ニッコリ笑って人を斬る。40
今川は冷静そうにしていた。
でも、どうやら逆上しやすい性格のようだ。
頬を切られたことで、明らかに冷静さを失っている。
カランビットナイフの軌道が、少し乱れる。
けれど……。
逆に動きが読みにくい。
「くっ!」
ビリビリッ。
カランビットが、ボクのレザースーツの胸元を切り裂いた。
胸がはだける。
「おっ……女?」
「だから、なに?」
今川の動きが、ほんの一瞬だけ止まった。
その隙を、ボクは見逃さなかった。
ボクは二本目のシーアを取り出す。
右手のシーアを順手に持つ。
左手のシーアは逆手。
二本のナイフを構える。
左手で受け、右手で攻撃。
右手で受け、左手で攻撃。
左右から繰り出される攻撃の速度を、少しずつ上げていく。
今川は、よほどショックだったのか。
それとも、冷静さを失ったせいなのか。
さっきまでよりも、その動きが遅く見える。
ボクの手数が増えたのか?
いや……。
ただ単純に手数が増えただけじゃない。
どうやらボクは、限界を突破したようだ。
身体が勝手に動く。
考えるより先に、ナイフが動いている。
自然と口角が上がる。
ジワジワと、今川の傷が増えていく。
「このクソがー!」
今川に焦りが出ている。
それが、はっきりと分かる。
「ぬぅおおー!」
今川が雄たけびを上げ、上段から切りかかってくる。
ボクは右手で受け、攻撃をいなす。
そのまま身体を密着させ、右へ回りながら、今川の左の肋骨の間へブレードをねじ込んだ。
「ぐっ!」
痛みに耐えきれず、今川の手からカランビットが落ちる。
急所には、わずかに届かない。
即死を免れた今川は、よろめきながらも懐へ手を入れた。
そして……。
黒星拳銃を取り出す。
「無粋だ」
ボクは思わず呟いた。
どうせなら、潔く死ねばいいのに。
今川が銃を構える。
そして、引き金を引いた。
パン!
パン!
乾いた銃声が事務所に響き渡る。
ボクは机の裏へ飛び込んだ。
銃弾が、壁や家具に当たる。
黙っていても、そのうち力尽きるのに。
それでも銃を手にして戦おうとする。
すごい執念だ。
でも……。
興が覚めた。
怖いけど……。
楽しい時間は、もう終わり。
今川は両膝をついている。
それでも銃を手放そうとしない。
パン。
パン。
パン。
散発的に銃を撃ってくる。
ボクは机の裏から様子を窺った。
もう、長くはない。
ボクはシーアのブレードの尖端を持った。
「バイバイ」
そして、ナイフを投げる。
白い刃が空を切った。
そのまま、今川の喉へ吸い込まれる。
「……!」
今川の身体が大きく揺れる。
そして……。
ドサッ。
今川は、その場に倒れた。
静かになった事務所に、さっきまでの銃声が嘘のように消えていく。
そこへ、みっちゃんがやってきた。
「終わったか?」
「うん」
みっちゃんが今川に近づき、生死を確認する。」
脈は完全にない。
今川武志。
半年前に仕留め損ねたターゲット。
その因縁が、ようやく終わった。
みっちゃんは次に、床に落ちている武器を回収した。
「下の奴らは?」
「一人を除いて拘束した」
「あとは……掃除屋が回収してくれるだろう」
「そうだね。ボクらだけじゃ始末できないもんね」
「ああ。作戦終了の連絡をしてから帰ろう」
ボクたちは裏口から外に出た。
外は、何事もなかったかのように静かだった。
大火事の影響で、ここでの騒ぎには誰も気づいていない。
ボクとみっちゃんは、そのままその場を離れた。
そして……。
ボクらが帰った十分後。
四トントラックが、静かに現場へやって来ていた。




