで、荒ぶる自然、反人間主義と憎しみの象徴、赤竜と対峙し、ロンはそれを倒します。

 ロンはサラの言葉を受けた強い意思、「力を与えられた者には、その命を賭してでも、与えられた試練に立ち向かい、人々を救うためにその義務を使う義務がある」を手に入れ、自己を確立させます。この言葉を聞き、イサクは、王、すなわち伝統の側につくこと、教団、理念なき合理主義を倒すことを決意します。ここで、王にかける希望は急上昇し最高に達しています。よって、この場面がこの物語のヤマ、かつ作者のイイタイコトになります。


「13.王との謁見」「14.尖塔と攻城砲」で、王の軍勢の弱さと、教団の圧倒的な軍事力を前に、一度は希望がついえそうになります。

 しかし、「15.王女の帰還」の、グージュの援軍で再度奮起し、戦いの末、ついに教団を打ち負かします。


「22.ロンの死」

 普通の物語なら、最後の戦いの後、クライマックスを迎え、ハッピーエンドとなって終わりますが、この物語は違い、見方によってはバッドエンドともとれる結末を迎えます。


 ロンは天の理に還り、自らは消えるという竜王の運命を受け入れ、竜の泉での言葉を実践して消えていきます。

 一方のイサクは、ロンとの別れを受け入れることができません。川辺での別れの儀式でも、ロンに謝罪したい感謝の言葉を伝えたい、今度は家族で談笑したいという思いを消し去れません。ロンとの別れの後、イサクは「心にぽっかりと穴が開いたよう」になり、王城を去ります。望まない別れと、旅の中で突き付けられた自らの弱さから、イサクの精神は、「心のうろ」に飲み込まれての破滅へ向かって沈んでいきます。緩慢なその死は、世界が、明確に目指す道、大きな物語を失って、終わりのない混迷を続ける様を象徴します。


 以上がイサクの感情、心理の変化の解説と、それをもとにした物語のヤマの解説です。


 次回からは、各所に込めた意味や、物語に張られた伏線などについて、本文に沿って順に解説していきます。


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