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くのいちアイズ  作者: 阿久理ヒロミ


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崩壊・覚醒編 第四章 影の縁の里防衛戦 節二 合理と不合理

項一 侵攻


「侵攻している敵部隊の詳細は判っていますの」

「はっ!おそらくは四凶空烈の部隊との情報です」

「四凶が里に直接侵攻なんて、どうして‥」

「水鱗、焔爪と失ったのですから、いよいよ里を放っておけなくなった。そんなところですわーーそれで敵部隊の位置はどうですの?」

「敵部隊は岐阜城経由で出立、昨夜の時点で伊勢国から加太越を通過中との事です」

「加太越って、近江国からの帰り道だ」

「そうですわね。間も無く里に侵攻する頃ですわ。朱里、最速で参りますわよーー伝令さん、逸れても勘弁ですわ」


「よいか、進入路は全て柵で塞げ!女と子は試練場まで退避。急げ!」

仁景が守備隊と避難民へ次々と指示を出していく。

「仁景殿。敵の狙いは白蓮様だ。白蓮様の護衛をお願いできるか」

「敵は空烈の部隊だぞ。戦線には私が立つ、白蓮様の護衛は纏に頼みたい」

「仁景殿には避難と守備隊の指揮をとって貰わねば、皆んなが困ります。そして空列は魔眼使い。戦線には私が出た方が合理」

「ーーわかったーーだが絶対に無茶はするなよ」

「時間稼ぎに徹する。今頃は朱里と翡翠がこちらへ急行している筈だから」

ーーーーー。

「敵襲!敵襲!」

正午過ぎ。

物見櫓から警鐘が打ち鳴らされた。

「仁景殿。白蓮様を頼むーー私は大屋敷前のここで空烈を迎え撃つ」

里の入り口に向かい、敵部隊は左右、中央の三方向より侵攻してきた。

物見櫓からの合図に対して、仁景が指示を出す。

「守備隊中央は盾で守備を強化。弓兵は敵右翼に攻撃を集中しろ」

守備隊弓兵が矢の斉射を開始した。

「やはり多いな、敵はザッと五十といったところか。こちらの倍だ」

「左翼より敵侵入!」

仁景が鉄砲を持った三人を見た。

「鉄砲隊構えーー十分引きつけて狙え」

里の中に銃声が響き渡る。

「仁景!あそこに逃げ遅れの子供がいる!」

「何だと!」

右翼から侵入した敵の前、食堂の裏で怯えている三人の子供が見えた。

「ダメだ!仁景は動かないでくれーー私がいく」

纏が食堂へ向かい走り出す。

「そこは危ない!早くそこから逃げるんだ!」

子供達に向かい声を発するが、子供達は怯えて動かない。

侵攻した敵が、子供達を見つけ切り掛かる。

ここからだと苦無が届かない!ダメだ!間に合わない‥。

纏が子供達から目を背けかけた瞬間、敵が仰け反るようにして倒れていった。

「チビども、メソメソしてねぇで早く食堂の中に入れ!」

「銀次殿!」

食堂二階の窓で、銀次が弓を構えていた。

「チビどもは任せろ!纏は早く持ち場へ戻れ!」

「すまない!頼んだ!」

纏が大屋敷前に戻ると、守備隊を突破してきた敵に仁景が応戦していた。

敵背後に回り込んだ纏が、苦無と短刀で敵を倒していく。

水鱗、焔爪の部隊は忍びだったが、こいつら忍びではない。傭兵そのもの、これが空烈の部隊なのか‥。

敵が大屋敷の入り口を守る仁景に集中し、仁景が苦戦を続けている。

「このままでは!仁景ーー目を伏せろ!」

仁景の前に飛び出した纏が眼帯を外した。

「があぁぁ!」

敵が一斉に震え始める。

「すまん!纏ーーだが無茶はするなと言ったろう」

よろける纏を退かした仁景が、一気に敵を切り倒していった。

「ほう、お前が眼帯女か」

膝をつきながら眼帯を直す纏の前に、深編笠を被り、黒い虚無僧の格好で、白の狐面をした男が立っていた。

挿絵(By みてみん)

