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くのいちアイズ  作者: 阿久理ヒロミ


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立志編 第一章 望まぬ試練 節三 選抜試練

項一 鍛錬


正式な鍛錬開始から五ヶ月が過ぎようとしていた。

仁景の指導には容赦が無く、纏、茉莉でさえ厳しい中、慣れない朱里にとっては正に血を吐くような日々だった。

「大丈夫?立てる?朱里」

「‥だい‥じょうぶ‥ありがとう‥」

纏と茉莉の肩を借りて何とか立ち上がる毎日。

それでも折れない朱里に、纏も茉莉も惜しまず手を貸し続けた。


鍛錬開始から半年が過ぎていた。

「最終鍛錬の結果を伝えるーー三人とも上出来だ。特に朱里、一からここまでよくぞ耐え抜いたーーそして支えた二人も見事だった」

「やったぁ!やったね纏、朱里」

茉莉が二人に抱きつく。

「ああ、やったな」

纏が照れ笑いを浮かべる。

「うぅ‥みんな‥ありがとう」

涙声で朱里が言う。

「やだ‥やめてよ朱里‥移っちゃうじゃないか‥」

茉莉の左目から涙が流れていった。

「良かったなーーと言ってやりたいところだが未だだ。漸くこれで基礎が出来たに過ぎない。選抜試練を突破できなければ意味はないぞーーそして実戦でそれが使えた時こそ褒めてやる」

纏と、涙を拭う二人が頷いた。

「それで私の所感だがーーまず纏、お前は一番冷静だったから分析、制御向きだな。そして茉莉、お前は一番身軽だから潜入向きだ。最後に朱里、お前は武具の通り戦闘向きだ」

頷いた三人を見ながら話が続く。

「だから実戦では茉莉が潜入諜報、纏が分析、朱里が突入撃破、そんな感じだろうーーそして戦闘では纏が外郭から苦無で攻撃、茉莉が陽動と双剣で敵の撹乱、朱里が突入して標的を撃破、そういう絵が見えたな」

私は突入撃破‥剣戟乱舞なら扇流の真髄でもある。

そう思っているところへ、仁景が近づいて来た。

「朱里、お前のこの長刀だが、さすがに今のままでは潜入潜伏時に問題があるーーぶつけて音を出さないよう注意しているのが見ていて分かったーー斜めに背負うのではなく、こうやって左半身へ垂直に背負ったらどうだ」

仁景は朱里が斜めに背負っていた長刀を外し、左肩から真っ直ぐ垂直に掛け直していく。

「なんかいい感じだよ朱里‥うん、これなら刀が体からはみ出してないよ」

「確かに教官の言う通りだ、次はそれで試してみればいい」

「ありがとうございます、教官」

達成感が三人の心を満たしていた。


三日後、三人は白蓮に呼び出され、揃って屋敷に居た。

「鍛錬、難儀であったな」

三人は白蓮に頭を下げた。

「明日早朝より、三人には選抜試練を受けてもらう。不合格となった場合は二日後が再試練となる。再試練でも不合格であれば、この三人での編成は見送りとなる、心して臨むように」

ーーーーー。

「なんかさ〜白蓮様って絶対に人を脅しているよね〜」

「そんな筈なかろう、本気でいけと言っているだけだ」

「うん、そうだよね、全力出し切るだけ」

「ねぇ、二人共‥なんかその本気感、ずっとやってて疲れないの?」

纏が茉莉を横目で見る。

「‥‥‥そ、そうだ!明日は大変だから、今日はしっかり休んでおかなきゃね」

「うん、そうだね、武具の手入れもしておかないと」

「そう言う事だ、茉莉」

「はい‥」

三人は自室に帰って行った。


項二 個別試練


「ではこれより纏、茉莉、朱里、三名の選抜試練を行う。選抜試練は個別試練と連携試練の二つ。どちらも試練場に居る審判全員の合格が条件である。最初の個別試練は纏、茉莉、朱里の順で受けてもらう。半刻後に纏より開始、それまで各々準備をしておくように」。

