子どもを売る悪い奴。19
朝八時、重機の音で目が覚める。
人知れず隠れることのできるスペースのおかげで、敵地にいる割にはよく眠れた。
処理場の入り口には、三台のトラックが待っている。
八時半、処理場が稼働を開始する。
次々にトラックが入ってくる。
これだけ儲かっていそうなら、人身売買なんてしなくてもいいんじゃないのかな。
そんなことを思いながら眺めていた。
昼近くになると、車の数が極端に少なくなった。
昼休みだからかな。
トラックが一台もなくなったころ、一台の白いベンツが入ってきた。
白いベンツが入ると、入り口にチェーンが張られた。
表向きは昼休みらしい。
ベンツが正面玄関に停まると、助手席から目つきの鋭い一人の男が降り、後部座席のドアを開ける。
後部座席からは、一人の女が降りてきた。
この場には似つかわしくない赤いワンピースを着て、同じく赤いハイヒールを履いている。
首元にはネックレス。
両耳には大きなイヤリング。
薄いサングラス越しに素顔が見える。
マリアだ。
間違いない。
ボクは、みっちゃんに連絡する。
みっちゃんは、
「わかった」
と答えると、車を動かした。
いつもの車とは違う。
二トントラックだ。
荷台には、潰したアルミ缶を満載している。
みっちゃんは取付道路の入り口で、工事中や本日休業の看板を下ろして設置する。
取付道路から処理場の入り口までは、五十メートル以上離れている。
注意して見ていなければ、何をしているのかなんて分からない。
上下グレーの作業服に、ヘルメット、安全靴姿のみっちゃんは、看板の設置を終えるとトラックに乗り込み、入り口に車を停めた。
傍目には、昼休み明け一番に廃材を運んできた業者の車に見える。
一方、ベンツから降りたマリアと二人のボディーガード風の男は、出迎えに来た大島とともに建物の中へ入っていく。
そして運転手がベンツを駐車場に停めると、急いでその後を追いかけた。
マリアたちはエレベーターで三階へ上がり、部屋に入る。
マリアの部屋は、ひと際豪華な造りになっていた。
入り口から一番奥には、高級な家具と机。
椅子も豪華だ。
その手前にはローテーブルがある。
それを挟むように、右には一人掛けのソファー
が二つ。
左には三人掛けのソファーが置いてある。
どちらも高級レザー製だ。
マリアは奥側の一人掛けのソファーにどっかりと座り、長い脚を組む。
「一人死んだですって?」
「す、すいません。船の連中が雑でして……」
「まあいいわ」
マリアは、そんなに怒ってはいない様子だった。
「それより知ってる? 柏ノ葉が死んだこと」
「そりゃ、本当ですか? どうして?」
大島は驚いた様子だった。
「表向きは、次男と罪を悔いて無理心中」
「そんな。数日前に会った時は、そんなそぶりは一ミリもありませんでしたぜ」
どうやら、大島が子どもをクライアントに渡す役割を担っているようだ。
「そうね。多分、殺し。でも、証拠はないし、どうして殺されたのかも分からない」
「奴は事業でも恨まれてましたからね」
柏ノ葉は、例えば友人の牧場で名物だった生キャラメルのレシピを、従業員を引き抜いて自分のところで作るなど、恨みを買うようなことをしていた。
強引な商売も多く、敵が多かった。
「でも、用心に越したことはないわ。気を引き締めなさい」
「承知しました」
大島は返事をすると、手下に指示を出した。
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