表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くのいちアイズ  作者: 阿久理ヒロミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

立志編 第二章 龍隠との衝突 節一 伊賀国攻防の任

項一 結成


「選抜試練、見事であったな」

大広間で白蓮が三人に励ましの言葉を贈った。

「本日より其方らは個から組へと変わったーー前に置いてある装束は上忍の証となる隊服、一人一人に合わせて仕立てられた専用装束になっている」

隊服‥専用装束‥言われて見れば、黒っぽかった忍び装束に比べて臙脂色がかなり多いみたいな‥。

隣にいる茉莉の前に置かれた隊服を見ても、茉莉の識別色藍色が目立っている。

「今後はその隊服を着て、上忍として任に就てもらうーー上忍としての気構えはそこにいる仁景に聞くとよいーーそれと」

白蓮の表情が少しだけ和やかになったように見えた。

「其方らには本日より三日間暇を与える、麓の湯場で体を癒すのも良かろう」


「白蓮様が仏様のように見えたよ〜湯場〜湯場〜」

「緩み過ぎだ、茉莉」

「隊服ってどんなだろう‥早く着てみたい」

「そうだ、朱里の部屋で皆んなして着替えようよ」

三人は朱里の部屋へと向かっていった。


「すっごくかっこいいし、綺麗だし、困るなぁ僕もっと可愛くなっちゃうじゃん」

「ほっといていいぞ、朱里」

「ひどいな纏はーーお!朱里のもいいじゃん」

茉莉がはしゃぐ中、三人は隊服に着替えていった。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「僕は藍色生地で柄が蒼、纏は黒生地で柄が紫、朱里は生地が臙脂と黒の二色ーー柄や装飾品も三者三様なんて凝ってるなぁ」

