19. 復讐の時
19. 復讐の時
予め誰にも場所が分からないようにして会議をしよう。そう決まった翌朝、グージュのもとに伝令がやってきた。グージュは伝令に場所を伝えると、王宮の前へと向かった。
王宮の前には既に、大臣や将軍達が集まっていた。神官長から示された場所を伝える伝令がやってきて、二人の伝令が同時に地図の上で場所を指し示した。中間点はちょうど、正門にほど近い小さな館だった。そこに向けて、静まり返った城内を一団は歩いていく。
館の中に入ると、広間に椅子を並べて座った。イサクとグージュは一同の前に出て立っている。
「皆さん。ここにお集まりいただいた理由はもうお分かりかと思います」
不気味な静寂が流れた。
「一体何がしたいんだ」
声が響く。
「やはりこうなりましたね」
イサクは言った。
「まだ気が付きませんか」
元帥だけが笑う。
「砲撃の音が聞こえない」
グージュが言う。
「あれだけ毎日続いていた砲撃が、今日は一発もないのです」
そう、静けさ。それは敵の大砲によって失われてしまっていたもの。
「教団の砲撃には不可解な点が多い。教団の大砲は強大な破壊力を持ち、照準も正確です。それなら、長大な城壁を狙って崩壊させたり、城門を破壊したりして、そこから城内に入って一気に制圧すればよい。今まで教団が数々の攻城戦で行ったように。教団が包囲しているのは、単なる落城とは違う別の目的があるのではないか。私たちはそう推測しました。
そこで、他にも砲撃されていない場所がないか調べてみることにしました。予想は当たりました。巨大な目標である、王の起居の間のある王宮、玉座の間のドーム。まるで王城の中枢を温存するかのように砲撃がされていない。
そしてもう一つ。この会議が行われている場所です」
「何が言いたい」
「話を変えましょう。」
イサクは言う。
「私が旅する中でも、不可解なことがありました。ある宿で王の紋章の彫られた黒玉の印を使ったときのこと。その直後、王党派の襲撃を受けるようになりました。おそらく、私が、北へ、教団の領土へと向かうと告げたことで、私が教団側へ寝返ると思われ、王城に知らせが送られたのでしょう。皆さん、王の使者の一人が裏切りそうだという報告を受けた方」
一同うなずく。
「そして、その裏切りは、王宮の秘密ということで、王の重臣以外には話されていない。つまり、今まで生き残った皆さん以外、当時裏切りを知っていた人はもういない」
一同またうなずく。
「実はそのとき同時に、教団側からの攻撃も止んだのです。これは誰かが教団と密かに通じていて、私の裏切り、教団への寝返りを教団に伝えたとしか思えない。それだけではありません。私が旅に出たとき、故郷の村の外では、既に教団の騎士が私を待っていました。そこで、皆さんを嵌めたのです」
「話を砲撃に戻しましょう」
グージュは言う。
「この会議、毎朝の作戦会議は、一度も砲撃を受けたことがありません。それどころか、近くに着弾があると敵の声が聞こえて、慌てて逃げ出したこともない。今までは、場所を変えながらうまく秘匿できているからだと思っていました。しかし、ここまで見事に対象から外れているのは偶然にしてはあまりに出来すぎている。その理由は、教団があえて外しているから、もっと言えば、内通者を砲撃しないようにしているからではないのですか。地下にいては、攻撃を予告する声が聞き取れないかもしれませんからね」
「そして、今日、会議の場所が分からなく、つまり、内通者がどこにいるか分からなくなってしまった。内通者を失ってしまっては目的が果たせない。だから、包囲が始まって以来初めて、砲撃を止めたのです」
つまり、この中に内通者、裏切り者がいる。
「そして」
グージュは続ける。
「砲撃を受けていない場所がもう一つありました」
「神託所です」
イサクは言う。
「数日前に私が会議を開く場所の選択の可否の神託を仰ぎに行ったとき、神託所は無傷でしたね」
「それが何の証拠になるのだ」
神官長は叫んだ。