鍛錬所の建屋前で進行役を務める仁景が開催を宣言した。

大丈夫‥やってきたことを出し切ればいいだけ‥剣術大会と同じだ。

ーーーーー。

「纏、個別試練、始め」

最初の試練は武術。

剣術と槍術は制限時間内に数カ所の的を斬撃、弓術と苦無投擲は的の射抜きである。

二番目の捜索は屋敷内に隠れた書状を制限時間内に発見する事。

三番目の索敵は敵役の潜入痕跡より潜伏場所を制限時間内に発見する事。

四番目の潜入は痕跡を極少に抑え、屋敷内に潜入する事。

五番目の潜伏は潜入場所から移動しながら室内にいる敵役を発見する事。

そして五試練終了後に、五人の審判員が手にした紅白の旗を上げ、赤旗なら合格、白旗なら不合格となる。

審判員各自の合否判定は減点方式で、五試練平均九十点以上なら合格、未満なら不合格、仮に一つの試練が八十五点であった場合でも、別試練で九十五点以上取れていれば救済される仕組みである。

ーーーーー。

「個別試練ーー纏、判定を」

仁景の声で集まった審判員五人が同時に赤旗を上げた。

「纏ーー赤五、合格」

一礼した纏が控え場に戻ってきた。

「やったね纏。次は僕だ、行ってくるよ」

ーーーーー。

「茉莉ーー赤五、合格」

「よし!やったよ!ーー朱里、いつも通りやれば大丈夫だから」

深呼吸した朱里が控え場を出ていく。

ーーーーー。

「朱里ーー赤五、合格」

「おめでとう朱里、これで全員、個別試練突破だよ」

「うん、刀の付け方を変えたのが良かったみたい」

「安心は未だ早いぞ。次は三人での連携試練、こちらこそが本命だ」

「そうだね、まずは任務の内容見てから作戦会議だね」

息を整えながら朱里も頷いた。


項三 連携試練


「では次、連携試練を行う、指示書と試練用武具を渡すので代表はこちらへ」

暗黙の了解、纏が前に出ていく。

仁景が指示書と三人の武具、長刀、短刀二本、苦無十本を纏に渡す。

「この武具に刃は無い。その代わり斬られた者には斬り跡として染料が付くようにできている。付着した染料で致命傷と判定された場合、または二ヶ所以上に付着がある場合は即不合格となるから、注意されたしーー開始は半刻後とする」

纏から各々武具を受け取った三人が指示書に見入る。

=日没までに敵の館に囚われし、密使を救出せよ=

「ん〜指示書って初めて見たけど‥これだけ?敵の館って何処さ」

「まずは捜索からという事だろうな」

「この鍛錬場の中で館って‥私は二ヶ所しか知らないけど」

三人が口々に話し出す。

「おそらく二ヶ所で合っている‥目の前の建屋と、山向こうにある建屋だ」

「館じゃないけど、森の中に蔵みたいやつも無かったっけ?」

「日没までという縛りもあるなら、手分けして探す?」

三人の間で沈黙の時間が過ぎていく。

「手分けすれば効率的だが、発見時の合図が難しい、この山の中では狼煙玉を打ち上げても見えないだろう。そして任務が救出となれば敵との戦闘は十分想定内だーー私は分散せず三人で近場から潰していく作戦がいいと考える」

