ニッコリ笑って人を斬る。28
マットとキールは、次々と船室を確認していく。
その間に見張りを二人倒した以外、敵とは遭遇しない。
少し進むと、光の差し込んでいる部屋があった。
「食堂か?」
マットが中を覗き込む。
そこには、縛られた捕虜たちがいた。
九人。
どうやらフィリピン人の乗組員のようだ。
「どうする?」
「このまま行く。先にブリッジだ」
マットが小声で答える。
今は人質を助けることより、船を制圧することが優先だ。
二人は食堂をスルーし、音を立てずに上の階へ向かった。
目指すはブリッジ。
階段を上がり、マットが慎重にブリッジを覗き込む。
いた。
縛られている日本人らしき人物が三人。
その横では、フィリピン人らしき乗組員が四人、操船をさせられている。
そして、その周囲を五人の男が監視していた。
全員がAKMを携行している。
入口は一か所。
マットが無線で報告する。
「ブリッジ確認。敵五。人質七、その内日本人三」
「了解」
ジェイドがハンドサインを出す。
GOサイン。
カール、ジャック、ジェイドの順に突入する。
ダダダッ!
三丁のHK416が火を吹いた。
銃声はサプレッサーによって抑えられている。
突然の襲撃に、敵は反撃する間もなく次々と倒れていく。
「大丈夫ですか!」
みっちゃんが駆け寄り、拘束されている日本人のタイラップを切る。
「日本の方ですか?」
「ああ……もう大丈夫です」
日本人たちは、ようやく安堵の表情を浮かべた。
「アイリーン、ミッキー、ドクターと人質を保護!」
「了解!」
ジェイドはそう命令すると、残りのフィリピン人乗組員を助けるためにブリッジを出ていった。
「私は船長の藤島です」
一人の男性が名乗った。
「怪我はありませんか?」
「私は大丈夫です。ただ……航海士の水野が足を撃たれて……」
「ドクター・ヤン!」
みっちゃんが呼ぶ。
ドクター・ヤンが水野の足を確認する。
「弾は貫通している。ここでの処置は最低限にする。戻ってから治療する」
「そうですか……」
藤島船長の表情が少し緩んだ。
「よかった……」
アイリーンが周囲を見回す。
「敵の人数は何人なんだ?」
「私が確認した限りでは、十五人でした」
「十五人?」
アイリーンが眉をひそめる。
「じゃあ、最低まだ十人以上いるってことね」
そう言うと、アイリーンは無線でジェイドたちに連絡した。
一方、食堂。
そこには敵が七人いた。
彼らは、何事もなかったかのように食事をむさぼっている。
上の階で何が起きているのか、まだ気づいていない。
ジェイド、カール、ジャックの三人が食堂へ突入する。
マットとキールは周囲を警戒する。
戦闘は、すぐに終わった。
「食堂、制圧」
無線から報告が入る。
「了解。全員、移動する」
ジェイドから命令が出た。
アイリーンが藤島船長に声をかける。
「藤島さん、脱出します」
「分かりました」
アイリーンが先導する。
その後ろを、みっちゃんが続く。
負傷した水野航海士に肩を貸している。
「ゆっくりでいいですよ」
「すみません……」
「大丈夫です。必ず助けますから」
みっちゃんはそう言った。
その瞬間――。
部屋を出たところで、突然、三人の敵が現れた。
ダダダッ!ダダダダッ!
AKMが火を吹く。
「伏せろ!」
アイリーンが叫ぶ。
みっちゃんは反射的に身を伏せ、水野を床へ倒すようにして守った。
しかし、そこには身を隠せる遮蔽物がほとんどない。
「ぐっ!」
アイリーンが藤島船長をかばった。
銃弾が彼女の身体を捉える。
「アイリーン!」
みっちゃんの声が響く。
アイリーンがその場に倒れた。
「アイリーン!」
みっちゃんは水野を伏せさせると、HK416を構えた。
三人の敵がこちらへ近づいてくる。
その銃口が、倒れているアイリーンへ向けられる。
……止めを刺すつもりだ。
引き金を引かねば、アイリーンは死ぬ。
でも……。
人を殺さなければ……。
みっちゃんの指が、引き金の前で止まる。
頭の中に、これまでの訓練がよぎる。
何度も銃を構えた。
何度も狙った。
何度も撃つ練習をした。
でも、今までは全部、訓練だった。
目の前にいるのは標的じゃない。
人間だ。
その人間を、自分の手で殺す。
怖い。
怖いけど……。
「うぉーー!」
みっちゃんの中で、何かが吹っ切れた。
HK416の引き金を引く。
短い銃声が響いた。
三人の男たちが、その場に倒れた。
みっちゃんは息を切らしながら、倒れた敵を見つめる。
まだ終わっていない。
身体が勝手に動いた。
慎重に近づき、敵が動かないことを確認する。
そして、再び銃口を向けた。
今川の時のようなへまはしない。
止めだ。
頭にめがけ引き金を引く。
一人。
もう一人。
最後の一人。
みっちゃんは立ち上がった。
震えていた手は、いつの間にか止まっていた。
以前のみっちゃんとは違う。
仲間を守るためなら、引き金を引く。
その瞬間……。
殺し屋みっちゃんが誕生した。