「そうだな、これなら武具だけ隠せば町中でも問題ない」

「任務の時は、この腰布だけ外せば忍び装束とほぼ同じにもなる」

「朱里だけ上着が袖なしだ‥それで別に長羽織があるのかぁ」

「そうみたい、でも剣捌きにはこの方が動き易いかな」

「ともあれ、この隊服に恥じぬようにならなくてはな」

三人は頷いた。


翌日、三人は麓にある湯場で温泉に浸かっていた。

「薄々は分かっていたけどーー皆んな体、傷や痣だらけ‥花も恥じらう乙女三人組なのにねぇ」

「のぼせているのか」

「ぜ〜んぜんだよ〜ーーって、さすが二十歳、胸大きい!くのいち戦法に使えるんじゃない」

「ほぅ茉莉、下の川で流し雛にでもなるか」

「う!うわっ!許して!纏〜」

この二人も仲がいいな‥でも、纏って‥ここでも眼帯したままだ‥気になるけど、聞けないし‥茉莉なら知っているのかな‥でも教えてくれるまで待つべきだよね。

‥‥。

纏に目線を向ける朱里を、茉莉は横目で見ていた。

ーーーーー。

温泉を出て、宿で夕食を済ませ、布団の敷かれた部屋で三人は月を眺めていた。

「ねぇ、いつか忍びも要らない平和な世の中になったら、二人はどうするの?」

「突然だね〜僕はお嫁さんになって好きな旦那と子供と、ずっと一緒に暮らすんだ」

「茉莉らしいなーー私は陶工にでもなって山で静かに暮せればいい、朱里はどうなんだ」

「私は育った村に戻って道場を再建したい」

「うん、いいんじゃないの」

「そうだな」

「皆んな望みが叶うといいね」

月明かりに照らされた三人の横顔は穏やかだった。


湯場から帰った三人は夕方、仁景を訪ねていた。

「ほぅ、三人とも隊服、なかなか様になっているな。それに疲れも取れたって顔だーーそれで、ここに来たのはこれから何をすればって話か」

「はい、里が三河徳家様の影である事、対する龍隠が羽柴豊秀の影である事は承知しております。先ず最新の状況を知りたく。次に里の方針も伺いたく参りました」

纏、話し方上手だな‥三河家と龍隠、師範との繋がりが知れるかも‥。

「なるほどーー上忍となれば、この先数々の任務があるからな、いい心構えだーーよかろう、説明をするから三人はここへ座れ」

指示された居間に三人が座ると、その前に仁景がどっかりと座り込む。

「先ずは今の状況から入ろうーー天下人だった羽柴豊秀は一月前に死んでいる」

「えっ!?」

朱里が思わず声を漏らした。

「知らなかったのか?」

「山奥の村育ちだからなぁ」

茉莉が肩を竦める。

「今の天下は表向きでは秀次様。だが実際に政を動かしているのは摂政ーー狩野開成だ」

纏と茉莉の体が一瞬小さく震えた。

狩野開成‥確か龍隠の飼い主‥。

「開成は以前から三河様を、羽柴に対する危険因子と見ているから、羽柴家安泰を理由にして、これまでも裏で三河勢力の排除に龍隠を動かしていた」

三河勢力が排除対象‥やはり師範もその巻き添えに‥。

朱里は拳を握りしめた。

「そして三河様から里に対しては、この龍隠の暗躍を阻止せよと達しが届いている」

「つまり、これから三河様と羽柴勢の全面戦争になっていくと?」

纏が左右に座る茉莉と朱里を見た後に口を開いた。

「いや、未だそうはならないーー三河様は羽柴の重臣、五大老の筆頭。直接動けば謀反として、三河様を疎んじる大老達に、討伐の口実を与えるだけだ。そしてそれは開成も同じ、大義なく五大老筆頭を排除できないーーだから我々と龍隠、影同士の攻防になってくるだろうーーこれまでも龍隠による侵害を受けているが、その規模も拡大すると見ている」

「これまで以上の被害に拡大‥」。

そう言う纏に朱里が続く。

「それで里は?里の戦力はどうなんですか?教官」

「待て待て、もう同じ上忍なんだ、教官は止してくれ」

そう返した仁景の顔つきが険しくなっていく。

「正直足りていない。里に常駐している上忍は我ら四人のみーー他の上忍は地方治安と偵察で出払っているからな」

「って事は当面、僕ら四人だけかぁ」

「龍隠には幹部が四人いるんですよね」

「そうだ。四凶と呼ばれる四人の妖術使いがいる」

「妖術?」

仁景の回答に朱里がきょとんとしている。

「竜眼魔眼の事さ、妖術使いとも異能者とも言われているんだよ」

「そうか、朱里には未だ教えてなかったかーー後で私と茉莉から説明しよう」

「いずれにせよ、今の戦力ではこちらから打って出るのは危険だ。敵の出方に対処していくしかない。それが里の方針だ」

「承知した」

纏が静かに答えた。


その後、仁景と別れた三人は夕食のため食堂へと向かった。

「さっきの話、竜眼魔眼って何?」

食事を待つ間、朱里が口を開いた。

「竜眼魔眼ていうのは特別な眼の呼び名だよーー里なら白蓮様の眼が魔眼」

「えっ、白蓮様の眼が魔眼?」

「うん、白蓮様の眼は少し先の事が予見できたりするんだーーでも、そんなの普通の人には理解できない力だから、そういう人を妖術使いとか異能者とか呼んでいるのさ」

「そもそも稀な眼だ。そして魔眼よりもっと稀な眼が竜眼なのだが、稀すぎて魔眼より強い力という他は殆ど知られていない」

茉莉の説明に纏が言い足す。

「そう、確かに厄介な気はするけど‥でも何かもっとヤバいものかと思ってた」

「いや、ヤバいよ。今のは白蓮様がそうだと言うだけーー魔眼の力は一人一人別々、相手に触れず殺せるような魔眼もあるよ」

「触れずに殺せる?そんな事どうやって」

「できるんだ。何か精神攻撃のような類だと考えられているが定かではないーーただ四凶に襲撃されたところでは、体に傷も何ら異変もないのに、苦悶の表情をした変死体が幾つも見つかっている事実がある」

