子どもを売る悪い奴。21
みっちゃんは、黒いガスマスクを二組取り出した。
顔全体を覆うタイプで、口元には円筒形の缶が付いている。
みっちゃんはすぐに装着する。
でも、ボクは手間取った。
こんなの付けたことないし……。
見かねたみっちゃんが手伝ってくれる。
なんとか装着を完了すると、みっちゃんはさらにリュックから円筒形の缶を取り出した。
上にはピンが付いている。
みっちゃんはピンを引き抜くと、部屋に向かって投げつけた。
ちょうどドアが開いている。
缶はドアの縁にぶつかると、うまい具合に部屋の中へ転がっていった。
次の瞬間!
白い煙が一気に噴き出した。
「ゴホッ! ゴホッ!」
咳き込む声や、苦しそうなうめき声が聞こえてくる。
今だ!
ボクらは部屋に突入した。
みっちゃんが右側の男に銃を向けて撃つ。
同時に、ボクは左側の男へナイフを投げた。
両方とも命中。
あと三人。
マリアが近くにあった椅子を窓に向かって投げつける。
バリーン!
窓ガラスが割れ、外から風が入り込んでくる。
室内に充満していた煙が、割れた窓から外へ吸い出されていく。
男たちはまだ激しく咳き込んでいる。
ボクは、その隙に運転手へ攻めかかった。
運転手がナイフを取り出す。
煙の中だというのに、相手はかろうじて応戦してくる。
この状況で動けるなんて……手練れだ。
今のうちに仕留めないと……。
ボクは相手の攻撃をかわし、背後へ回り込む。
そして、ナイフを相手の脇腹へ突き立てた。
よし、防弾ベストは着ていない。
男はその場に倒れ込んだ。
一方、みっちゃんは大島と対峙している。
大島はトカレフをやみくもに撃っていた。
パン! パン!
みっちゃんは物陰に身を隠しながら、少しずつ距離を詰めていく。
大島には、みっちゃんの姿が見えていない。
勝負は一瞬だった。
みっちゃんが物陰から身を出し、数発の銃弾を撃ち込む。
大島の身体が大きく揺れ、その場に崩れ落ちた。
残りはマリアだけ……と思った、その時。
下の階から男たちの声が聞こえてきた。
窓が割れたことで、異変に気づかれたんだろう。
「みっちゃん!」
ボクはとっさに叫んだ。
「分かった!」
みっちゃんはすぐに部屋の外へ向かった。
その頃には、催涙ガスの効果も少しずつ弱まってきていた。
マリアは机の後ろに手を伸ばす。
そして、隠してあった日本刀を抜いた。
スッ……。
構えた瞬間、空気が変わった。
隙がない。
この人……できる。
「やってくれたわね。生かしておかない」
マリアが一歩踏み込む。
そして、自分の間合いに入った瞬間……上段から日本刀を振り下ろしてきた。
ブンッ!
ボクは紙一重で右へ飛び退いた。
床に刀が振り下ろされる。
危なかった……。
ボクのナイフじゃ、もっと近づかないと攻撃できない。
でも、近づけば日本刀の間合いに入ってしまう。
マリアは間髪入れずに刀を横へ薙いだ。
ボクは後ろへ下がる。
さらに一歩。
また一歩。
近づけない。
「くそっ!」
「どうしたの? 防戦一方ね」
もっと早く動かなくっちゃ。
ボクは速度を上げる。
だが、マリアもそれに合わせて動いてくる。
速い。
いや……。
もしかして、相手は遊んでいるのか?
マリアの動きには、それほどの余裕すら感じられた。
シュッ!
日本刀の切っ先がレザースーツをかすめる。
さらに一閃。
ビリッ!
胸元の革が切り裂かれた。
このままじゃ殺される。
ボクは大きく後ろへ飛び退き、一旦距離を取った。
「諦めたのかしら?」
「口数が多いね。さては余裕が無いんだね」
ボクは強がってみせる。
挑発したと思ったのか、マリアの表情が変わった。
逆上した。
今だ!
ボクは腰から投げナイフを抜き、マリアへ向かって投げつける。
マリアが反射的に身体を横へずらす。
その一瞬。
ボクは一気に間合いを詰めた。
懐に飛び込む。
そして、もう一本のアルマーのシーアを抜いた。
二刀流。
ゼロ距離。
こっちの方が有利だ。
マリアが日本刀を振り下ろす。
ボクは左手のシーアを刀に当て、その刃を滑らせるようにして軌道を外へ流した。
日本刀がボクの身体を外れていく。
今度はこちらの番だ。
ボクは二本のシーアを使い、近距離からマリアの身体を次々と切りつけていく。
シュッ!
シュッ!
だが、致命傷には至らない。
やっぱり刀が邪魔だ。
ボクはマリアの左手へ狙いを変える。
そして、指を切りつけた。
「くそっ!」
マリアの手から日本刀が落ちる。
カラン……。
これで終わりだ。
ボクが止めを刺そうと踏み込んだ、その瞬間。
マリアは後ろへ飛び退いた。
そして、スカートの中へ手を入れる。
何かを取り出した。
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