「そっかぁ、確かに見つけて狼煙玉を上げても、木々が邪魔して見えないなぁ。中間地点で再合流してから発見現場へ全員で行くってなれば、それはそれ非効率だよね」

「私は纏の意見に賛同する」

三人が頷き合う。

「じゃあ纏の作戦で‥あと決めておく事はあるかな?」

「狼煙玉を緊急信号として使うのはどうだーー敵に遭遇とか、応援が必要な場合に打ち上げる、近くなら見えるはずだ」

「そうだね〜狼煙玉は識別色で作られているから、誰の狼煙かもすぐ分かるしね、僕は賛成」

「私も賛成するーーそれで遭遇時の手順はどうする?」

「現段階では敵の存在も配置も不明だから判断はできない、臨機応変になるだろう。基本的には鍛錬時と同じ、陽動、撹乱、突破でいい」。

「じゃあ、そんな感じで」

臨機応変か‥正しく試練だな‥。

朱里は意を決した。


半刻が経ち、連携試練が開始された。

「捜索完了後は全員ここで再合流、情報共有してから作戦を決め突入する」

三人は頷き合うと、建屋の裏手から纏、右方から朱里、左方から茉莉が潜入を開始した。

見つからない‥というより居ない‥。

捜索を打ち切り、合流地点ヘ向かうと纏も茉莉も既に到着していた。

「朱里の方はどうだった?僕と纏はハズレだったよ」

「同じくハズレだ」

「次、近い順なら森の中の蔵かーー林道は一本道だから森の中を進むぞ」

仁景教官の言った通り、司令塔はこの人が適任だ‥。

ポンポンと指示を出していく纏の背中を朱里は見ていた。

「あれれ、蔵のくせして人がいるじゃん」

「いるね。こんな小さい蔵なのに何しているのだろう」

三人が樹上から、塀に囲まれた蔵と周辺の様子を確認していく。

「茉莉、頼めるか」

「任せてよ、発見したら狼煙玉上げるからね」

「分かった。狼煙玉が上がったら私が陽動する、その隙に朱里は蔵へ突入、茉莉は朱里の突入を待って密使の確保だ」

茉莉が要領よく木から蔵の裏手へ移動し、中へ入って行った。

私が突入するのはあの扉か‥。

「茉莉!」

纏の目線の先には蔵の屋根に躍り出た茉莉と、それを追っている敵がいた。

「罠だ!私が茉莉を救助に行く、朱里は降りて退路の確保を頼む、撤収優先だ、深追いはしないでいい、頼んだぞ」

纏は茉莉の侵入路をなぞるようにして蔵へ移動していった。

退路‥この林道だなーー二人が来るまでこの門で敵を引きつける。

煙玉を蔵の門へ投げ込むと、煙が風に乗って蔵の敷地内へと流れていく。

「こっちにもいるぞ」

門から敵が次々と飛び出し、朱里が長刀を引き抜き、構えに入る。

深追いはしないように‥。

次々と襲いくる苦無と刀を捌きながら、長刀が敵を討ち取っていく。

「朱里!」

茉莉を救助し、蔵から降りた纏が、朱里を狙う弓兵を苦無で倒しながら駆け寄ってくる。

「一旦引くぞ」

纏と茉莉が林道入り口で煙玉を爆ぜさせると、三人は煙に紛れ、林道へと走り込んで行った。

ーーーーー。

「大丈夫か茉莉‥」

「待ち伏せされてたーーごめん、一発もらっちゃった」

そう纏に答えた茉莉の左肩には白い線が一本付いていた。

「蔵の中に居たのは伏兵だけだよ、密使は居ない」

「居ない‥そうか、分かったーー日没も近い、次へ行こう」

三人は山向こうの建屋へと向かった。


「入り口に門番が二人、小さな建屋が一棟だけみたいだね」

三人で塀に囲まれた建屋を樹上から確認していく。

「内偵は私が行こう、狼煙玉が上ったら茉莉が陽動開始、その隙に朱里は建屋入り口を突破し、密使のもとへーー朱里が敵攻撃を引きつける間に、私が背後から密使を救出するーー好機を逃すと、密使を人質に逃げられるから速攻連携こそが鍵だーー質問はあるか」

