ニッコリ笑って人を斬る。23
そして、ボクの方は…。
「マコト。今日から実戦デス」
「えっ、本当?」
「ハイ。ターゲットを一人、追ってもらいマス」
「殺すの?」
「ソレは、マコトが判断しなさい」
ニックはそう言うと、一枚の写真を取り出し、ちゃぶ台の上に置いた。
そこには、三十代くらいの、やや痩せ型の男性が写っていた。
「モリ・ハヤト。通称ジョーカー。我々の密偵デス」
「密偵?」
「ハイ。ただし、少し問題がありマス」
ニックが写真を指で軽く叩く。
「この男、白銀の賢者のスパイでもありマス」
「……二重スパイ?」
「ソウです」
ジョーカーは、こちらの情報を探るために送り込まれた二重スパイだった。
ニックから与えられた仕事は、この男を調査すること。
そして、必要なら始末する。
「マコト。今回は、すぐに殺してはいけません」
「どうして?」
「相手が何者で、何をしているのか。それを知ることも仕事デス」
「……分かった」
これまでのボクなら、ターゲットを見つけたら、どうやって殺すかしか考えなかった。
でも今回は違う。
まず相手を知る。
それも訓練の一つだった。
それからボクは、ジョーカーの調査を始めた。
本来なら、こういう調査はみっちゃんのシゴトなんだけど……。
今回は自分でやるしかない。
調べていくうちに、ジョーカーがアジトとして使っている場所を突き止めた。
北区にある雑居ビル。
JR王子駅を降りてロータリーを越えると、公園がある。
そこからさらに横断歩道を渡ったところに、そのビルは建っていた。
一階には居酒屋。
その六階が、ジョーカーのアジトらしい。
ジョーカーは、ほとんどアジトに籠っているようだった。
なら、まずは外から様子を見る。
ボクは公園のベンチに座り、何気ない顔でビルを眺めていた。
「暑いな~」
夏の日差しが容赦なく照りつける。
しかも、今日のボクの服は黒系。
夕方が近くなっても、まだ暑い。
……これ、逆に目立っちゃうかな。
そんなことを考えていると、
「兄ちゃん、最近よく来るのう」
声をかけてきたのは、いつも公園で体操をしている老人だった。
「あ、そうですか?」
「毎日のように見かけてるので気になったんじゃ」
「仕事、首になっちゃって……」
ボクは少しうつむき、困ったような顔を作った。
「そりゃ大変じゃのう」
老人は本当に気の毒そうな顔をする。
「だから、ここで途方に暮れていたんです」
はぁ……。
わざと大きくため息をつく。
演技なら得意だ。
すると老人は、しばらく考えたあと、
「じゃあ、ワシの居酒屋でバイトでもせんかのう?」
「えっ?」
「若いんじゃから、働けばいい。ちょうど人手も足りんからのう」
まさか、こんな話になるとは思わなかった。
「……よろしくお願いします」
老人は、ビルの一階にある居酒屋の店主だった。
つまり……。
ジョーカーのアジトがあるビルに、自然に入れる。
思わぬところから、潜入するきっかけを手に入れた。
ボクは老人に笑顔を向けながら、心の中で小さくガッツポーズをした。




