ニッコリ笑って人を斬る。20
日暮里駅を降りて東側へ向かうと、それほど離れていないところに、お寺が二寺続いている。
そのうちの一寺が、正徳禅寺分院だ。
ここには、変わった住職がいる。
青眼禅師と呼ばれる、その名の通り、青い目をした西洋人の住職だ。
「来ましたか。アナタがマコトですね?」
作務衣を着た西洋人の男性が尋ねてきた。
「はい。ボクがまこと――」
「私はニック・オルティ。ここでは単に禅師と呼ばれています。ニックでも禅師でも、好きに呼んでください」
青眼禅師こと、ニック・オルティは1950年生まれの76歳。
ベトナム戦争では、ボクのナイフをデザインしたアル・マーの部下として一緒に戦場に出ていた。
アル・マーが退役した後も、アフガニスタンなどで従軍し、その後は民間軍事会社などを渡り歩いていたそうだ。
そんなニックが日本で禅の素晴らしさに触れ、やがて住職にまでなったという。
住職と言っても、一般的な僧侶のように法要などを行うわけではない。
このお寺では、海外から訪れる旅行客に禅の体験をしてもらい、それを収入にしている。
「タクサン荷物を持ってきていますが、修行と言って泊まり込む気ですか?」
「そのつもり……だけど」
「プッハッハッハ」
ニックは突然、笑い出した。
「そんな必要アリマセン」
「えっ?」
思わず聞き直した。
「殺し屋なんかに泊まり込まれたら、ワタシの仕事になりません」
ニックによると、そんなにダラダラと修行をしても効果はないらしい。
「毎日17時に来なさい。食事をした後、トレーニングを行い、終電までに帰ってもらいマス」
「どうして、ここで食事をするんですか?」
「マコト。ママから聞いてます。一人だとジャンクフードしか食べないとね」
ニックは、悪戯っぽくウインクした。
「ところで、傷が浅く仕損じたと聞いています。まずはナイフを見せてクダサイ」
唐突に言われた。
「これだけど」
ボクはニックに、アルマーのSEREを見せた。
「なるほど……」
ニックはナイフを手に取って、しばらく眺めていた。
そして、少し笑うと、
「これは最近作られた物ですね」
ニックによると、これはSERE 2020と呼ばれるモデルで、海外で作られたD2工具鋼という、比較的安価な鋼材が使われているとのことだった。
「これを見てください」
ニックが見せてくれたのは、SERE 2000。
日本製で、VG-10と呼ばれるコバルトを含む鋼材が使われている。
非常に切れ味がよく、刃こぼれもしにくいものだという。
ブレードには、SEKI JAPANの刻印があった。
「弘法筆を選ばず、ということわざがあります。弘法大師は、どんな筆でも良い文字を書くとの意味です」
ニックはSERE 2000を眺めながら続ける。
「でも、私は思うのです。弘法大師が良い道具を使えば、もっと良い文字が書けると思うのです」
ニックは一呼吸置いた。
「殺しも同じデス。より良い道具を使うと、より良い仕事ができるのです。良い道具を選びなさい」
坊さんにしては、ずいぶん物騒な教えだった。
でも、それがニックから受けた最初の教えだった。




