ニッコリ笑って人を斬る。34
不良の中でも、190センチ近い大男が先制のパンチを繰り出してきた。
ボクは右へ躱す。
次の男は、捕まえようと突進してくる。
今度は左へ。
「ちょこまかと!」
三人目。
リーダーらしい男が叫ぶと、ナイフを取り出した。
その瞬間、ボクの表情が変わった。
「それ、どういうことか分かるよね?」
「ナニっ?」
「覚悟はあるのかって聞いている」
自分でも分かる。
目つきが変わっていた。
「分かってるな」
みっちゃんが、後ろから抑制するように声をかける。
ボクは小さく頷いた。
「ごちゃごちゃと!」
三人組が一斉にボクを取り囲む。
まずは、右側にいる小柄な男。
パンチを躱し、すれ違いざまに踵の上、アキレス腱を蹴る。
「うわっ!」
バランスを崩したところへ、掌底を顎に当てる。
そのまま男の身体が倒れた。
倒れた顔面をブーツで踏みつける。
「ぎゃ!」
短い悲鳴。
男は、そのまま気を失った。
次は大男。
やみくもに突っ込んでくる。
「うおおお!」
タックルを仕掛けてきた。
ボクはさらに低い位置へ潜り込む。
全身の筋肉と関節を連動させるように身体を動かし、相手の膝に腕を絡めた。
崩す。
てこの原理を使って身体を回転させる。
「ぐあっ!」
大男の身体が一回転する。
その瞬間……。
ボキッ。
「ぎゃあああ!」
膝から嫌な音がした。
大男は地面を転げ回りながら、痛みにのたうち回っている。
「くっそー!」
残ったリーダーがナイフを振り回してくる。
素人のナイフ捌きなんて、今のボクには止まっているように見えた。
右。
左。
刃先を紙一重で躱す。
そして、刺してきた腕の肘を脇で抱え込む。
「なっ!」
そのまま体重をかける。
「ぐあっ!」
リーダーの右腕が、あらぬ方向へ曲がった。
ナイフが地面に落ちる。
ボクはそれを拾わず、男を見下ろした。
「まだやる?」
三人の不良たちは、揃って首を横に振った。
「そう」
ボクはそれ以上何も言わなかった。
「行こう、みっちゃん」
「……ああ」
みっちゃんは少し呆れたような顔をしていた。
ボクたちは気を取り直して、少し郊外にある貸し民家へ向かった。
今回の設定は、観光に来た中国人親子。
家は平屋だけど、八畳間が四つ。
二人で使うには、まあまあ広い。
「取りあえず、食料調達だな」
みっちゃんが言う。
「ボクも行く」
「珍しいな。買い物についてくるなんて」
いつもなら面倒くさいと思って、欲しいものだけ伝えて留守番している。
でも、今日は何となくついて行くことにした。
スーパーに入ると、みっちゃんの足が止まった。
「何を見ているの?」
「いや……地元山形でも、つや姫の値段は高いんだなと思って」
「そうなの?」
ボクは隣の商品を見る。
「でも、みっちゃんの地元のゆめぴりかは安いんじゃない?」
「ほんとだ。三千円を切っている」
みっちゃんが商品を手に取る。
「これにしよう」
「なんか得したね」
「ああ」
さっきまで不良三人を相手にしていたとは思えない。
そんなのんきな会話をしながら、ボクたちは食べ物の調達をした。




