ニッコリ笑って人を斬る。8
ゲームの弊害が出た。
ゲームの世界なら、タイミング通りにボタンを押せば成功だけど……。
現実はそうはいかない。
身体能力の低さ……。
力のなさ……。
今更、後悔しても……。
死ぬ……。
いろいろなことが一瞬のうちに頭をよぎる。
これが走馬灯なのか?
「何ごちゃごちゃ言ってるんでぇ! 死ねや!」
今川が引き金を引こうとした、その刹那。
「ぬおぉぉぉぉぉぉー!」
みっちゃんが背後から、両手を頭の上で組んでジャンプ一番、その組んだ拳を今川の後頭部に叩き落とす!
ゴキッ! と鈍い音。
そして、今川はばたっと倒れる。
「ハアッ、ハアッ」
みっちゃんは少し興奮気味だ。
みっちゃんが直接人を殺すことは、あまりない。
「みっちゃん。キャリーケースに入れなきゃ」
「あっ、ああ」
死後硬直する前にケースに詰めなくちゃ。
体をうまい具合に曲げ、ケースに詰める。
ボクたちは何事もなかったかのように、少し離れて歩く。
キャリーケースはさすがに重いのか、キャスターが削れるような音がした。
ボクが電話で掃除屋を呼び、みっちゃんが待ち合わせをしていた劇場通り沿いの、とある信号の近くで待っていると……。
大手宅配便の二トントラックが、みっちゃんの目の前で止まった。
二人の男が降りてくる。
「荷物、引き受けに来ました」
業者が言う。
「いや、俺は頼んでいない」
みっちゃんが否定する。
「俺たち、掃除屋」
それを聞いたみっちゃんは、ようやく納得し、
「お願いします」
と一言。
「確実に死んでいるな?」
と聞かれ、
「多分…。」
と、みっちゃんが答える。
任務完了。
「ぷぷっ。だけど撲殺って、どんだけ怪力なの?」
自分がヤバくて情けなかったことを隠したいボクは、みっちゃんを小ばかにしてみる。
「火事場の馬鹿力ってやつかな」
みっちゃんが真面目に答える。
みっちゃんは、ボクがそんなみじめな気持ちだって知っているから、そこはあえて触れないでくれる。
「あーあ、ラーメン食べたいな」
「こんな時にか?」
「食べたい!」
「新宿に戻ってからにしようぜ」
「食べたい! 今すぐ、た・べ・た・い!」
歩いていると、ちょうど目の前にラーメン屋があった。
○○ちゃんラーメン。
いわゆる、ちゃん系ラーメンの店だ。
券売機にお金を入れて、普通のラーメンを押そうとすると、みっちゃんが隣のワカメラーメンを押す。
「えっ?」
「おまえ、ここのところ野菜を全然食べてないだろ。せめてワカメくらい食え」
「みっちゃん。あんた、ボクのおかん?」
少しうざいけど、ボクのことを考えてくれている。
カウンターでラーメンを待つ間。
「ねえ、みっちゃんも引退したら、みっちゃんラーメンでも始めたら?」
「なんか、もうありそうな名前だな。でも、それも悪くないか」
「ボクも手伝うよ」
「起きれるのか?」
「夜だけね」
笑いながら言った。
ワカメラーメンが、それぞれボクとみっちゃんの前に置かれる。
ネギにメンマにチャーシュー。そして、大量のワカメ。
一口、スープをすする。
飽きのこないシンプルなスープ。
おいしい。
スープまで飲み干し、一気に食べてしまった。
横を見ると、みっちゃんがスープを残している。
「みっちゃん。スープ残すの?」
「ああ。このところ血圧が高くてな。医者にラーメンのスープは飲むなって言われてるんだ」
「ププッ。みっちゃんて、本当にお・じ・さ・んだね」
「ほっとけ」
いつものやり取り。
今日の失敗のことは、明日考えよう。
「あっ、もうこんな時間」
ボクはみっちゃんと、副都心線の最終電車に駆け込んだ。
いつもありがとうございます。感想いただけたら幸いです。




