第244話 新しい流れ
朝。
光が水面に落ちる。
反射する。
そして。
――わずかに、揺れた。
誰もすぐには気づかない。
だが。
確かに。
“動いた”
エレノアは水路の縁に立っている。
ネファルが言う。
(……来たな)
ラグナが言う。
(今、動いたな)
ヴェルナシアが囁く。
(細い)
エレノアは水面を見る。
変わらないように見える。
だが。
一点。
ほんのわずかに。
波紋が続いている。
消えない。
「……そこですね」
小さく。
指差さない。
触れない。
ただ。
見る。
リゼルが言う。
「……何が」
エレノアは答える。
「流れです」
短く。
リゼルが水を見る。
動かない。
だが。
次の瞬間。
「……」
息が止まる。
見える。
ほんの細い。
線のような動き。
水の中。
“通っている”
ネファルが言う。
(分離したな)
ラグナが言う。
(新しく作ったか)
ヴェルナシアが囁く。
(繋がらない)
エレノアは頷く。
「……繋げていません」
リゼルが言う。
「何を」
理解が追いつかない。
エレノアは続ける。
「避けています」
沈黙。
ネファルが言う。
(既存の流れを使っていない)
ラグナが言う。
(ぶつけてねぇ)
ヴェルナシアが囁く。
(横)
エレノアは水面を見る。
「……壊れている流れに」
間。
「触れていません」
リゼルが言う。
「そんなことが」
否定が出ない。
言葉が続かない。
エレノアは静かに言う。
「……通します」
それだけ。
風がわずかに動く。
水面が揺れる。
今度は。
はっきりと。
だが。
細い。
途切れそうな。
“新しい流れ”
ラグナが笑う。
(いいな)
ネファルが言う。
(干渉していない)
ヴェルナシアが囁く。
(通る)
その時。
水面が歪む。
強く。
昨日の波とは違う。
一点に集まる。
そして。
形になる。
輪郭。
崩れない。
揺れている。
だが。
保っている。
リゼルが息を呑む。
「……出ている」
ネファルが言う。
(引かれているな)
ラグナが言う。
(あいつが寄ってる)
ヴェルナシアが囁く。
(呼ばれている)
エレノアは言う。
「……セレイア」
水が応じる。
揺れる。
逃げない。
そして。
声。
「……ち……が……」
止まらない。
「……う……」
続く。
ラグナが笑う。
(繋がったな)
ネファルが言う。
(安定してきている)
ヴェルナシアが囁く。
(まだ)
エレノアは動かない。
ただ。
そこにいる。
そして。
言う。
「……ここです」
短く。
セレイアの輪郭が揺れる。
だが。
消えない。
「……こ……こ……」
繰り返す。
リゼルが震える声で言う。
「……覚えている」
小さく。
信じられないように。
ネファルが言う。
(断片だな)
ラグナが言う。
(でも来てる)
ヴェルナシアが囁く。
(流れる)
エレノアは頷く。
「……戻していません」
間。
「作っています」
沈黙。
リゼルが水を見る。
新しい流れ。
古い流れ。
繋がらない。
だが。
共にある。
「……そんなことが」
否定できない。
もう。
目の前にある。
その時。
セレイアが言う。
「……も……ど……」
止まる。
揺れる。
だが。
続く。
「……ら……な……い……」
沈黙。
エレノアは答える。
「はい」
短く。
否定しない。
「戻りません」
そのまま。
受け取る。
そして。
続ける。
「……でも」
間。
「ここにあります」
水が揺れる。
今までで一番。
はっきりと。
流れが続く。
細い。
弱い。
だが。
止まらない。
ラグナが言う。
(いいじゃねぇか)
ネファルが言う。
(十分だ)
ヴェルナシアが囁く。
(始まり)
リゼルが呟く。
「……流れている」
小さく。
信じるように。
エレノアは水を見る。
まだ。
弱い。
だが。
確かに。
そこにある。
新しい流れ。
壊さず。
戻さず。
それでも。
進む。
水は。
少しだけ。
流れ始めていた。