「私が伝令をしていて教団の主席と遭遇したとき、主席はまさに会議の場所の神託をし終わったあなたのところに向かって歩いていた」
「だから、それが」
「神官長、まだ私はあなたが裏切り者だとは言っていませんよ」
ぐぬ、と神官長は押し黙る。
「私はずっと伝令をしていたから分かるのです。どこで会議を開くか。提案する人は様々でしたが、どの場所にするか、最後の結果を見られるのは、つまり、どんな変更ももらさず敵に伝えられるのは、神託で可否を決めるあなただけなのですよ。
十五年前、突如現れた奇術師、いや、学生を捨てる場所を北方にしようと決めたのは誰ですか?ただ捨てるなら、海でも、南の砂漠でもよかった。それをわざわざ技術を欲しがる北の教団の主席の目の前に置いたのです。この学生のもたらした「エネルギー」の原理に関する知識、製鉄技術と火薬の製造技術がなければ、教団の躍進もなく、したがって、この陰謀を企てることはできなかった。
それに、私が教団の首府で主席と対面したとき、主席は私に裏切り、すなわち、王宮に入り込み、教団の計画の素晴らしさを王に吹き込み、王の威信をもって教団の支配に正当性を与えるよう働きかけることを提案してきました。これは、既に内部に裏切り者がいたからこそ、発案できたものではないのですか」
「ああ、そうだよ! 私だ。内通していたのは!」
神官長は立ち上がり叫んだ。
「さらに言おう。王太子を暗殺し、王の血統を絶やして王権を手に入れようとしたのも私だ」
「なぜだ」
グージュは神官長に詰め寄った。
「なぜ? 王太子を暗殺しさえすれば、お前は執権として王家の持つすべての権力を手に入れられたはずなのに、どうしてここまで多くの血を流す謀略を!」
「権力を、子々孫々、未来永劫のものにしたかったからだ。
見てわかるだろう。王家の持つすべての権力を手に入れたとしても、王に対する裏切り、叛乱の数々で、王家の威信と支配力は年々衰えている。このままでは王の直轄領を失うだけでなく、王家そのものが転覆されてしまうのは時間の問題だった。
そんなとき、北の野心家の領主から、世界を二分する話がやってきたのだ。まさかと思った。そのようなことができるはずがなかろうと。しかし、ちょうど十五年前、あの奇術師がやってきたのだ。北の領主は化学と火砲の研究で才覚を表していた。この奇術師を送り込めば、本当に世界を二分し、裏切り者達を鎮圧できる。王太子を暗殺し、子孫のいない老王から、次の有力者に禅譲し、私はその者のもとで権力を保証されて生きる。暗殺は前から計画していたが、やっと環境が整ったのだ。
そうして私は奇術師を北方の領主の前に追放し、殺し屋を雇って王太子を襲わせた。王女が生き残ったのは誤算だったが。すべては私の掌の中に」
「なぜそんな真似をしてくれたのか!」
グージュの怒りの声が響く。
「教団の主席は、私と私の子孫に王の領土の保全を約束してくれたから。ひょっとしたら、教団の医学の研究が進めば、私は死を克服し、永遠の命と権力を手に入れられるかもしれない」
「馬鹿な、なんと愚かな。裏切りと殺戮を繰り返す教団が、主君を裏切るような奴を信用して守ってくれるとでも思ったか。王に仕え、天に仕える神官の身ながら、王室に背き、天地の理に唾を吐きかけた裏切り者めが。己のちっぽけな権力欲のために、どれだけの血を流したのだ」
グージュは剣を抜く。
「ここまで来たら仕方がない。諦めよう。捕縛してくれ」
神官長は両手を揃えて突き出す。
「など言う訳がないだろう!」
初老とは思えぬ速さで駆けだした。
「往生際の悪い。追え、逃がすな」
その場にいた武将たちが神官長を追う。
路地を、裏通りを駆け抜けた神官長は、しかし、ついに城壁の上に追い詰められた。集まった兵士たちに取り囲まれ、進路を断たれながらも、城壁の端に立って逃げ道を探している。
飛び出すグージュ。
「父母の怨み。地獄に落ちろ、この簒奪者」
剣を突き出す。なおも逃げ道を探す神官長は、かわそうとして体勢を崩し、そのまま真っ逆さま、城壁の外へと落ちていった。
裏切り者への誅罰はあっけなく終わった。




