ニッコリ笑って人を斬る。16
後で知ったがまことが人を殺した約3か月後の事だった。
その日、大きな出来事が起きた。
病気で亡くなった母親に続き、父親まで重い病気に罹った。
余命は長くない。
病室で、父親が俺に言った。
「お前……結婚しないのか?」
「俺が?」
「そうだ。俺が生きているうちに、お前の嫁さんを見てみたい」
「無理だよ。俺、女性と話すのも苦手なの知ってるだろ」
「だからこそ、探してみろ」
「……」
「お前にも、家庭を持ってほしいんだ」
それが、父親の望みだった。
どうしたら女性と結婚できるのか分からない俺は、マッチングアプリを使うことにした。
一人目は、会話が続かなかった。
二人目も、うまくいかなかった。
そして三人目に会った女性は、美人ではなかった。
でも、話が上手い女性だった。
「みっちゃんって、真面目そうですね」
「そうですか?」
「はい。でも、話してみると意外と面白いですよ」
「……そうですか」
俺は、すっかり彼女の虜になった。
父に紹介すると、大喜びした。
「そうか! この人がお前の彼女か!」
「うん……」
「いい人じゃないか」
父親が嬉しそうに笑った。
俺は決めた。
父が生きているうちに、結婚しよう。
そこからは、あっという間だった。
婚姻届に、結婚式の費用、新居の不動産契約書。
たくさんの書類にサインをした。
はっきり言って、何枚書いたのか分からない。
「ここにもサインお願いね」
「ああ」
「こっちも」
「分かった」
そして、たくさんのサインをした次の日。
彼女は消えた。
「……あれ?」
電話をかけても出ない。
メッセージを送っても返事がない。
数日後のことだった。
知らない男たちが、俺のところへ押しかけてきた。
「おい、借金返せ」
「……借金?」
「とぼけるな。契約書に署名しただろ。」
「そんな……俺は何も……」
身に覚えのない借金だった。
婚姻届だけではなかった。
俺が書いた大量のサイン。
そのほとんどが、借金や契約に関するものだった。
連帯保証人だった親父の家も土地も、取られてしまった。
「すまない……」
父親は、自分を責め続けた。
「俺が……お前に結婚なんて言ったから……」
「親父のせいじゃない!」
だが、父親は心労から体調を崩し、死期が早まった。
俺には、残り三億五千万円の借金だけが残った。
自己破産した。
それでも、闇金は追いかけてきた。
仕事も失い、金もなくなった。
腹が減っても、食べるものすらない。
そしてある日。
金もなく、飢えていた俺は、新宿二丁目でゴミをあさっていた。
「……何か、食べられるものは……」
その時だった。
「ちょっと、アンタ」
顔を上げると、派手な格好をした人が立っていた。
「あきな…ママ」
女性が苦手な俺は時折ニューハーフバーに通っていた。
「こんなところで何してるのよ?」
「……腹が減って」
「はあ?」
あきなママは、俺をしばらく見つめた。
「アンタ、教師なんでしょ?」
「……もう、違います」
「そう。じゃあ、うちに来なさい」
「え?」
「死ぬほど腹が減ってるんでしょ?」
「……はい」
「あら、素直ね。ほら、立ちなさい」
こうして俺は、あきなママに拾われた。
それが、俺が殺し屋になる最初の一歩だった。




