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21. 罪は償わるるべし

21. 罪は償わるるべし


 教団の軍は白竜を失い、火薬の生産ができなくなった。砲撃はついに城壁へと向いた。残った火薬で城壁の一箇所に集中して砲撃を加え、突破を図ってきた。王城の城壁は、切り立った崖の上に、さらに高く積まれた石積みでできている。したがって、平地に築かれた城と違い、城壁に穴を開けさえすれば市街地に突入できる訳ではない。しかし、教団の軍は砲撃を重ねて崖を崩し、砕け散った瓦礫で坂道を作って攻め入ろうとしていた。今日もまた崖は低くなり、瓦礫の足場は高くなる。このままでは突入は時間の問題だった。

 一方で、城内に備蓄されていた資材、そして食料も限界を迎えようとしていた。今日もまた、会議ではその話題となった。狭い地下室、大臣達、将軍達、イサクとグージュ、学生が話し合う。ロンも部屋にはいたが、先日受けた銃弾の毒が長く残り、長椅子に横たわり、隅で医官の手当てを受けている。

「食料は残り僅か。では水は」

 グージュが尋ねる。

「もうすぐ乾季が終わり、雨季が来る。水はそれで補充される」

「待て。ということは、水は横井戸ではなく、地上から供給されていると。それなら、水に毒を入れて、城内を全滅させようとするのではないか? あの残虐な教団ならやりかねない」

「確かに。水は、大河に注ぐ谷川の一つをせき止めて貯水池を作り、地下に掘った導水路から引いている。貯水池そのものは地上にあるから、毒を入れようと思えばできる」

「その貯水池の場所と、中の水量は?」

 何かをひらめいたように学生が言った。貯水池の水を放流して、敵を水攻めにする。

 地図が広げられたが、その距離を見て学生はうなだれた。

「これでは全く水量が足りない」

 今度は地図を見たイサクがひらめいた。

「貯水池の水だけでは足りませんが、大河を氾濫させればどうでしょう。近年、世界の理が弱まり起こるようになった災厄の一つで、王都の前の大河を、年に何度も濁流が流れるようになったと聞きました。大河が谷間から平野に出る場所は堤防に負荷がかかりますよね。ちょうどその近くを流れる谷川の上流に貯水池はある。貯水池の放流で堤防を削ることができれば、大河を氾濫させ、敵を水攻めにできるのではないでしょうか」

「再度計算してみます」

 学生は、長く、複雑な文字列を書いていった。計算が終わり、言った。残った水を全量、一気に流せばギリギリで堤防に届く。残った火薬で貯水池を爆破し、流れ下るその水流で堤防を削る。乾季の間に、周りには塵が積もっている。最初に降る雨はそれや泥を多く巻き込んで流れ、堤防を削る力が大きい。大河と谷川、両側から削れば、堤防を決壊させられるかもしれない。

 機会は一回、今年最初の雨が本降りになったときだけだ。


 ぽつり。空が曇り、雨が降り始めた。学生と、イサク、グージュ、数人の兵士たちは、背負える限りの火薬を背負って、複雑に入り組んだ地下の水路を進んでいった。不安に押しつぶされそうになってきた頃、やっと明かりが見え、貯水池に出た。

 雨の中、イサク達は、教団の軍に気付かれないよう、慎重に、貯水池の積み石を削っていった。石積みの最も弱いところを見定め、火薬の包みを置いた。雨は本降りとなった。導火線を引いたところで、一際大きな雷鳴が轟いた。土砂降りの雨、雨音で声も聞こえない。急いで爆弾を油紙と羊毛で包むも、導火線は雨に濡れ、使い物にならなくなってしまった。魔術で火の気を集めて爆弾に点火しようにも、雨の中、離れた何もないところに気を集めるだけでは火花を散らす程度で、導火線ほどの威力は得られない。一気に爆破しなければいけないのに。水かさが増す。このままでは爆弾が水に浸かってしまう。

 イサクは言う。

「もう駄目だ。逃げよう」

グージュは言い返す。

「ここで諦めたら、天地の理は守れない。私が炎を抱えて飛び込んででも、必ずやり遂げる」

 それを遮る声がする。学生だった。今までの、言い訳をしていた時のような弱さは感じられない。覚悟を決めた気迫があった。

「僕が行きます。この世界の運命を、僕はたった一人の出来心で変えてしまった。そして、それによって数え切れない人が死に、天地と人の理までもが壊されかけている。人は過ちを犯したとき、その責任を取らなくてはならない」

 兵士の一人から、松明を取り上げた。

「イサク君、魔術で、火の気をここに。早く」

 イサクは逆らえなかった。炎が燃え上がった。それを雨から守り抱えるようにして、学生は走り出した。

 爆音が轟く。同時に、衝撃で巨大な岩が石積みに向け転がり落ち、貯水池の水は土石流となって、濁った激流の渦巻く大河の谷口を守る堤防へと流れ下って行った。

「逃げろ、ここも巻き込まれるぞ」

 一団は暗い水路をひた駆けた。


 イサクは城壁に上った。山から平地に流れ出る谷口の一箇所が決壊すると、泥の混じった大河の濁流は大きく堤防を削っていった。水はそのまま、平野に展開した教団の陣営に押し寄せる。突然の出来事に、慌てふためき、悲鳴を上げ、逃げようとする兵士達。脱走兵に対し憲兵が容赦なく発砲するも、潰走する部隊には何の意味もない。そこかしこで、火花が散り、稲妻と爆音が上がる。エレキテルを使った機械に水が流れ込んだのだ。限られた舟に人が群がる。何とか漂流物につかまる者、力尽きて流される者。地獄絵図とはこのことだろうか。城門が開けられたが、そこまでたどり着ける者は僅かだった。

 城壁の上、イサクの隣に、ロンがやってきた。鉛の毒で青白い顔をし、ふらつきながらもその意志は固い。

「ロン、行ってくれるか、救援に」

 ロンは黙ってうなずくと、竜に変じた。教団の陣営に飛んでゆくと、一人、また一人と濁流の中から兵士たちを引き上げ、自らの背に乗せ、城へと運び始めた。教団の兵士達は一人として、今まで敵とみていた魔法のもの、竜に銃を向ける者はいない。

 丸一日かかって、雨季の最初の濁流は流れ去った。濁流が去るまでの間、ロンは休むことなく飛び続け、兵士たちを運んだ。一人でも、失われる命が少なくなるように。

 水が引き、辺りは溺死した兵士の遺体と、武器や機械の残骸で埋め尽くされた。教団側の、生き残った内で最高位の将校が投降し、戦いは終わった。

 すぐに生き残った兵士達で協力して、遺体の回収と、水葬、埋葬が始められた。

 教団の主席はその中で、水を飲んで溺死して発見された。


あと一話で完結します。

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