「そんな力ーーそれが真実だった時、対処法はあるの?」

理解が及ばず、朱里が纏に言い寄る。

「分からない以上、対策はない。使われる前に倒す、それだけだ」

「そうなるよね〜でも四凶なんて会わずに済むなら、そっちが一番かなぁ」

もしかして、道場を襲ったのは四凶だったのか‥。

漠然とした思いの中、三人の卓に夕食が届けられた。


項二 初任務


休暇を明けた三人に白蓮からの召集がかかった。

「三河様より書が届いた。龍隠が伊賀国当主藤松定次殿の暗殺に動き出している。其の方らは伊賀上野城へ赴き、龍隠が暗殺の阻止を命ずる」

隊服を着た三人の居る広間に、その声は響いた。

「承知」

左奥に並ぶ纏が迷いなく答える。

右隣の茉莉は黙ってそれを聞いていた。

纏が代表回答する事、座す順を左から纏、茉莉、朱里と年齢順にする事は、三人の決め事になっていた。

初任務が‥遂に覚悟を決める時が来たんだ。

「よい、表を上げい」

白い掛下に透かし柄の入った黒い打掛を着た白蓮が目に映る。

「各々隊服がよく似合っておるなーー其方らにはこれが初任務。心得ておると思うが、任務とは事を成し、生還してこそ完遂。それが影の縁、忍びの掟である。よいな」

「心得ております。我ら三名、必ずや期待に応えて見せましょう」

「任務の詳細はこの後、上忍部屋にて仁景より申し伝える」


「上忍部屋なんて僕、初めて入ったよ」

「隠し部屋なんだ」

「上忍専用の会議部屋らしいな」

三人は仁景に案内され、上忍部屋に入っていた。

「昨日話をしたばかりだったが、早々に任務が下されたなーーでは任務の目的を説明しておこう」

腰高の円卓を腰掛けが囲う。

その卓に四人が向かい合うように座っている。

「伊賀国当主、藤松定次殿の命が龍隠に狙われていると偵察隊より報告があった」

「龍隠に命を?」

「それはどうして?藤松様ってどちらかと言えば羽柴側の人間じゃないの」

聞き返す纏に茉莉も続く。

「表向きはな。だが三河様へ傾いてきている」

「寝返りを疑われたか」

「その通りだ、纏ーーおそらく伊賀上野城の中に敵の密偵が紛れ込んでいたんだろう」

「でも、それだけで暗殺されるのか?」

「朱里、龍隠は火種となり得るものは何も残さない。今回もそうだ」

茉莉と纏が黙り込む。

そうだった‥茉莉の家も、纏の家も‥師範だってきっと‥。

「この暗殺を我々が阻止すれば、藤松殿の三河様への信頼が盤石になる。そして里にとっても地元の安泰は願いたいところだ」

「でもさ、暗殺って分かっているなら、城の警備でも対応できるんじゃない?」

「いや、城が大っぴらに警備を固めれば密偵に悟られる。だから我々が行く」

「理解したーーして、その方法は」

「我々が護衛に入る事は藤松殿も了承済みだ。これを見せれば城内へ入れる。現地を視察し、最良の方法を以って龍隠暗殺部隊を排除してこい。最良方法は君ら判断に任せる」

仁景が纏に通門証と書かれた手形を渡した。

「承知した」


「う〜ん、確かに忍び装束と違って隊服はいいなぁ。こそこそ影を移動しないで済むから、こうしてお店でお団子も食べられるなんて最高だよ」

「えっ〜茉莉がお腹減ってもう動けないって言うから、仕方なく休んだんだよ」

「朱里君はまだまだだね〜こうして普通に紛れる事こそ隠密行動の極意なのだよ」

「ほぉ、それは脳天気の極意ではないのか」

