ニッコリ笑って人を斬る。32
「まこと、ゴミ袋取ってくれ」
「これでいい?」
「いや、大きい方で」
「こっちか。はいよ」
「こっちのゴミ、集積所に持って行ってくれ」
「ほーい」
マンションの集積所は施錠されているが、二十四時間ゴミを出せるのがありがたい。
鍵を開け、扉を開くと……。
カサカサッ、カサカサッ。
「うわっ!」
黒くて鈍い光を放つ奴が、突然目の前に現れた。
ボクは反射的に、ゴミ袋と一緒に鍵まで投げ捨ててしまった。
ガシャン!
扉が再び閉まる。
「…………」
ボクは、その場に立ち尽くした。
マンションに入れなくなった。
仕方なくインターホンを鳴らす。
ピンポーン。
「まこと……どうしたんだ?」
「鍵、一緒にゴミステーションに投げ捨てちゃった」
事情を聞いたみっちゃんは、大笑いした。
「殺し屋がゴキブリに驚くなんて、はははっ!」
「心の準備ができてなかっただけだよー!」
結局、ゴミを片付けながら鍵を回収する羽目になった。
実に、四十五リットルサイズのゴミ袋二十一枚分。
「これ……引っ越しか?」
みっちゃんが呆れる。
確かに、そう思われても仕方がない量だった。
「次は風呂とトイレ掃除だ」
「えぇ……」
みっちゃんの指揮のもと、二人の三日間の休みは、ほぼ掃除に費やされた。
そして休暇明け。
ボクたちはSuiteKissⅡへ向かった。
「あら、アナタたち。ゆっくり休めた?」
ママの問いに、
「はっ、ははっ……」
「まあね……」
としか答えられなかった。
「あら、どうしたの?」
「なんでもないよ」
まさか、三日間ずっと掃除をしていたなんて言えない。
「じゃあ、そろそろ仕事の時間ね」
ママの表情が変わる。
「今川の居場所が分かったと聞いたが」
「そうね。今川は山形県の新庄市にいるわ」
「えっ、山形? 山形って秋田の下の?」
地理に詳しくないボクでも、それくらいは知っている。
大好きなおばあちゃんが生まれた秋田。
その下にあるところだ。
「そう。その中でも秋田にも近いところよ」
「でも、なんでそんなところに潜伏してるんだ?」
「シルバーセージの傘下にある、半グレ集団の小さな拠点があるのよ」
「シルバーセージのか?」
「そう。地元のヤクザが衰退して、そこに入り込んだのよ。飲み屋やデリヘルなんかの合法な仕事から、特殊詐欺までやっているわ。規模は小さいけどね」
「じゃあ、その新庄市で今川を倒せばいいんだね」
「そういうことよ」
ボクの胸が高鳴った。
今川。
あの時の嫌な思い出。
逃げたくなるほどの恐怖。
でも、今は違う。
ニックとの半年間の訓練。
そして、みっちゃんと離れていた六か月。
ボクは変わった。
今度こそ、あの時の恐怖を克服する。
そのチャンスが、やっと来た。
あの時の恐怖は、もうない。
やることは一つ。
後は……実行するのみ。




