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まことはニッコリ笑って人を斬る。  作者: ほりーⅯ


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ニッコリ笑って人を斬る。29

 しばらくして、ジェイドたちが合流した。

「アイリーン、大丈夫か?」

 ジェイドが駆け寄る。

「下手打ったよ。大丈夫。肩をかすっただけだ」

 アイリーンは肩を押さえながら笑った。

「まったく……無茶しやがって」

 ジェイドが呆れたように言う。

「船長を守ったんだから、文句はないでしょ?」

「まあな」

 ジェイドはアイリーンの傷を確認すると、ホッとした表情を浮かべた。

 みんなも安堵の顔をしている。

 それを見ながら、みっちゃんは立ち尽くしていた。

 目の前にいるアイリーン。

 さっきまで自分の目の前で撃たれ、倒れていた。

 もし、あと少し自分が動くのが遅かったら……。

「おい、ミッキー。何ボーっとしてるんだよ」

 ジェイドの声で、みっちゃんは我に返った。

「あっ……ああ」

 みっちゃんは慌てて水野のもとへ戻る。

「大丈夫ですか?」

「ああ……なんとか」

 再び水野に肩を貸す。

 その手は、もう震えていなかった。

 貨物船から脱出する。

 行きとは違い、三艘のRHIBが迎えに来ていた。

 人質と負傷者を迅速に移送するためだ。

 ロープを使って、まず負傷した水野を下ろす。

「ゆっくり!」

「はい!」

 みっちゃんが水野の身体を支えながらRHIBへ移乗させる。

 その後、他の人質も順番に下ろしていく。

 全員がそれぞれのRHIBへ分かれて乗り込む。

「全員乗ったな?」

 ジェイドが確認する。

「問題なし!」

「よし。出せ!」

 三艘のRHIBが一斉に動き出した。

 貨物船が、どんどん遠ざかっていく。

 みっちゃんは後ろを振り返った。

 暗闇の中に浮かぶ貨物船。

 ほんの数時間前までは、あの船の中で人質が捕らえられていた。

 そして、自分はあの船の中で初めて人を殺した。

 不思議だった。

 もっと吐き気がすると思っていた。

 もっと手が震えると思っていた。

 でも……。

 何もない。

 ただ、疲れていた。

「ミッキー」

 アイリーンが隣から声をかける。

「ん?」

「初めてだったんだろ?」

 みっちゃんは答えなかった。

 それだけでアイリーンには分かったらしい。

「……そうか」

 それ以上、何も聞かなかった。

 RHIBは一路、アブダビへ向かった。

 その十五分後…。

 遠くの海上で、貨物船が大きく炎上した。

 轟音が夜の海に響く。

 そして船体は、炎と黒煙に包まれた。

 みっちゃんはその光景を、黙って見つめていた。

 これが傭兵の仕事。

 助けた人間を連れて帰り、証拠を残さない。

 それだけだ。

 それからの三か月間。

 みっちゃんは、七件のミッションをこなした。

 船舶の護衛。

 人質の救出。

 武装勢力への対処。

 時には、夜の海を何時間もRHIBで走った。

 最初の頃は、銃を握るたびに緊張した。

 敵を撃つ瞬間には、ほんのわずかなためらいもあった。

 だが、それも次第に消えていった。

 撃つ。

 走る。

 隠れる。

 仲間を守る。

 そして、生きて帰る。

 それを繰り返すうちに、みっちゃんは戦場に慣れていった。

 気がつけば、すっかり「殺し屋」というより「傭兵」になっていた。

 そして…。

 最後の日。

 みっちゃんがGulf Shield Securityを離れる日がやってきた。

 ジェイドをはじめ、仲間たちが送別会を開いてくれた。

「ミッキー。いつでも戻ってきていいぞ」

 ジェイドがグラスを掲げる。

「ああ。ありがとう」

「ここはお前の帰るところだぜ」

 別の隊員が言う。

「国を追われたら、いつでも来いよ」

「そんなことにならないように祈ってるよ」

 みっちゃんが笑う。

 たった三か月。

 期間だけを考えれば短い。

 でも、その三か月で一緒に死線をくぐり抜けた。

 背中を預け、命を預けた。

 これが……戦友ってやつなのか。

 みっちゃんは、しみじみと思った。

「ミッキー」

 アイリーンが声をかける。

「アイリーン。世話になった」

「ああ。世話が焼けたぞ」

 アイリーンは笑った。

 そして、みっちゃんの前に立つ。

「ここはお前の家だ」

 アイリーンが拳をみっちゃんの胸に軽く当てる。

「アタシたちは家族だ」

 みっちゃんは、少しだけ照れくさそうに笑った。

「ああ……ありがとう」

 短い時間だった。

 でも、一生忘れない時間だった。

 こうして……。

 みっちゃんは日本へ向かった。

 戦場で得た経験と、仲間たちとの思い出を胸に。


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