ニッコリ笑って人を斬る。18
「それより、みっちゃん先生こそ……」
「俺は……」
今度は、みっちゃん先生が自分のことを話し始めた。
みっちゃん先生にもいろいろなことが起きていた。
病気の父親。
マッチングアプリで出会った女性。
結婚を信じて大量の書類にサインしたこと。
そして、三億五千万円もの借金。
自己破産しても追ってくる闇金。
仕事も失い、食べるものさえなくなったこと。
新宿二丁目でゴミをあさっていたところを、あきなママに拾われたこと。
あきなママが、殺しも請け負う組織の支部長的な存在だったこと。
三億五千万円もの借金を肩代わりしてくれたこと。
その代償として、殺しの手助けをすることになったこと。
みっちゃん先生は悩んだ。
だが、残った肉親である兄にまで迷惑をかけるわけにはいかない。
そう考えて、組織に入ることを承諾したという。
「みっちゃん先生も……色々あったんだね」
「まあな」
みっちゃん先生は苦笑いした。
お互いに、昔とはまったく違う場所にいる。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
「みっちゃん先生なら……信用できる」
「え?」
「相棒になってよ」
みっちゃん先生は、一瞬驚いた顔をした。
そして、昔と変わらない優しい笑顔を見せた。
「もちろんだ」
「それでな……」
「それで?」
「先生ってのは、やめないか?」
「プッ!」
思わず吹き出してしまった。
「そんなこと? あらたまったから、もっと深刻なことかと思ったよ」
「笑うなよ」
「はいはい。じゃあ、みっちゃんだね」
「……」
「プッ……」
「だから笑うなって」
二人で笑った。
久しぶりだった。
あの頃のように、ただの先生と生徒として笑った。
でも、もうボクは生徒ではない。
みっちゃん先生も教師ではない。
今のボクたちは、同じ世界で生きる人間だった。
「じゃあ、みっちゃん」
「ああ」
こうして、ボクとみっちゃん先生……いや、みっちゃんは、一緒に働くことになった。
ボクたちは、あきなママたちを呼んだ。
「あら、そう決めたのね」
「ママは知っていたのか?」
みっちゃんが尋ねる。
「そりゃそうよ。身元を洗わないで組織に入れるわけないじゃない」
「……」
「もっとも、アナタたちが知り合いだと知ったのは最近のことだけどね」
「そうだったのか」
「まことは殺しはできるけど、その他は全くダメ」
「ちょっと、それどういう意味?」
「そのままの意味よ」
ママはニッコリ笑った。
「みっちゃん。アナタがまことの生活もシゴトもサポートしてあげて」
「わかりました」
「じゃあ、これ。マンションのカギ」
ママがテーブルの上に鍵を置いた。
「アンタたち、一緒に暮らしなさい」
「えっ?」
「えーええー!」
二人の声が、見事に重なった。
「ママ、さすがに年頃の娘と二人暮らしは……」
「つべこべ言わないの」
「でも……」
「はい、決定」
ママは、まるで反論を受け付けるつもりがない。
こうしてボクたちは、新宿三丁目の3LDKマンションに向かうことになった。
その頃。
SuiteKissⅡの事務所では、アリサさんがママに小声で話しかけていた。
「ママも悪い人ね」
「あら、何のことかしら?」
「二人が本当の事を知ったら……」
アリサさんが、意味ありげな笑みを浮かべる。
「あら、アリサちゃん」
ママも笑顔のままだった。
「長生きしたかったら、お口に気を付けることね」
「……はい」
そんな会話がSuiteKissⅡでされていたなんてことは、この時の二人はまだ知らなかった。