「いいよ、それで行こっ」

「分かった」

茉莉と朱里が配置に就いたことを確認した纏が、移動を開始、明かり取りから建屋へ侵入していく。

茉莉と朱里が息を殺していると、屋根の上に黒い狼煙玉が上がった。

「一、二の三で入ってきて!」

苦無で門番二人を倒した茉莉が敷地内へ切り込んでいく。

敵が建屋の中から次々に現れ、弓兵が矢を一斉に放ち始めた。

一、二の三!よし!。

朱里が突入を開始すると、先行した茉莉は矢の強襲を受けている真っ只中だった。

!!まずい、茉莉はすでに一発もらっている‥このままでは二発目が!。

咄嗟に進路を変え、弓兵隊背後から切り込んでいく。

どうした‥なぜ突入して来ない朱里‥。

外の騒がしさに気づいた見張り隊が、密使を逃し始めた。

「僕は大丈夫だから早く突入して!」

叫ぶ茉莉を見た朱里が建屋へ突入する。

くっ!間に合わない!。

見張り隊に苦無を放ち、密使から離れた隙に纏が降り立つ。

突入した朱里が見張り隊から足止めを受けているうちに、密使と纏に大網が投げられ、密使を庇った纏が大網に囚われた瞬間、弓兵達が纏を狙い撃つ。

朱里が見張り隊を突破した時、部屋に密使の姿は見えなくなっていた。

「そこまで!」

室内に審判の号令が響き渡った。


項四 一筋の光明


「連携試練、茉莉負傷一、纏負傷二、よって不合格ーー二日後の再試練が最終である。本日の課題を見極め、悔いなきよう再試練に臨むように」

ーーーーー。

「私が連携を崩したせいだ‥本当に済まない‥」

両手両膝をついた朱里の目から涙が滲んでいる。

「‥いや、もういい、過ぎてしまった事だ‥」

纏の目からも覇気が消えていた。

「なんて言うかさ‥悔しいんだけど、まだ終わってないよーー言われた通り課題を見つけて立て直そうよ、こんな事で僕は諦めたくない」

茉莉の声が沈んだ空気に吸い込まれていく。

ーーーーー。

「誰のせいでも無いんだよ、僕らは一蓮托生のはずでしょーー皆んな全力だった、纏の指示だって正しかった、朱里の判断も臨機応変の内だよーー何が足りなかったのか話そうよ、皆んなで話し合おうよ」

ーーーーー。

「すまない‥茉莉の言う通りだったなーーもう自分自身を責めるのはやめよう、だから朱里も顔を上げてくれないか」

纏が朱里の肩に手をかけた。

「うん‥そうだよね‥」

涙を拭い、立ち上がると顔を上げた。


三人は里へ戻り、食堂にいた。

「聞いたぜ、惜しかったなぁ、再戦頑張れよな」

「え〜銀次らしくない、同情なら要らないよ」

「何だよ、お前って何言っても噛みつく奴だなーー別に同情なんかしてねぇよ、俺だって連携試練は二回目で合格だったからな」

「‥‥えぇ〜!銀次って上忍だったの!」

「何言ってやがる!今更!ずっと来ていて何で知らねぇんだよ、殺すぞ」

「知らないよ!だって銀次、僕がここに来た時からご飯作っていたじゃん」

この二人の掛け合いって、いつもこうだなぁ。

重い気持ちが少し和むようだった。

「失礼だが、それは私も知らなかった‥良ければ選抜試練当時の話を聞きたい」

「いいぜ、べっぴんの頼みじゃ断れねぇしな」

「ちょっと銀次、僕とずいぶん態度が違うんじゃないか」

「お前はお前だろ、気にすんなーーそれに何でもいいから手掛かりが欲しい、そうなんだろ?纏さんよ」

「すまない、その通りだ」

銀次が三人の卓に座り込んだ。

「仁景、涼真、俺の三人が選抜試練同期だったーー涼真は病死、俺は左足負傷で離脱、組は解消になり、上忍として残っているのは守備隊長の仁景だけだ」

銀次が三人を見ながら話を続ける。

挿絵(By みてみん)

「馬は合っていたぜ、仁景の刀、涼真の槍、俺の弓。それなのに連携試練の結果はボロボロ、責任の擦り合いみたいになってよ、そりゃ険悪になっちまったーー技量に不足はなかった、結論は簡単な事だったぜ、慢心と段取り不足だったわけさ」

「慢心と段取り不足‥」

三人が顔を見合わせた。

「要は誰もが自信過剰で、何かあっても自分なら切り抜けると思っていた、もっと言えば自分以外は仲間すら信用しきれていなかった、それが慢心ーーだから何かあった時はどう知らせるとか、どう動くとか、そんな連携手順もろくに考えず、全て臨機応変で片付けていた、それが段取り不足って事さ」

