二話
「静、寿。午後に静の婚約者となる娘が来る。丁寧に持て成すように。」
「はい、お父様。」
「…」
そう、言い終わるなりお父様はまた書斎に戻り、篭ってしまった。シズはその後ろ姿に小さく舌打ちをする。
それから、私の手を取って、歩き出した。私も黙ってそれに従うまで。
歩きながら、思うのはシズの婚約者の事。お父様は、誰をシズの婚約者に選んだのだろう。『極彩色』において、静の婚約者となる攻略対象者は双子の私を除外して七人だ。
それぞれ、この色をイメージして作成されたキャラだから、かなり分かりやすい外観をしている。
色で例えるなら、赤、橙、黄、緑、青、紫、白の七色。
私は、シズを初めからは敵に回さないキャラクターだ。
けれども、私はシズの依存する人間の一人。ましてや双子の妹。
シズの婚約者と私の間をフラフラしているようでは、シズに敵とみなされ木っ端微塵にされてしまうのだ。
とは言え、シズに媚び売ってデロデロに甘やかしてもいけない。
最終的には、ホモエンド『黒の貴公子』にたどり着いてしまうからだ。
「そう…時雨は、シズの事が好きだったのね。」と切なそうな顔で微笑む寿ちゃんもいいはいいけど心が痛くなるので、あまりお勧めはしない。
ならばと、静と寿の二人をデロデロに甘やかしていては、二人から同時に愛される監禁エンド『双子の愛』に突入する。
じゃあどーすりゃいいんだ
と頭を抱えるだろう。要するに、シズに嫌われぬよう好感度を上げつつ距離を保ち、寿をデロデロに甘やかすのである。なんとも難しいことか。
シズとは、仲のいい同級生。親友以上恋人以下になるのだ。さてはあの作者様、腐女子だったに違いない。
言うのは簡単だけど、エンドに辿り着くのは難しい。なにせ極彩色は運ゲーでもあるから、攻略対象者がランダムで場所に配置されているのだ。しかも、約束をしても自分でそこに行かないといけない。
他のゲームでよくある「今日は、〇〇と約束をしていたんだった。」と言う言葉から始まって約束の場所に自動で行くなんてお優しいことはないのだ。
この極彩色史上初の全コンプを果たした実況者は涙して言った。
「今までプレイしてきたどのギャルゲーより難しかった。攻略するのに好感度上がりそうだな、なんて思っていた選択肢がバッドエンドへの道だと気付いた時、ゲームで現実を見せ付けられ、涙を流したよ。」
と。そして、それに共感したプレイヤー達が、彼の言葉に大きな賞賛を送った。
いやゲームに現実見せつけられるなよ。
「…コト?」
「ん?」
ぼーっとそんなことを思い出していると、いつの間にやら玄関に来ていた。確か、話し掛けてくるシズに相槌うぃ打ちながら歩いていた気がするけど、何故に玄関?
「またぼんやりしてたの?僕の婚約者が到着したんだよ。」
え、もう?
早すぎて目を丸くしていると、シズは呆れながら玄関の扉を開けた。
一台のそりゃあもう高いだろうと思われる白い車が屋敷の前まで来ていた。
助手席から、執事らしき人が降りて、私達に腰を折った後、ゆっくりと扉を開けた。
手を差し出す執事。その手に伸ばされた手は、白くて美しい。
その先にいたのはーー…。
誰だ。