18. 一番の賭け
18. 一番の賭け
そのまま包囲戦は膠着が続いた。教団軍の攻城砲は王城の館を次々に正確に撃ち抜き、街並みを櫛抜けにしていった。破壊された動線を復旧し、また住民の起居する場所を確保しなければならない。しかし、そのための物資も、人手も全く足りていなかった。毎朝開かれる軍議はもはや、日々減っていく物資の残量を確認する以外は、限られた人手を、どこの復旧、正確には瓦礫の撤去に割くのかが話し合われるだけの会議の場となっていた。参加するのは大臣達と将軍達、グージュとその率いてきた武将達、そしてイサクとロン、先日現れた学生である。
会議は山肌に穿たれた地下室を転々と、日ごとに場所を変えて行われていた。無論、大きな砲撃目標となる玉座の間に敵の砲弾が直撃した場合に備えてである。集まった将軍達が一度に瓦礫の下敷きになってしまえば、指揮系統は壊滅し、落城するしかなくなる。主席の一件があってから、会議の場所は以前にもまして厳しく秘匿されるようになった。たとえ一兵士の口からであっても、会議の場所の話が主席に聞かれてしまえば、砲撃を加えられてしまう。病の重い王は移動に耐えられないため、久しく参加せず、王宮の自室で静養している。
会議が終わって、地下から出、また一日グージュの指揮の下で瓦礫運びをした後の夕方、イサクはグージュに話しかけた。
「数日前、教団側には落城とは別の目的があるのでは、と言っていた」
「ああ、そうだ。言ったな」
「それについて、気になることが。実は旅の途中でも不可解なことがいくつかあって。思いついたのだけれど」
イサクはグージュに耳打ちする。グージュはうなずいた。
「試してみよう」
その晩、イサクはグージュのもとを訪れ、話し合いを重ねた。
翌朝の会議でイサクは言った。
「小臣達、そしてグージュ配下の武将達と学生には席を外して頂きたい」
言われた人々が退席し、扉が固く閉ざされると、残るは十人、元帥、右軍将軍、中軍将軍、近衛兵長、神官長、医官長、護民官、そしてイサク、ロン、グージュだけになった。
「提案があります」
グージュが言う。
「明日の会議は久しぶりに地上に残った館の一つを借りて行いましょう。地下ばかりでは息が詰まりそうだ」
「一体何を」
右軍将軍、中軍将軍がそろって言う。
「もし砲弾が直撃したときには完全なる敗北ですぞ」
「地下ならともかく、地上では砲撃を防ぐものがない」
近衛兵長も同調する。
「いくら医術を尽くしても、あの砲撃の直撃に救護の方法はありません」
医官長が言う。
「民はいつだって砲弾の恐怖の中、地上で過ごしている。我々だけが安全なところにいようというのは自分勝手が過ぎる」
護民官だけがグージュの安に賛成した。
「それに」
「言うな」
続けようとする護民官を元帥が制止した。
「それ以上言うんじゃない」
イサクとグージュ、ロンは元帥を見た。元帥は意味ありげな目つきで、イサク、ロン、そしてグージュを見ている。
「元帥の権限で将軍達に命ずる。グージュの案に従うように。ただし条件を二つつける。一つ目、明日の会議にはこの場に居合わせた人以外が参加してはならない。二つ目、場所は地上、地下いずれになるか分からない。場所は、明日の朝グージュが望む場所と神官長が望む場所の中間地点とする。日の出の直前に伝令が意見を聞き、その後王宮の前に集まった我々全員でそこに移動する。つまり、この提案をしたグージュを含めた誰にも、明日の会議の場所は分からない。こういうことでいいんだろう、グージュ。よいか、護民官」
「それでいい」
護民官はうなずいた。
「大臣方、法では、重大な決定事項について、護民官は拒否権を行使できる。護民官には、全員がこの意見に従うまで拒否権を行使してもらう」
「話し合うなということではないですか」
医官長が抗議するも、元帥と護民官の意志は固い。
「では決定、解散とする」
大臣達と将軍達は、一人、また一人と部屋を退出していった。
最後に、元帥と、イサク、ロン、グージュが残った。
「若者方」
元帥は含みのある笑みを浮かべる。
「勝負に出られたな」
「ええ」
グージュもまた、笑みを浮かべて返事をする。
「分かっている。何をしようとしているかは」
元帥の言葉を背に、三人は部屋を後にした。




