子どもを売る悪い奴。22
マリアは後ろへ飛び退いたと思うと、スカートの中からピストルを取り出した。
ワルサーPPK。
「遊びは終わりよ」
マリアは余裕そうな顔をしている。
生死のやり取り……。
なのに、ボクは自然に口角が上がっていた。
「なによ、こんな時に笑って! 気持ち悪い!」
これが……ゾーンに入るってことだろうか?
相手の動きが、手に取るように見える。
引き金を引いた瞬間、左へ飛ぶ。
身体を翻して、今度は右へ。
パン! パン! パン!
マリアが連続して撃ってくる。
でも、どこに弾が来るのか分かる。
ボクは銃弾をかいくぐり、一気にマリアの懐へ飛び込んだ。
そして……。
ボクはマリアの下あごからナイフを突き刺した。
口からあふれた血が、ボクの頭に垂れてくる。
「バイバイ」
ボクは心臓にナイフを突き立てた。
マリアの身体から力が抜ける。
そこへ、みっちゃんが戻ってきた。
「大丈夫か?」
「うん」
「こっちも全員始末した。カメラの映像もすべて消去した」
「じゃあ、帰ろうか」
ボクたちは急いでトラックに乗り込んだ。
「子どもたちはどうするの?」
ボクが聞くと、みっちゃんが答えた。
「警察にたれ込んでおいた」
「えっ! 大丈夫なの?」
「ああ。ママには内緒だ。銃撃戦が通報されたことにした」
「安心した。でも……早く逃げなきゃ、ねっ!」
「ああ」
ボクらは休業中の看板をそのままにして、急いで産廃施設を後にした。
二トントラックは、すぐに廃車置き場へ持っていき、そのままスクラップにしてもらった。
ボクらは車を乗り換え、アジトに戻る。
着くと、すぐにママへ報告に向かった。
「警察に通報されたのは誤算だけど、上手くやってくれたようね。まあ、及第点ね」
「じゃあ、もういいね」
「次の仕事まで、ゆっくり休みなさい」
珍しくママが「休め」と言った。
ボクらはすぐに病院へ向かった。
「ヤブ医者! どうなの?」
「打つ手はすべて打った。今夜がヤマだ。ついててやれ」
車の中で三十分ほど仮眠していたボクは、SuSuのそばについていた。
みっちゃんは少しだけ仮眠をとる。
午後九時。
みっちゃんが目を覚ましたようで、ボクのそばへやって来た。
「どうだ?」
「ずっと眠っている」
「どうしよう……このまま起きなかったら……」
不安で、不安でたまらない。
「信じて待つしかないだろう」
「そうだね……」
病室に、点滴の滴る音だけが響いている。
しばらくして、点滴が空になった。
ボクはヤブ医者を呼んだ。
「点滴がなくなったよ」
「新しいのに付け替えよう」
ヤブ医者はそう言うと、新しい点滴を用意した。
そして、その点滴に何やら注射器で薬を加える。
「これで大丈夫だ」
そう言い残すと、ヤブ医者はまた自室へ戻り、仮眠を始めた。
それから三十分ほど経った時だった。
「ゴホッ……ゴホゴホッ……カハッ!」
Su Suが突然、激しく咳き込んだ。
「Su Su!」
ボクが駆け寄る。
次の瞬間……。
「カハッ!」
Su Suの口から血があふれた。
「ヤブ医者!」
ボクは慌てて医者を呼んだ。
「うぉっ! 心停止だ! 除細動器を持ってこい!」
助手はもう帰っている。
ボクは急いで除細動器を持ってきた。
「チャージ100! 離れて!」
バシッ!
Su Suの身体が大きく跳ねる。
……動かない。
「チャージ200! 離れて!」
バシッ!
それでも、心臓は動かない。
「駄目だ……」
「人工呼吸!」
ヤブ医者が処置を続ける。
心臓マッサージ。
人工呼吸。
何度繰り返しても、Su Suは目を覚まさない。
三十分近く経った。
ヤブ医者の動きが止まる。
「もう……」
「まだだ!」
ボクはヤブ医者と入れ替わる。
そして、自分で心臓マッサージを始めた。
一度。
二度。
三度。
何度も何度も押し続ける。
「Su Su! 起きて!」
それでも反応はない。
時間だけが過ぎていく。
一時間近く経った。
「まこと。まこと!」
みっちゃんが後ろからボクを押さえつけた。
「止めないで!」
ボクは必死にもがく。
「止めないで、止めないでーっ!」
「まこと!」
「この子は……この子たちは死んじゃダメなんだよ!」
なおもSu Suの胸を押し続けようとする。
その時……。
バシッ!
みっちゃんがボクの頬をぶった。
「……」
「まこと……もういい」
ボクは我に返った。
「わぁぁぁぁぁー!」
涙があふれた。
もう、止まらなかった。
Su Suは……死んだ。
遺体は、ヤブ医者の知り合いの葬儀屋が、内緒で火葬してくれることになった。
ボクはみっちゃんに背負われ、アジトへ向かった。
アジトに戻ったボクは、そのまま部屋に閉じこもった。
誰とも話したくなかった。
誰にも会いたくなかった。
ただ、Su Suのことだけを考えていた。
その頃。
ボクが帰ったクリニックに、一本の電話がかかってきた。
「よくやってくれたわ。やっぱり貴方は名医ね」
電話の向こうから、ママの声がする。
「こんなこと、まことに知られたら……俺が殺されるな」
「大丈夫よ。貴方とアタシだけの秘密だから」
「どうして……こんなことをしたんだ?」
ヤブ医者の声が低くなる。
「あの子は、アタシの芸術作品」
ママは楽しそうに笑った。
「壊れた分だけ強くなるの。壊れて、壊れて、壊れて……そして、本当の殺し屋になるのよ」
「アンタ……本当に怖い人だ」
「フフフ……」
電話の向こうで、ママが笑った。
第2話が完結しました。実は作者的にはSu-Suは生きて仲間になる設定でしたが、まことのモデルになった女の子より、それはダメでしょうとの意見でSu-Suの登場はここまでとなりました。「まこと」の物語は結構実話が入っています。どこまでが実話か想像しながら読んでいただけても面白いかなと思います。これからも「まこと」をよろしくお願いいたします。
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