子どもを売る悪い奴。15
「髭じぃ! 薬、早く、早く!」
ボクは白髭の店主をせかした。
「年寄りをせかすな。ヤブ医者から聞いとるわい。ほら、もってけ」
紙袋には、輸液パックがいっぱい入っている。
紙袋は重さで破けないように、二重になっていた。
「ありがと!」
ボクは受け取ると、すぐにクリニックへと折り返した。
中野の街から東中野駅まで走る。
この位置からなら、中野駅でJRに乗って都営大江戸線に乗り換えるより、東中野駅から大江戸線に乗ったほうが早い。
息を切らせて駅に着く。
だが、大江戸線のホームは深い。
改札を抜け、階段を飛び降りるように駆け下り、地下鉄の電車に飛び乗った。
同時にドアが閉まる。
車内放送で、飛び込み乗車は控えるように注意される。
そんなことを気にしている余裕なんてない。
東新宿までの間に息を整え、急いでクリニックに戻った。
ちょうど、みっちゃんもドレーンチューブや不織布などを持ってきたところだった。
「持ってきたよ! 容体は?」
ボクはヤブ医者に聞く。
「熱が下がらん」
どういうこと?
「抗菌薬が、あまり効いていないようだ」
「どうして⁉」
ボクは詰め寄る。
「原因が分からないんだ」
「どうするのさ!」
ボクは食い下がる。
「血液と尿の検査結果が、まだ出ない。とにかく結果が出る明日まで、対症療法するしかない」
「そんな……」
ボクは肩を落とした。
「院長、酸素飽和度が下がりました!」
助手が叫ぶ。
「酸素入れろ!」
ヤブ医者が指示を出す。
「もう、お前らができることはない。待合室で待ってろ!」
「でも……」
「まこと……」
ボクはホースにつながれたSu Suを見つめながらも、みっちゃんに手を引かれて小さな手術室を出た。
「まこと、ヤブ医者と言っても、あいつは元々、三次救急病院の救命救急部門の責任者だったんだ。訳があって病院を追われたが、腕は確かだ。今は任せるしかない」
みっちゃんによると、ヤブ医者は元々、一次救急や二次救急の病院では対応できない、つまり生命にかかわる重症患者を受け入れる三次救急病院の医者だったらしい。
しかもER、Emergency Roomで救急患者を専門に治療していた。
敗血症や重症外傷、心肺停止などにも豊富な経験がある。
だけど、患者を助けるために、日本では許されていない治療を行い、病院を追われたらしい。
「分かった……」
何もできないボクは、待合室で座って待つしかなかった。
ボクは、こんなに人に生きてほしいと思ったことはない。
神様がいるかどうかは分からない。
でも……いるなら、助けて。
そう願った。
* * *
夜が明けて、しばらく経った。
ボクとみっちゃんは、一睡もしなかった。
午前九時を過ぎたころ、臨床検査センターから検査結果が届いた。
「どうなの?」
ヤブ医者は、無言で厳しい顔をしていた。
「ねえ、どうなのさ!」
ボクは、はっきりしないヤブ医者に、少し怒り気味に聞く。
「これは……抗菌薬が効かないわけだ」
「なんで!」
だんだんと怒りが強くなる。
「原因は、一般的な原因菌ではなく……ウイルスだ」
「ウイルス?」
「ああ。抗菌薬では効かない。ウイルスの増殖を抑えるには、特別な治療が必要だが……」
「じゃあ、早く治療しないと!」
「俺だって治療したい。だが、このウイルスには……」
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