「何だよ酷いなーー纏も朱里もホント真面目だな〜そんな事言うなら僕がお団子全部食べちゃうからね‥って、あれ?」

「何ですか?」

団子を頬張る朱里が、纏と目を合わせながら言う。

「何だよ!文句だけ言って結局二人とも食べてるじゃん」

その後、三人は街道を進み、伊賀上野城の城下町へと到着した。


「う〜ん、こうして町を回ってみても、普通の日常って感じだね」

「どういうやり方で暗殺をする気なんだろう」

「奴らの潜入手口から考えるかーー茉莉ならこの城、どうやって潜入する」

「堀も石垣もある城だからねーー僕が龍隠なら伝令とかに偽装して門を開けて貰う、開けてもらったら門番の首をチョンてね」

「チョンって何?」

「えっ朱里はチョンとか言わない?ーーこういう事だよ」

茉莉は水平に伸ばした手のひらを自分の首に当て、スッと横に引いて見せた。

「殺すの?門番は暗殺と無関係なのに」

「奴らにはそんなこと関係ないと思うよ。任務のためなら誰だって平気で殺すさ」

忍びってそういうものなのか‥それでいいのか‥。

「我々は殺される者の痛みを知っている、奴らとは違う‥少なくとも私はそう思いたい」

纏の言葉に対して、肯定も否定もできない自分がもどかしかった。

「私も茉莉と同意見だ。潜入は偽装して門か通用門、手分けして張り込むかーーんっ、どうした茉莉」

茉莉が通用門に向かって荷車を押す、商人一行をじっと見つめている。

「ちょっと待ってて」

茉莉は言って商人一行に駆け寄っていった。

「すみません!僕、旅しててーー地元の問屋さんですよね〜どこか安く泊まれる宿と美味しい食事処教えてくれませんか〜」

二人が見ている先で、茉莉は一行の先頭を歩く、商人風の男に話しかけていた。

「な、何だお前は?」

男は一瞬、後ろを歩く男を見たが、直ぐに向き直った。

「知らんな、そんな事、自分で探せ」

そう言い、茉莉の前を通り過ぎようとしていく。

「あれれ〜地元の人じゃなかったの〜」

男は振り返り、茉莉に見下すような目線を向けていた。

「我々は地元の商人ではないーーわかればさっさと消えろ」

「そうなの?この荷車にはこの町の、桔梗屋さんの屋号が入ってるのに?」

「何が言いたいんだ、お前は」

「御免なさい、怒らないでーー知ってるかなって思っただけだから‥ありがとう、じゃあね〜」

茉莉は朱里達とは反対方向の町中に姿を消していった。

ーーーーー。

商人一行が荷車を押しながら城の通用門に入っていくと、二人の背後から茉莉が現れた。

「探す手間が省けた。今の連中が暗殺部隊だよ」

「何で?どうして判ったの?」

「そうか、あの一行何人だったか‥入ったきり出て来ない奴がいれば、そいつらが実行役ということか」

「そうなるね。一行は七人だったから、何人出てくるかな」

「ちょっと待って!どういう事なのか教えてよ」

茉莉と纏の会話が理解できなかった。

「纏、ちょっと見張りお願いーー朱里、僕の義眼は人の気配が見えるんだよ」

「人の気配?見える?」

「そうさーー気配って感情で色が変わるんだ。焦りとか、嘘とかね。僕の義眼はその色が見えるんだよ」

何だかますますわからない‥。

「そんな顔しないでよ。要するにその人の嘘が見破れたりするって事さーーさっき僕が話しかけに行ったのはカマかけて、気配の色変わりを見ていたんだ。最後は見事に焦りの色に変わったよ」