白の狐面‥こいつが空烈か‥。

立ち上がる纏の横を瞬時に通り過ぎた男が、仁景に切り掛かる。

「貴様!空烈!」

空烈の鎌を辛うじて打ち返した仁景が叫ぶ。

「ふん。だったらどうだと言うんだ」

手にした鎖鎌を振る空烈が、大屋敷と仁景を交互に見た。

「そうか、白蓮はこの中か」

「さぁ、どうだかな」

「惚けんなよ。お前の事も知ってるぞ、仁景。眼帯女と揃っているなら、白蓮もここに居るんだろうが」

仁景が刀を構え直していく。

「邪魔だ!退けよ」

空烈が深編笠を持ち上げた瞬間、銀色の眼が輝き、仁景の左胸から血飛沫が上がった。

「勘のいい奴だな。俺の鎌鼬を避けた奴は初めてだぜ」

「貴様!行かせん」

空烈の側面に回った纏が苦無を連投していく。

退いた空烈と仁景の間合いに纏が入り込む。

奴の武具は‥鎖鎌、苦無、短刀の三つ‥近接撹乱型か。

纏が距離を取り苦無を連投すると、空烈も苦無で応酬してきた。

俊敏な動きで空烈の苦無をかわした纏が、両手から六本の苦無を一気に放つ。

空烈は鎖鎌と短刀の両刀でそれを打ち払っていった。

「これで終わりか、つまらん。こんな奴らにやられるとは水鱗も焔爪も情けない」

「お前も大差はない!」

纏がさらに構える。

「ふん!」

纏を無視するように空烈は大屋敷の外廊下に飛び上がると、外廊下に面した障子を蹴り破り始めた。

「ほら、居るじゃねえかよ」

大広間、その部屋奥には白蓮が座っていた。

「白蓮様!」

大広間へ跳んだ纏が、白蓮を背にして空烈と対峙する。

「仁景殿、白蓮様を連れて奥へ」

纏が叫んだその時だった。

ヒュンヒュンヒュン。

ピョーピョーピョー。

あれは翡翠と、朱里の笛!間に合ったか‥。

「何の合図だか知らんがーーもういいだろ、諸共死ね」

空烈の放った苦無と、鎖魔に付いた剣先のような分銅が、同時に白蓮を狙う。

苦無を弾く纏の横を分銅がすり抜けていく。

「ぐっ!」

白蓮を庇うように立ち塞がった仁景の胸に、分銅の剣先が突き刺さる。

「仁景殿」

それでも仁景はなお、白蓮を庇いながら奥の間へ向かっていく。

「まったく楽しませてくれる奴らだな、だが、これで終わりだーー奥義、血粧散!」

撃たせん!非合理だがここを繋げば‥。

短刀を構えながら跳んだ纏が、仁景、白蓮の前に降り立ち、同時に空烈へ苦無を連投していく。

よし!かかった!右への体捌き、それがお前の癖だ!。

苦無を避けた空烈の間合いに纏が滑り込む。

纏の短刀が、確かに空烈の心臓を捉えたーーそう見えた。

ーーーーー。

「残念だったな、眼帯女」

返り血を浴びた空烈が笑みを浮かべ言う。

折れた剣先が床に落ち、空烈の鎌が纏の胸から背中を貫通していた。

鎌を引き抜かれた纏の胸から、鮮血が吹き出す。

「白蓮様!」

「纏!」

朱里と翡翠が駆けつけた時、両膝を落とした纏が、朱里と翡翠を見て僅かに微笑んだ。

開いた口から血が流れ落ちる。

「後は‥頼んだぞ‥」

纏の言葉に、茉莉の言葉が重なり合っていく。

静かに倒れ込む纏の胸に縫い付けられた、くのいちアイズの紋章が朱里の眼に映る。

音が消え、時が止まるようだった。

「ああああっ!」

叫び声と共に、朱里の瞳が赤く揺らぎ始める。

「朱里!こっちは任せて!」

翡翠が白蓮の護衛に入った。

「お前が赤目か、待っていたぞ。すぐにお前もこの女のもとに送ってやるから安心しろ」

空烈が笑う。

「奥義、血粧散」

空列の放った鎖鎌の分銅、苦無が朱里の頬を掠めていく。

音が遠のく、止まって見える‥。

朱里の感情が凪ぐ。

空烈の連続攻撃をかわした次の瞬間、朱里の斬撃が鎖鎌ごと空烈を切り裂いた。

朱里‥その眼と動きは‥覚醒していたのだな‥。

空列を斬撃した朱里を白蓮が見ていた。

馬鹿な‥。

空烈の被る深編笠が切れて空を舞い、血飛沫と共に空烈が倒れていく。

「空烈様!ーー空烈様がやられた!」

指揮官を失った途端、敵部隊の残党は里から逃げるように退散していった。

纏‥。

息絶えた纏を抱き起こすと、纏のくのいちアイズ紋章が血で赤黒く染まっていた。

また‥救えなかった‥。

纏を抱き締めた朱里の目から、大粒の涙が止まらずに零れ落ちていく。

「あの時‥私がここに残るべきだった‥」

朱里の横で、手を固く握り締める翡翠が立ち尽くす。

ーーーーー。

声を発する者は誰もいなかった。

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