三人の目が見開いていく。

「僕、初めて銀次をかっこいいと思った」

「思い当たる事だらけだな」

「ここからなら私の部屋が一番近い、そこで話し合おう」

三人が席を立つ。

「俺が助言したんだ、頑張れよな」

銀次に礼を言い、三人は食堂を出て、朱里の部屋へ向かった。


項五 再試練


「これより纏、茉莉、朱里の連携再試練を行う」

指示書と試練用武具を受け取った纏が戻る。

「開始は半刻後とする」

三人が指示書に見入っていく。

「あれれ、日没までに密使を救出って前回と同じじゃん」

「密使のいる場所や敵の配置が違っているのだろう」

「今回も分散しないでいく、だよね」

「そうだ、前回は罠もあった、分散すれば各個撃破される危険があるからな」

朱里に纏が答える。

「連携と合図は決めた通りでいく」

「三人で一つ、一蓮托生だよ」

「お互いを信じ合って戦おう」

三人は手を重ねて頷き合った。

ーーーーー。

「では連携再試練、始め」

一番近い建屋の裏手へ三人が向かう。

部屋数も多い、鍛錬所の中で一番大きい建屋である。

中央へ朱里が、右手へ茉莉が、左手へ纏が、同時に建屋へ潜入を開始した。

今回もここはハズレか‥。

ピュ〜〜。

思った瞬間、朱里の耳に勘高い笛の音が聞こえてきた。

この音色は纏ーー密使は左か!。

建屋内でも笛の音に気づいた敵が、動き始めたのがわかる。

ピィ、ピィ。

続いて音色の違う笛の音が、今度は二回聞こえた。

茉莉の音色。

茉莉が陽動を開始していた。

天井裏から伺う、下の様子が慌ただしくなっていく。

茉莉、頼んだ!。

ピョ、ピョ。

朱里は笛を二回吹き鳴らすと、天井裏から下へ一気に降り立ち、長刀を抜いて、左側の部屋へ突入した。

もっと奥か!。

部屋を突き進み、三部屋目に突入したところで敵の放った矢が眼前に迫る。

「扇流連斬!」

連射された矢を一気に弾き落としていく。

その奥では見張り役が密使を連れ出そうとしていた。

逃すか!。

朱里が笛を短く三回鳴らす。

直後、見張り役の背後に纏が降り立ち、見張り役を苦無で倒していく。

纏が密使を確保すると、朱里が敵陣へ切り込んで突破口を開き、建屋の外へ向かう。

纏が笛を長く二回鳴らす。

その笛の音で茉莉が合流、朱里と茉莉で退路を開くと、煙玉を次々と爆ぜらせ、一気に敷地を突破していく。

朱里と茉莉が殿となり、追っ手を食い止めるうちに、密使を護衛した纏が遠ざかる。

追っ手に囲まれる中で、長い笛の音が三回聞こえた。

朱里と茉莉は残った煙玉を全て爆ぜらせ、一気に建屋から撤収していった。

「そこまで!」

審判の号令が野外に響き渡る。

ーーーーー。

「連携試練任務達成、茉莉負傷一、朱里負傷一、纏負傷一、よって合格」

仁景の声に煤だらけの三人が抱き合う。

「よくやった」

鍛錬中、鬼のようだった仁景が微笑んでいた。


銀次から助言をもらった三人はあの日、朱里の部屋で話し合っていた。

問題だったと思う事を出し合い、意識や動きを確認し続けた。

連携失敗の要因は意志を伝達する手段が乏しく、自分への過信と、仲間に対する老婆心が生まれた結果、独自で判断、行動してしまったと結論したのである。

「狼煙玉だと使える条件が狭いし、でも言葉じゃ聞こえないし、敵にもバレちゃう、それで考えたんだけど笛ってのはどう?」

「笛だって敵に気づかれるだろう、それに細かい意志伝達も難しいと思うが」

「気づかれるけど意図はバレないよ、細かい意志伝達だって約束事を作ればやれると思うんだ」

「具体的にはどんな事なの?」

「例えば今回の試練なら、行動として発見、陽動突入、確保、撤収、完了ってこんな感じで、そこに三人の役割と配置を決めればいいんだよ」

二人が茉莉の説明に聞き入っている。

「配置は纏が左方、朱里が中央、僕が右方みたいにね。役割は発見者が護衛、発見者から遠い方が陽動、近い方が突入。もし発見者が中央なら朱里が突入優先、僕が陽動優先ってさ」

纏が腕を組んで天井を仰ぎ見ている。

「最後に笛は三人で別々な音色に決めておくんだよ。そうして発見なら長く一回、突入と陽動は短く二回、確保は短く三回、撤収は長く二回、完了は長く三回と覚えさえすれば、音色で誰が、配置と笛の鳴る回数で場所と役割が、分かると思うんだ」

朱里も天井を見上げ出す。

ーーーーー。

「凄いよ、茉莉、こんな事よく思いついたね」

「全くだ、恐れ入ったな、これは」

「えへへーー後は気持ちの問題、一人じゃ勝てない、死ぬ時は一緒の一蓮托生って、三人の意識が揃えばいけるんじゃないかなぁ」

茉莉はそう言って照れ笑いしていた。

再試練前日は、三人で笛を使った連携を何度も何度も覚えるまで練習をし、再試練に臨んだ結果だったのである。

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