「嘘がわかるのーーそんな人、初めて見た」

「いや、完璧にわかるわけじゃないよ。でも、かなり当たるかなぁ」

「だとして、どうしてあの商人が怪しいって思ったの?」

「そこは勘かな‥何となく会話が聞こえて、商人の話し方じゃないなぁって感じたからだよ」

「纏は知っていたんだよね」

「ごめん。出会った頃に纏には気づかれちゃってさ、その時に話したんだよーー朱里にもいつか話そうと思っていたんだけどね」

そうか、そんなことが出来るなんてーー未だ未だ私、見聞が足りてないな‥。

「ありがとう。話してくれて」

その直後、纏が二人の会話を手で静止した。

「出てきた」

三人の中に緊張が走る。

「五人だ、二人足りないじゃん」

「という事は実行役が二人という事?」

「正しくは最低二人だ。荷車に積まれてあった葛籠は相当大きい、あの葛籠なら中に二人くらい隠れられそうだからな」

さすが纏だ‥そこまで私、考えもしてなかった‥。

「やっぱ城内に密偵がいて、荷物検査とか手引きしていそうだね」

茉莉まで‥二人ともすごい洞察力‥ちょっと自信失いそうだ‥。

「そうすると暗殺決行は今夜になる?」

「ああ、今夜と見て間違いない」

「僕も同感。そうと決まれば僕らも城内に入って、部屋の配置とか見ておかないとね」

纏が門番に手形を見せると、三人は城内の客間に通された。

「城主様より、滞在中のお世話をするよう申しつかりました紗枝と申します。お食事は後ほどお運びいたします。そのほか何かあれば遠慮なくお申し付けください」

紗枝が退室すると、三人は武具を隠す布を解き、腰布を外した忍び装束で、天井板から屋根裏へ入って行った。


「持ち込んだ葛籠はあれか」

「そうだね、桔梗屋の屋号があるしーー僕が降りて中を確認するから、何かあったら援護頼むね」

三人は天井から物資置き場を覗き見ながら、小声と手振りで会話していた。

人の気配を確認して茉莉が降りていき、用心しながら葛籠の蓋に手をかける。

ーー纏と朱里が息を殺して見守る。

空だ‥。

葛籠の中には何も入っていなかった。

次に三人は護衛する藤松定次の居る天井裏へ進むと、部屋には定次が一人で政務をこなしていた。

「隣室に小姓も居るなーーここは私がいく。二人は周辺警戒を頼む」

纏が音も立てず、定次の前に降り立つと、定次は顔をあげ、薄笑みを浮かべた。

「本当にくのいちなのだな」

定次の声に小姓が太刀を持って参じるが、定次はそれを手で制した。

「この者は敵ではないーー龍隠にくのいちは居ない、だから敵味方はすぐに判るか‥三河殿の言う通りだったな」

「滅多な無礼、誠に恐れ多く存じ奉るーー本日夜に敵襲の恐れあり、この身に換えてもお守りいたします故、城主様に於かれましても、ご警戒のほどを願い度」

「頼もしいなーー聞いた通りだ、藤丸。心しておくよう」

纏に答えた定次が小姓へ指示を出す。

「ご配慮いただき有り難くーーそれではこれにて」

纏は屋根裏へと姿を消した。


日没前に三人は部屋に戻り、運ばれてあった食事を済ませると作戦会議に入った。

「敵は三人から四人。身代わり作戦はどうかな?例えば僕と朱里が、城主様と小姓に化けて襲撃を待つんだ。小姓が側にいれば敵だって二人以上で来る筈さ」

「三人目、四人目はどうするつもりだ」

「三人目、四人目が来たら纏が奇襲、だから三人目が来るまでは潜んでいてね」

纏と朱里が天井を仰ぎ見る。

「三人目までは一対一でいいけど、四人目の対応がちょっと曖昧な気も‥」

「それと合図も決めねばな」

「三人目が来たら、僕か朱里が笛で纏に奇襲開始の合図をするよ」

「分かった」

「本物の城主様と小姓はどうするの?」

「避難用の隠し部屋くらいあるだろうから、そこへ隠れてもらうーーだから纏の笛は小姓に貸してあげて。もし隠れ場所が襲撃されたら知らせてもらえるようにね」

纏が頷く。

「うん、分かった、それでやろう」

纏の横で朱里も頷いた。

ーーーーー。

「隠し部屋が有ってよかった。実はちょっとドキドキしてたんだ」

「城主様に作戦を引き受けて貰えてホッとした」

「ああ、全くだ」

城主に作戦を伝えた三人は、迎撃準備を進めていった。


項四 窮地


外は月明かり、時は子の刻。

城主部屋には定次に扮した茉莉が寝床に、小姓に扮した朱里がその側に座り、襲撃に来る暗殺者を待っていた。

来ない‥今夜襲撃ではなかったのか‥。

既に陽が落ちてから二刻ほどが経過している。

トントン。

その時、茉莉が布団から出した指先で、畳を叩く小さい音が聞こえた。

来たか‥。

神経を気配察知に集中させる。

障子に影らしいものが揺らぎ、静かに障子が動き出す。

「朱里!後ろだ!」

茉莉が寝床から飛び出すと、抜いた双剣で、朱里を背後から狙う影の刃を弾き返していく。

なっ!全く背後から気配を感じなかった‥。

朱里が振り向いた瞬間、障子が一気に開き、新たな影が朱里に切り掛かる。

咄嗟に抜いた長刀でそれを払い除けた。

「朱里、気をつけて!こいつらかなり手練れの刺客だ」

室内に刃のぶつかる音が幾度も響く。

「扇流連斬!」

踏み込んだ朱里の連撃が影を斬り裂き、朱里の顔と隊服が血飛沫で赤く染まった。

!!!。

