ニッコリ笑って人を斬る。17
まこととみっちゃん~
ボクとみっちゃん先生の再会は、ふいにやってきた。
それは、ボクがあの男を殺してから、半年ほど経ったころだった。
二度目の仕事の打ち合わせで、ボクはSuiteKissⅡの事務所にいた。
「あら、まこと。次のシゴトよ」
あきなママが、いつもの調子で資料をテーブルの上に置いた。
「相手はレイプ魔だってね」
資料に目を落とした瞬間、口角が自然と上がった。
また、豚野郎を殺せる。
そう思うと、身体の奥から妙な高揚感が湧いてくる。
「まこと、あんた危なっかしいから、サポートを付けるわ」
「いいよ。めんどくさい」
「一人じゃ何もできないガキが、生意気なこと言うんじゃないの」
「殺しができればいいじゃん」
ママは呆れたようにため息をついた。
「アンタね。前回だって、ドアを壊すのに大きな音を立てて、危うく見つかるところだったじゃない」
「見てたの!」
「当たり前じゃない。初めての依頼を受ける人間に、お目付け役を付けないなんてありえないわ」
「…………」
急に面白くなくなった。
せっかく次の仕事ができると思ったのに。
「だいたいね。雑な殺しなら、その辺の人間を雇えばいいのよ。五万や十万で人を殺すやつらもいるわ」
「じゃあ、そいつらにやらせればいいじゃん」
「悟られないように殺す。それが私たちのシ・ゴ・トよっ!」
「……」
正直、めんどくさくなった。
「わかったよ。もう勝手にしてよ」
「よろしい。アリサ、彼を連れてきて」
「はい、ママ」
ママは部下のアリサさんに、誰かを呼びに行かせた。
ボクはソファーに座りながら、いったい誰が来るんだろうと思っていた。
しばらくして、事務所のドアが開いた。
「連れてきました」
「ご苦労さま」
アリサさんの後ろから、一人の男が入ってくる。
その顔を見た瞬間、ボクの心臓が大きく跳ねた。
見間違えるはずがない。
何年経っても忘れることのできない顔。
「みっ……ちゃん先生?」
思わず声が震えた。
「ま、まこと……なのか?」
みっちゃん先生も、目を見開いている。
しばらく、二人とも何も言えなかった。
懐かしい。
でも、それだけじゃない。
なぜ先生がここにいるの?
そんな疑問が、頭の中をぐるぐる回っていた。
「本当に運命のいたずらかしら?」
沈黙を破ったのは、あきなママだった。
「アンタたちに接点があったなんてね」
ママは、いたずらっぽく笑っている。
「シゴトの話はまた今度にして、とりあえずあなたたち二人で話し合いなさい」
「え?」
「じゃあ、ごゆっくり」
そう言うと、ママはアリサさんを連れて事務所を出ていった。
ドアが閉まる。
事務所に、二人だけが残された。
なんだか、少し気まずい。
「……まこと」
先に口を開いたのは、みっちゃん先生だった。
「学校をやめたと聞いて、心配していたんだ」
「うん……」
「お前の家にも行った。でも、急に働き始めたとだけ聞かされてな」
「……お母さんには、工場で働いてるって言ってる」
「そうか……」
みっちゃん先生は、しばらく黙っていた。
そして、意を決したように聞いてきた。
「どうして……殺し屋なんかに?」
ボクは、みっちゃん先生の顔を見た。
昔と変わらない。
真面目で、優しくて、困っている生徒を放っておけなかった先生。
だからこそ、隠したくなかった。
ボクは、あの男のことを話した。
演劇科のこと。
劇団に入るために呼び出されたこと。
そして、あの日、何があったのか。
みっちゃん先生は、何も言わずに聞いていた。
「そ、そんなことが……あったのか」
「うん」
「俺のせいだ……」
「え?」
「俺が、お前に演劇を勧めた。奨学金まで探して……。もし俺が余計なことをしなければ……」
「それは違う!」
思わず声が大きくなった。
みっちゃん先生が驚いて顔を上げる。
「ちがうよ!」
ボクは、ゆっくりと言葉を続けた。
「ボクが人を殺したのは、ボク自身の選択だよ」
「……」
「ボクはボク自身の選択で、殺し屋になった。だから……みっちゃん先生のせいじゃない」
みっちゃん先生は、しばらく黙っていた。
「……そうか」
「うん」
少しだけ空気が軽くなった。




