フレンド14
高田馬場は、新宿区の北西部に位置する学生街だ。JR山手線と西武新宿線、東京メトロ東西線が乗り入れ、駅の周辺には大学や専門学校、予備校が集まっている。
早稲田大学へ向かう学生も多く、駅前の早稲田通りにはラーメン店や定食屋、居酒屋、カラオケ店などが軒を連ねている。昼間は学生や会社員でにぎわい、夕方から夜にかけては飲食店の明かりが街を彩る。
しかし、大通りから一本裏へ入ると、古い雑居ビルや小さなアパートが並ぶ路地もある。人通りの多い駅前とは違い、夜になると人影がまばらになる場所も少なくない。
若者たちの活気に満ちた街。
そのにぎわいのすぐそばに、表通りからは見えない別の顔が潜んでいる。
吉田はこの街で、若い学生たちに覚醒剤や大麻などの違法薬物を売りまくっている。
日に数十万円、多いときには数百万円。かなりの金額だ。
でも、吉田はやりすぎた。
本人が知っていたのかどうかは分からないけど、うちの組織の幹部の家族まで薬漬けにしたらしい。
それに怒った顔役たちが、殺しの依頼をしてきたということだった。
高田馬場の駅を降り、正面の横断歩道を渡って神田川の方へ進む。
橋を渡り、少し下流へ向かうと、古い木造アパートが見えてきた。
目的の部屋には明かりが点いていない。
まだ戻っていないのだろう。
「まだ戻っていないみたいだね」
「ああ。でも、必ず家には戻るらしい」
「他に住んでいる人はいるのかな?」
「一階のいちばん端の部屋に、大家の高齢の女性が住んでいる。認知症で、こちらの話もあまり理解できないようだ。あとの部屋は全部借り切っている。たまに家出少女なんかを泊まらせているみたいだ」
「じゃあ、ほぼいないと思っていいんだね」
ボクらは電柱と壁の影から、吉田が帰ってくるのを待っていた。
吉田浩一、37歳。
小児科クリニックの院長の息子として生まれたが、生来、気性が荒く陰険な性格だった。兄と共に不良グループ「東京鬼門極悪党」に所属し、素行の悪さで周囲に知られていた。
やがて息子たちの問題行動がクリニックの評判にも影響し、家業は閉院に追い込まれた。その後、東京鬼門極悪党は組織ごとシルバーセージの傘下に入り、浩一も裏社会に深く関わるようになった。
現在は高田馬場で学生相手に覚醒剤を売りさばき、組織の資金源の一端を担っている。
「なかなか戻ってこないね」
「23時30分か。もう少し待とう」
待ちきれないボクに、みっちゃんが冷静に答える。
24時を少し回った頃だった。
一人の男が、少し千鳥足で戻ってきた。
どうやら、かなり酒が入っているみたいだ。
男は二階までの階段をふらつきながら上っていき、いちばん奥の部屋に入った。
電気が点き、そして早々に消えた。
「よし、行こう」
ボクはみっちゃんに言った。
途中、蛍光管が切れて薄暗くなった階段を静かに上り、ドアの前に立つ。
ボクは得意の鍵開けをする。
ドアノブについている古くて簡単な鍵だったので、すんなりと開いてしまった。少し物足りなさを感じるほどだった。
部屋の間取りは2DK。台所の奥には、左右に部屋がある。
ボクは右、みっちゃんは左のドアノブを同時に回した。
ビンゴ。ボクの方の部屋が寝室だった。
吉田はいびきをかくわけでもなく、静かな寝息を立てていた。
ボクは音を立てずにベッドまで近づき、首にナイフを当てようとする。
しかし、その瞬間、吉田は突然目を見開いた。
しまった!
声を上げられたら困る。
ボクはとっさに左手で口を押さえたが、吉田の抵抗は激しかった。
すぐにみっちゃんが加勢に来て、吉田の両手を押さえる。
吉田は足をばたつかせていたけど、そんなことはお構いなしだった。
ボクは一気に首を掻き切った。
血が吹き出し、ボクは大量の返り血を浴びた。
吉田が絶命するまで、そんなに時間はかからなかった。
以前の失敗から、絶命を確認する習慣は身についていた。
ボクは吉田の様子を確かめ、確実に死んでいることを確認した。
そして、痕跡を残さないように後始末をした。
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