直後、天井から物々しい音が聞こえ、天井から纏と別の影が同時に降り立つ。

「こっちも襲撃された!これは罠だ!城主が危ない!」

降り立った纏が、影の刃を避けながら叫ぶ。

「朱里は城主様の方へ行け!」

纏が叫んでも、朱里は立ち尽くしたままだった。

「朱里!何をしている!急げ!」

人を斬った刀の感触と返り血、朱里の手は微かに震えていた。

人が死ぬ‥私が殺した‥どうして殺した‥。

「朱里!しっかりして」

敵を斬り倒して茉莉が叫ぶ。

「朱里!」

叫んだ纏が苦無で三人目の敵を倒した直後だった。

部屋の障子が次々と踏み倒され、月明かりが差し込む部屋に、更に五人の刺客が乱入して、三人を囲んでいく。

最初に三人いた、今来た五人はどこから来た‥。

朱里に駆け寄った茉莉が、朱里の頬を平手で打ち据えた。

「今は戦う事だけに集中!泣き言なら後で聞いてやるから」

頬の痛みで朱里の目が見開いた時だった。

ピューーーー。

遠くから纏の笛の音が鳴り響いた。

「あの笛は私が藤丸殿に預けたものーー城主様が襲撃されている!くっ、ここまでか!」

纏が周囲を見回す。

「茉莉!朱里!目を伏せろ!」

纏が眼帯に手をかけ叫んだ。

「ダメだ!纏、この人数に使ったら‥」

「構うか!早くしろ!」

敵が包囲を狭めてくる。

「朱里、目を閉じて!絶対に開けちゃダメだからね」

茉莉と朱里が目を閉じるのを見た纏が、眼帯を外した。

月明かりに反射した銀色の眼が輝き、陽炎のように空気が歪んだ。

「ひぃ!やめろ!来るな!」

「違う!俺じゃない!許してくれ!」

「やだ!まだ死にたくない!」

三人を囲んでいた刺客たちが、次々と叫びながら震え始める。

硬く目を閉じた朱里だが、刺客の絶叫に耐えきれず、ほんの僅かに目を開けてしまった。

何、これ?‥。

異様な光景が朱里の目に飛び込んでくる。

その隙を突いて、茉莉が五人の刺客にトドメを刺していく。

「朱里!今は任務中なんだ。朱里がしっかりしないと城の人たちが死ぬ事になるんだよ!ーー僕は纏を連れていくから、朱里は早く城主様を助けに行って!」

朱里は茉莉に背中をドンと押され、部屋から弾き出された。

わかったよ、茉莉‥。

朱里は泣きそうな思いのまま、城主のいる隠し部屋へ急行していった。

「纏、大丈夫?」

右目を手で押さえたまま、膝をつく纏に茉莉が駆け寄る。

「ほら言わんこっちゃない‥」

茉莉は眼帯を付け直した纏に肩を貸し、隠し部屋へ向かい始めた。

ーーーーー。

隠し部屋の入り口が開いている!‥。

部屋に飛び込むと、まさに城主に刺客の刃が刺さろうとしていた。

「師範っ!!」

なぜそう叫んだのか分からない。

叫びながら朱里は二人の刺客を連撃していた。

「藤丸!しっかりしろ」

「すみません殿‥私がついていながら‥不覚をお許しください」

「もう喋るな、敵はくのいちが倒した、儂も無事だ、安心しろ」

血塗られた部屋に呆然と立つ朱里の側で、定次が負傷した藤丸を抱いていた。


「藤丸も死なずに済んだ。纏、茉莉、朱里と言ったか、大義であった。三河殿にもよろしく伝えてもらいたい」

定次は三人に礼を言うと、家臣を呼び寄せた。

「この方らを湯殿に案内してくれ。それと服の洗濯を女中へ、洗濯が終わるまでの浴衣もな」

治療や後始末が終わり、ようやく緊張が解けた頃、家臣に案内され、三人は湯殿にいた。

「いやぁ、いい城主様だね〜。ここ案内されなかったら、帰り道にどっかの川で行水と洗濯するようだったよ」

体についた返り血を洗い流した三人が湯船に浸かる。

「足を引っ張ってすまない」

「いいよ、みんな通る道だよ。殺すって勇気のいる事だからね」

「次は‥もう纏にあんな力を使わせないようにする」

「私の事なら気にしないでいい」

朱里は纏の眼帯を見た。

「あれは何だったの?茉莉は知っていたみたいだけど」

纏が深呼吸する。

「言うつもりも使うつもりも無かったんだがーーあれが私の魔眼だ」

「魔眼‥白蓮様と同じもの?」

「似たものだ。私の魔眼は見た者に幻覚を与える。しかし、使えばこっちも削られる」

「呪い返しって言うんだよ。纏の魔眼の事は、僕の義眼を打ち明けた時に知ったんだ。でも、呪い返しなんか有るから、使わないよう秘密にしていたんだよ」

「黙っていたのは済まなかったが、そう言うことだ」

「いや、私はそれで助けてもらった身だから」

朱里が俯く。

「はい!この話はもうここまで」


湯から出た三人は浴衣姿で、隊服が乾くのを待っていた。

「なんかさ、今回の作戦って、いつから敵にバレていたんだろう」

「葛籠を確認に行ったあたりで気づかれたのかも知れんな」

「敵は最初から僕らを足止めして、別動隊で城主様を暗殺する計画だったんだね」

「後から来た五人を城内へ手引きしたのも、隠し部屋を開けたのも密偵だろう」

「正直侮れない、龍隠ってあんな手練れがどれだけ居るんだかーー次はもっと上手くやらないとだね」

乾いた隊服に着替えた三人は、里への帰路についた。

殺さなかったら、代わりの誰かが殺される‥。

朱里の手には人を殺した感触が、記憶とともに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