ニッコリ笑って人を斬る。37
三人とイザコザのあった夜。
ボクとみっちゃんは、襲撃の準備をしていた。
今川の組織が、十数人の規模だということは分かっている。
相手の人数を考えれば、真正面から全員を相手にするのは得策ではない。
「みっちゃん、装備は?」
「俺はSIG Sauer P320の消音器バージョン。あとはサバイバルナイフだ」
「ボクは、このナイフがあれば十分」
手にしているのは、ニックが使っていたナイフだった。
それを握ると、ニックとの訓練の日々を思い出す。
もう、あの頃のボクじゃない。
「奴の仲間たちはどうする?」
みっちゃんが確認する。
「ターゲットは今川だけだよ」
「なんかこう……成長したな」
「えへへ」
褒められて、ちょっとうれしい。
以前のボクなら、邪魔する奴は全員殺せばいいと思っていた。
でも、今は違う。
殺すべき相手は、あくまでターゲット。
それ以外は、できるだけ相手にしない。
「じゃあ、単純だが、こんな作戦はどうだ?」
「聞かせて」
「俺が正面から乗り込んで、敵を引き付ける。まことは裏の階段から三階に侵入して、今川を殺る」
「悪くないね」
ボクは頷いた。
役割は決まった。
決行は、明日の夜。
そして、決行の夜。
ボクたちは、警察の目をくらます必要があると考えた。
いくら廃ビルとはいえ、銃声や騒ぎがあれば警察が来る。
そこで、廃ビルとは街を挟んで反対側にある、南側の廃工場に火を付けることにした。
廃工場にある石油タンクに、時限発火装置を仕掛ける。
これは、傭兵をしていたみっちゃんの仕事だった。
ボクにはよく分からない機械を、みっちゃんは手慣れた様子で扱っていた。
どうやら、送電線をネズミがかじって自然発火したように細工したようだ。
そして……。
午後十時二十三分。
廃工場が爆発した。
時間を丁度にしないのも、自然発火を装うため。
大きな爆発音が、夜の街に響き渡る。
炎が一気に燃え上がり、黒煙が空へと立ち上っていく。
当然、消防だけではない。
警察も、多くの人員を現場へ派遣した。
夜勤で署内にいた二十人ほどの警察官のほとんどが、廃工場へ向かった。
この隙だ。
ボクたちは、今川のいる廃ビルへ向かった。
みっちゃんは目出し帽をかぶり、黒の戦闘服に身を包んでいる。
一応、サバイバルナイフと銃も携行している。
だが、手にしているのは銃ではなかった。
トンファーだ。
廃ビルの入口まで来ると、みっちゃんは突然、中国語っぽい言葉をわめき始めた。
「ウォー! アイヤー!」
そして、トンファーを振り回しながら廃ビルへ突入する。
敵の注意を引き付けるためだ。
作戦通り…のはずだった。
しかし、ボクたちはまたしても油断していた。
相手は、こちらの動きを予想していた。
廃ビルの中には、すでに十人ほどの男たちが待ち構えていた。
全員、手に刃物を持っている。
その中には、一昨日、ボクが相手した男もいた。
「待ってたぜ、殺し屋」
男がニヤリと笑う。
「今川さんに言われたとおりだ」
「ちっ」
みっちゃんは舌打ちすると、無言で近くにいた男へ向かっていく。
「やれ!」
段の号令が響く。
一斉に男たちが襲いかかってきた。
みっちゃんは大きな身体を巧みに動かし、刃物を躱していく。
そして、手にしたトンファーを振る。
「アイヤー!」
上手くない中国語をわめきながら、次々と男たちを倒していく。
「しねやー!」
一人の男が刀を上段から振りかぶった。
みっちゃんが右へ躱す。
刀はそのままテーブルへ食い込み、動かなくなった。
「くそっ!」
男が刀を引き抜こうとする。
その瞬間……。
みっちゃんのトンファーが、男の脇腹へ叩き込まれた。
ドンッ。
鈍い音が響く。
「ぐっ……!」
男がその場に崩れ落ちた。
本来なら、素人に毛が生えたような相手だ。
それでも、みっちゃんは一人ずつ丁寧に倒していく。
無理に深追いはしない。
相手を倒したら、次へ移る。
みっちゃんの仕事は、ここにいる全員を倒すことではない。
できるだけ長く相手を引き付け、時間を稼ぐこと。
その間に、ボクが裏の階段から三階へ侵入する。
そして、今川を殺る。
それが今回の作戦だった。




