子どもを売る悪い奴。16
「このウイルスには、治療法がない」
「なんだって⁉」
「後は本人の体力次第だ……。待つしかない」
ヤブ医者が、力なくそう言った。
このウイルスは、ミャンマー南部で確認された新型ウイルス「MSV-27A」。
体力があるうちは、ほとんど害を及ぼさない。
だが、何らかの原因で免疫力が低下すると、体内で一気に増殖を始め、やがて臓器を次々と蝕んでいく。
症例は極めて少ない。
そんな、患者数の少ないウイルスに対して、製薬会社がワクチンや抗ウイルス薬を開発するとは思えない。
ボクはドカッと無言で椅子に座った。
絶望?
いや……。
あとは、Su Su次第だ。
ヤブ医者は手術室に戻っていく。
対症療法を続けるのだろう。
ボクは無力感でいっぱいだったけど……。
今は、何もできない。
そんな時、みっちゃんのスマホが鳴った。
「はい。はい。分かりました。すぐに取り掛かります」
みっちゃんはそう返事をすると、
「まこと……こんな時に何だが、ママからの指令だ」
切り替えなきゃ。
「うん」
ボクは頷いた。
「ターゲットは、足立区と埼玉県八潮市の境目。産廃処理場の敷地内にいる」
「どうして、そんなところに?」
「本来なら港の近くにアジトを設けるんだろうが、もう既成組織なんかが縄張りにしていて、入る余地がなかったみたいだ」
「だから足立区?」
「ああ。産廃処理施設なら、トラックが頻繁に出入りしても目立たんからな」
「そう。じゃあ、早く終わらせよう」
ボクとみっちゃんは、すぐに準備にかかった。
アジトから銃やらなんやらを車に積み込む。
夕方、まだ明るいうちに出発した。
ボクたちの車は、新宿三丁目から明治通りを北上する。
池袋方面を抜け、王子、田端方面へ。
そして大関横丁交差点を越えると、日光街道に入った。
さらにボクたちは、日光街道を北上していく。
北千住の近くまでは、都会という雰囲気が強い。
でも、荒川を渡ると、少しずつ景色が変わってくる。
何となく、都会と田舎の境目に来たような、不思議な感覚になっていく。
川の向こうには、さっきまでのような高い建物が少なくなり、空が広く感じられた。
新宿から、それほど離れたわけではない。
それなのに、荒川という一本の大きな川が、都会と田舎を分けているように感じられた。
環状七号線を越えると、その変化はさらに顕著になる。
住宅地の間に畑や空き地が見え、道路もどこかのんびりしている。
ボクは車窓から広がる景色を眺めながら、
東京にも、こんな場所があるんだ……。
と思った。
つくばエクスプレスの六町駅近くにあるファーストフード店。
ドライブスルーでハンバーガーを注文する。
「こんな時でも、おなか空くんだね」
「そうだな」
昨日から何も食べていなかったボクたちは、ハンバーガーとポテトを頬張った。
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